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173.怒ると恐そうだしな、アリアは

 開拓を始めた当初と比べると、聖竜領の農地はとても大きくなった。

 とはいえ、規模が拡張されているのは西側の農家向けの農地であり、領主の館周辺の畑はそれほど変わっていない。


「だんだんとここも村らしくなって建物も増えてきましたし、屋敷前とは別に私が面倒を見る畑が必要になると思うんですよー」


 屋敷前、秋の収穫を控えて広がる畑の中を、俺はアリアと共に歩いていた。俺はこの辺りに設置した魔力供給の魔法陣の確認、アリアは畑の様子見でたまたま一緒になったいう流れだ。


「たしかに。領内の一等地を畑のままにしておくわけにはいかないだろうな」


「ですよねー。私が色々試す畑はやっぱり必要だということでサンドラ様も承知してくれていますので、川向こうの森側に畑を作ってもらおうかとー」


 現在のアリアは庭師ではなく、聖竜領の農地管理者のような立ち位置になっている。この辺りは聖竜様や俺の影響で土地自体に不思議な力があるので研究できる環境は必須だ。

 食糧供給の重要性は身に染みている俺である、アリアの言うことを否定する理由は無い。


「川向こうの森近くとなると、屋敷から少し遠くなるな。いっそ、アリア用の家があってもいいんじゃないか?」


「あ、それを言われると欲が出てしまいますねー」


 言いながら立ち止まったアリアは、アブラナが植わった一画に視線を向けた。春先に黄色い花を沢山咲かせていた印象的な区域である。


「ここで油も生産するのか?」


「お試しですねー。聖竜領の土で作った油を料理に使ってみたいとトゥルーズさんに言われたものでー」


 満足そうに畑を見据えた後、アリアは再び歩みを再開した。なんでも彼女は時期がくれば種を口に含んだだけで収穫時期かどうか判断できるそうだ。水分量で判断するそうだが、クアリアでも珍しい熟練の農家の技らしい。


「農地の様子見と水路の点検と忙しくなりましたねー。私も同僚とか欲しくなりますー」


 にこやかに言うアリアだが、少しだけ困った様子が口調に混じっている。


「農家の誰かに教えるか、クアリアから人を派遣して貰うか、いっそそういうメイドでも呼ぶかだな……農業メイドとかいそうだと思わないか?」


「あはは。いそうですねー。でも、噂好きのメイドさんはちょっと困りますねー」


「ロイ先生との関係のことか?」


 ちょっと悩んだが、思い切って聞いてみた。最近、そちら関係で動きが著しいと聞いている。


「直接聞かれちゃいましたかー。まぁ、なんといいますか、熱心すぎるメイドさんがいたから、ちょーっと怒ったんですよー」


「アリアも怒ることがあるんだな」


「個人の事情ですからー」


 俺の感想に対する返事にいつものように明るい口調が返ってきた。しかし、よく見るとその目は笑っていない。なんか、怒ると恐そうだしな、アリアは。怒られたメイドも心に軽い傷くらい負ったかもしれない。


「アルマス様、今の私との話、ロイ先生に話しちゃいますかー?」


「相談されれば何か言うが、俺はそういうのは苦手だしな。直接話せと言うよ」


 話題に出した時の反応から察するに、アリアもロイ先生のことを好ましく思っているように感じる。実際、リーラ経由でたまに入る状況報告だと年々少しずつ仲良くなっているのでそういうことなのだろう。


 そして、俺はこの手の話には余計な干渉をしない方がいいと思っているタイプだ。魔法でも力でも解決できないからな。


「安心しましたー。ちょっとびっくりしましたんで。アルマス様、そういうのに気づかない方かとー」


 失礼な、とは言えなかった。実際気づかない方だ。今回は出会った時から情報として入っていたから把握しているだけである。


「情報収集は戦場の鉄則だからな。とはいえ、得意じゃ無い。妹にそういう相手ができても気づかない自信があるな」


 考えてみれば由々しき問題だ。もうすぐアイノが帰ってくるのだから、そういう想定外の事態が起きることだって十分ありうる。なんだか不安になってきた。


「妹さん、帰ってくるんですねー。ぜひともお会いしたいですー」


 アリアが俺の顔を覗き込んできた。表情から本当に楽しみにしてくれているのが伝わって来て、なんだか嬉しくなる。


「そうだな。もうすぐ帰ってくる。秋の終わり頃……、早ければそのくらいだ」


 アイノを救う魔法については今日も屋敷に泊まってロイ先生と相談する予定になっている。もう完成も近い。


「時期が決まったら教えてくださいねー。歓迎の準備をしますのでー」


 なにかの作業をすることにしたんだろう、手袋を取り出しながら、輝くような笑顔でアリアはそう言ってくれた。


「歓迎会か。俺も一緒に準備をさせてもらうよ」


 アリアにそう返しつつ、彼女の後ろに広がる風景に視線を移す。

 秋の収穫を待つ作物が風に揺れている。多分、今年も豊作だ。

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