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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十三章『遅れて来たえらい人』

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169.その言葉と共に、第一副帝ノーマは軽く頭を下げた。

 森での視察が終わり、聖竜領内を一通り回り終えると夕方になった。

 夏ということもあり、まだ明るい。俺達は屋敷に帰らず、広場に居た。

 工事のための資材が積まれた広場の一画、そこだけ綺麗に整備された聖竜様の像が目的地だ。

 今は涼しい時間帯になったということもあり、夕食前の一服ということで同行していたメイドが準備してくれたお茶などを飲んだりしている。


「……というわけでノーマ様は生まれた頃から両親それぞれ出身勢力から期待された存在なので。どちらからも大切にされた故に、若い頃から難しい決断を幾度も迫られておりました」


「生まれた時から板挟みか。想像もつかない大変な立場だな」


 俺はというと、何故か第一副帝の執事から彼の身の上話を聞いていた。

 少し離れた場所ではサンドラと第一副帝が真剣な顔で情報交換をしている。政治的な話にはあまり関わりたくないので避けてみたら、なんとなく執事と雑談が始まったというわけだ。

「子供の頃は微笑ましいものでしたが、利権が絡む第一副帝になられて以降は本当に苦労しております……」


 内容は外で話しても問題なさそうな、思い出話だ。それでも、第一副帝ノーマが幼少の頃から「どちらの勢力をたてるか」の決断であったことが推察できた。というか、うかつに玩具一つも貰えない少年時代に思える。大変だ。


「そういう環境の中で、リリアの存在は特別だったということかな?」


「その通りでございます。リリア様はどの勢力にも属さない上、ノーマ様が産まれた時から領内で仕事をしておりまして。たまに会うととても良く面倒をみてくれたのです。時には姉、時は教師。第一副帝になってからは頼れる同僚……といったところでございます」


「それであの反応か」


 納得がいった。控えめに見ても特別な感情を持っても仕方ないだろう。

 後でリリアにはちゃんと話し合った上であんな体にした責任をとってもらうとしよう。

 そんなことを考えながら、お茶のカップを口元に運ぶ。

 

「まったく。何を話しているんだか」


 声に反応して見てみれば、ノーマが俺の方に向かって来ていた。すぐ横にサンドラ、後ろに控えたリーラは小さな箱を持っている。あれはこれから使う聖竜様への捧げ物だ。


「すまない。昔話を聞いてしまった」


「気にしていないよ。よくあることだ」


 よくあるのか。執事の方を見ると顔を逸らして遠くを見ていた。雑談するときの持ちネタなのかもしれない。


「色々と大変な立場にあることはよくわかったよ」


「そうして産まれて来たからな。最善を尽くすまでだ。ささやかだが、自分が即位してから領内で騒乱が一度も起きていないのが自慢だ」


 胸を張ってそう言い切ったノーマの顔はたしかな自信に裏付けされたものだった。疲れ果てていなければ、なかなか立派なものだ。


「ノーマ様はささやかと仰いましたが、わたしは素晴らしいことだと思いますよ」


 サンドラがお世辞抜きの笑顔でノーマを讃えた。帝国の歴史を見れば、彼の領地は治めるのが難しい地域なのだ。それを知るからだろう。


「褒めても何も出せないぞ。皇帝や第二副帝と違って、うちは金も人もいないからな」

 

 冗談交じりにそう言うと第一副帝は表情を引き締めた。


「そろそろ聖竜に贈り物をしたいのだが、良いだろうか?」


「む……今確認する」


『どうですか?』


『なにが貰えるんじゃろうなぁ。ワクワクするぞい』


 よし、大丈夫そうだ。


「問題ない。さっそく石像のところに行こう」


 俺はカップを置くと、全員を先導するように石像の前へと誘うのだった。


「ところで、その箱の中身を聞いてもいいだろうか?」


 石像前、リーラから箱を受け取ったノーマは俺の問いかけに笑みを浮かべた。


「勿論だとも。噂では聖竜は甘い物が好きだそうだから、領内で保存がきく上で美味いものを寄りすぐってきた」


『アルマス、早く早く』


 いきなり催促が来た。一応、怪しいものじゃないか確認しただけなのに。


「その瞳の色、聖竜が近くにいるということだな」


「ああ、今の会話を聞いて喜んでいるようだ。では、頼む」


「お、おう……うわっ」


 促され、ノーマが石像前に捧げ物を置くと即座に石像が光って箱が消えた。

 多分、『美味いものをよりすぐって来た』のあたりが効いたんだと思う。


『うわ、これは凄いのう。まるで宝石箱のようじゃぁ……』


 滅茶苦茶ご機嫌な聖竜様の声が聞こえてきた。


「聖竜様はとてもお喜びだよ。俺からも礼を言う」


「そ、そうか。それは良かった。しかし、本当に消えるのだな。うん、良いものを見た」


 ちょっと戸惑いつつも納得したらしいノーマはそこで楽しそうに表情を変える。


「では、この後は屋敷で夕食だな? 今日はリリア先生はさすがに来てくれるよな?」


「もちろん、その予定で準備をしております」


 喜色という言葉が相応しい顔をするノーマにサンドラが笑顔で答える。内心は余計なことがおきないようにと願っているに違いない。


「それでは皆様、これから屋敷に……」


 リーラがそう言ったところで、広場にメイドが一人駆け込んできた。


「リーラ様! 大変ですっ!」


「なんですか。第一副帝様がいらっしゃるのですよ。騒がしくしてはいけません」


 注意を受けたメイドが居住まいを正し、静かに礼をした。


「いや、気にしてはいない。それより大変なことがあったのなら報告すべきだろう」


 言葉通り気にしていない様子のノーマに促され、メイドが口を開く。


「リリア様が! 南部に行ってしまいました!」


「……それはどういうこと?」

 

 疑問を口にしたのはサンドラだ。当然、この後の夕食にリリアは招かれている。それを忘れたとも思えないんだが。


「なんでもスティーナ様と仕事の話をしていたら創作意欲が盛り上がってしまい、勢いのまま飛び出して行ったそうです。もちろん、スティーナ様も止めたのですが……」


 そこまで言うとメイドはノーマに視線をやった。彼に関係あることらしい。


「なんだ? 言ってくれ」


「なんでも『ノーマ君ならわかってくれるでしょう』と言っていたそうです」


 その一言を聞いた瞬間、ノーマは顔を押さえて崩れ落ちた。ちょっと震えている。


「大丈夫か?」


 声をかけてみると、震える声でノーマが答えた。


「理解してくれている、リリア先生が……自分を……」


 大丈夫そうだな。


「リリアは輸送用の船に乗ったのかしら? そろそろ最後の便が出る時間だけれど」


「はい。強引に飛び乗ったそうです」


 南部には開発資材を送るための川下りの船が一日に何度か出ている。現状だと馬車よりも早い。


「どうする? 俺が走って追いかければ連れ戻すこともできるが?」


「いや、それには及ばない。可能ならば、自分が直接会いに行きたいのだが。可能だろうか?」


 いつの間にか立ち直ったノーマが澄ました顔で言ってきた。


「今からは無理ですね。追いかける舟は出せても、帰りのための馬車が現地にありません。それに、それなりの人数が泊まる備えも……」


 サンドラは考えながら、言葉を続ける。


「準備を整えて、明日の朝出発で良ければ」


「リリアの方もすぐに南部で放浪を始めないだろう。聖竜様に頼んで、南部にいる水竜の眷属経由で留まるように伝えておくよ」


 今は南部にハリアがいる。聖竜様経由でリリアに「動かないでくれ」と言づてできるはずだ。


「負担をかけてしまってすまない。しかし、是非お願いする」


 その言葉と共に、第一副帝ノーマは軽く頭を下げた。

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