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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十三章『遅れて来たえらい人』

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167.久しぶりに失礼なことを言われた。

 第一副帝ノーマを無事屋敷に送り届けた後、俺は早足で自宅に向かった。

 行き先はスティーナ達に建ててもらった新しい家ではなく、以前住んでいた小屋である。

 現在、かつての住処には倉庫という見た目相応の役割を与えられている。

 中には大工達によって作られた棚が備え付けられ、大小様々な大きさの箱が置かれている。 

 俺はその中でも鍵をかけられた一際大きい箱の前に立った。

 この箱、木製だが俺の手によって強化の魔法がかけられており、とても丈夫だ。

 ポケットから鍵を取り出して開くと、僅かな香りが鼻をすり抜けた。


 納められているのは瓶につめられた眷属印の薬草の数々である。

 それも、とりわけ上等なものだ。


「これとこれだな……」


 俺はいくつかのハーブ、薬草、魔法草の瓶を取り出す。どれも疲労回復や精神を安定させるのに役立つものだ。中にはエルフ達からもらったものもある。


 とてもお疲れの第一副帝のために、これらを有効活用しようというわけだ。ずっと溜め込んでいたが、今こそ使い時だろう。トゥルーズが料理に上手く応用してくれるに違いない。


 目的を果たした俺は早足で領主の屋敷へと向かう。

 森から出て、川を渡り、人里らしい所に出ると酒場の方が目に入った。

 建物も増えたことであの辺りは夜でも大分明るくなった。眷属としての鋭い聴覚に集中すれば、わずかに中の喧噪が聞こえてくる。


 リリアに声をかけるべきだろうか?


 そんな疑問が脳裏によぎる。彼女がいれば第一副帝も上機嫌になる。それに二人はちゃんと話し合った方が良いようにも見えた。


 道で立ち止まって考えていると、酒場に向かう新たな人影が目に入った。

 スティーナだ。

 仕事上がりらしい彼女は上機嫌で足取りは軽い。


 これは駄目だな。リリアとスティーナが酒場に揃った場合、深夜まで飲み続けるのだ。

 下手をすればその後、スティーナ宅で朝までコースまである。

 第一副帝には悪いが、今日リリアと話すのは諦めてもらおう。リリア自身はあまり乗り気では無かったように見えたし。


 とりあえずは屋敷の食堂だな。


 気持ちを切り替えて、俺は屋敷へと急いで向かった。


○○○


 屋敷に到着すると、ルゼがいた。

 どうやら近いうちに開設予定の診療所で作業していたらしく、屋敷から呼び出されたらしい。

 すでに事情は説明されていたので、俺はルゼと共に厨房に向かうと、その場に薬草類を置いて来た。

 医者のルゼと料理人のトゥルーズ。あとはこの二人が上手くやってくれるだろう。


 安心して仕事を任せつつ、俺はサンドラのいる執務室に向かった。


「……なんでノーマがいるんだ?」


 室内には何故か第一副帝ノーマがいた。


「いや、連れてきた者達が念のため部屋を確認する間、どこかで時間を潰すよう言われてしまってな。こうしてお話しているのさ」


 二人は執務室内の小さな応接スペースに居て、それぞれリーラと執事が後ろに控えている。 お茶も出されて穏やかな雰囲気なので、難しい話をしているわけではないようだ。


「おかえりなさい。アルマス。色々とありがとう」


「気にすることはないよ。さすがに客人のあの様子を見て放ってはおけない」

 

「どうやら、気を使わせてしまったみたいですまない」


 申し訳なさそうに言うノーマだが、相変わらず少し顔色が悪い。馬車の中での短い睡眠では大して回復していないようだ。


「今、俺の作った薬草類を医者と料理人に渡してきた。聖竜領にいる間に健康になってもらう」


 俺がそう宣言すると、ノーマは薄く笑って答える。


「噂の眷属印というやつだね。自分も少し手に入れて使って効果は体験した。あの時は久しぶりによく眠れたんだ。期待しているよ」


 言葉とは裏腹にノーマの表情からはあまり期待しているようには見えなかった。疲労ではなく安眠用のハーブしか手に入らなかったのだろうか。


 これはその身をもって思い知っていただく必要があるな。俺の育てた薬草達の力を。

 ちょうど良いことに、部屋に向かって来る足音が聞こえる。気配からしてルゼだ。

 

「失礼します。医師のルゼと申します。ご依頼の品をお持ちしました」


 ノックをして入室した後、いつもより畏まった態度でそう挨拶したルゼは、静かな動作でノーマの前に銀色の杯を置いた。

 中には薄い紅色の液体が入っている。


「これは?」


「聖竜領で採れた薬草と魔法草からエルフの製法で作り出した飲み薬です。長い旅から帰った後に疲れを癒すために長年使われているものです」


 澄ました顔でそう答えるとルゼは俺の後ろに立った。


「俺の育てた薬草も使われている。効果はあるはずだ」


「わたしもここに来たばかりの頃、アルマスの作ったハーブで疲れを癒していたんですよ」


「ほう。それはそれは……」


 俺達二人に押される形でノーマは杯を取ると、ゆっくりと口に運んだ。


「む……美味いなこれ……」


 一口飲んだと思ったら、そのまま飲み干してしまった。

 俺がルゼの方を見ると彼女はにっこり笑った。


「特別飲みやすく調合しました。第一副帝様は本当にお疲れのようでしたから」


 色々と気を使ってくれてありがたい話だ。横でサンドラが小さく会釈した。


「うっ……」


 俺達がそんなやり取りをしていると、突然ノーマが呻いて顔を押さえた。


「どうした? 気分でも悪いか?」


 俺の問いかけに答えず、ノーマは手でこちらの動きを制した。


「……く……ふぅ」


 しばらく待って、大きく息を吐いてから、第一副帝は顔をあげる。


「なんだか。物凄くスッキリして元気が出て来たんだが。こんな爽やかな気分は何年ぶりだろう?」


 言葉通り、ノーマの顔からは疲労の影が消え、年相応の元気な青年という感じになっていた。溌剌とした気配を漂わせるその姿はまるで別人だ。


「アルマス様から頂いた眷属印の薬草と魔法草を遠慮無く調合いたしましたので、効果は抜群なのです」


「素晴らしい。ありがとう、アルマス殿。ルゼ殿と言ったか、聖竜領には素晴らしい医者がいるな。羨ましいものだ」


 よほど嬉しいのか立ち上がって俺達に握手を求めてきた。俺とルゼが戸惑い気味に握手に応じる横で、サンドラが呟く。


「ねぇアルマス。これって本当に常習性とかないのよね?」


「知ってのとおり俺が育てているのは普通の薬草や魔法草だ。問題はない」


 久しぶりに失礼なことを言われた。いや、第一副帝の変わり様を見れば気持ちはわかる。


「領地に戻ったら大変なんだろう。せめて、聖竜領で疲れを癒していってくれ」


 薬で回復した体調も、激務に戻ればすぐ崩れてしまう。残念ながら、根本的な解決にはならないのだ。


「ああ。世話になるよ。この地に来て良かった」


 なんだか物凄く爽やかな笑顔を浮かべながら、第一副帝は心底嬉しそうに言うのだった。

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