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166.もっとこう、色々こじらせている。そんな予感がする。

 聖竜領の入り口から領主の館までの短い道程。

 その馬車の中で、第一副帝ノーマは眠ってしまった。

 うずくまって「うう……」と呻いていたかと思ったらすぐに静かになり、寝息を立て始めたのだ。前のめりな姿勢で。


「見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。どうか、このことはご内密にお願い致します」


 下を向いているので顔が見えないものの安らかに寝ているようだ。どうしたものかと戸惑っている俺達に、同乗している執事がそう言って頭を下げた。


「もちろん、ノーマ様に不都合な風聞を広めるつもりはありません」


「長旅で疲れているようだしな」


 見苦しいと言えば先ほどのリリアとのやり取りはどうなんだと一瞬思ったが、それは指摘しないでおく。

 俺達の返答に安心したのか、執事は表情を柔らかくすると、ゆっくりとした口調で語り出した。


「ノーマ様の御両親は帝国中部と南部のご出身で、もともと関係の良くなかった二つの地域をまとめるためにご結婚された方なのです。ご成長され、第一副帝の地位を受け継いだノーマ様の立場は微妙なものなのです」


「板挟みか」


 両親が別地域の出身でかつ権力者。しかも地域同士の関係は良くないのに、自分はどちらにも関係がある。

 あちらを立てればこちらが立たず、さりとて下手に肩入れするわけにもいかない。大変面倒な立場にいるということなのは、何となく想像がついた。


「ノーマ様は足場を固める前に第一副帝の地位に就いたことも影響し、御両親と関係の深い領主などとの力関係にも気を使わなければいけないのです」


「うっ……」


 執事の言葉にサンドラが胃の辺りを抑えた。自分がその立場に置かれた場合を具体的に想像してしまったのだろう。周囲だけでなく身内にまで気を配らなければいけない状況は辛いことだ。


 もちろん、権力者とはそういうものだという考え方もある。

 むしろ過酷な世界を生き抜けるくらいの才覚がなければイグリア帝国の第一副帝という重責を担えない。それくらいのことは言われてもおかしくない。


「つまり、第一副帝ノーマは味方の少ない中で政務にあたっていると」


「はい。それゆえにお疲れなのだとご理解いただければ」


 そう言って再び執事は深く頭を下げた。


 なるほど。サンドラの父が疲れを癒すだけでいいと言ってきた理由がようやくわかった。


「サンドラ。俺は屋敷に着いた後、一度自宅に戻るよ。いくつか取りにいくものができた」


「ありがとう。私もトゥルーズに食事のメニューについて相談するわ。それと、ルゼとハリアにも声をかけないとね」


 予定にはない俺の申し出を受けて、サンドラはにこやかにそう応じた。

 

 第一副帝ノーマ。彼には聖竜領のできる限りの歓待を受けて、健康になって帰ってもらうとしよう。


「ところで、彼とリリアはどういう関係なんだ? 入れ込んでいるというか、相当な感情を持っているように見えたんだが……」


 本人が眠っていることだし、ついでに聞いておこう。情報は大事だ。


「リリア様はノーマ様が生まれる前から第一副帝の領地で領地開発の仕事に携わっておりました。領内の地域や部族、種族に分け隔て無く接したこともあり、非常に慕われております。難しい調整などもリリア様がいるだけで話が進むこともあったほどです」


「ノーマ様にとって頼れる味方だったということですね」


「はい。それと、個人的な事情も少々……」


 サンドラへ肯定の言葉を返しつつ、執事は更に言葉を続けた。


「リリア様はノーマ様が赤子の頃からのお付き合いでありまして。あるときは姉のように、あるときは母のように、あるときは友人のように接していたのです」


「つまり、ノーマの人生の大半に彼女の存在があったと?」


「もちろん、ノーマ様のお仕事の関係上、いつも一緒というわけにはいきませんが」


「アルマス、これって貴方と同じ……」


「いや、一緒にしないでくれ」


 サンドラの発言を俺は途中で遮った。言いたいことはわかる、わかるが多分これは俺の妹への感情とは別のものだ。

 もっとこう、色々こじらせている。そんな予感がする。


「リリアに関しては、親離れというか、そんな感じで頑張ってもらおう」


「今回の視察でそのような流れになると良いのですが……」


 複雑な表情で執事がノーマに視線を送ると、彼の肩が少し揺れた。


「う……。も、申し訳ない。馬車の居心地がよくてつい眠ってしまった」


 本当に申し訳なさそうに言う第一副帝にサンドラは笑顔で返す。


「お気になさらず。ご多忙で大変疲れているとお聞きしておりますから」


「む。さては色々と話したな?」


「なんのことやらわかりませぬな」


 第一副帝から半目で見られても涼しい顔で流す執事。この人、ただ者じゃないな。


「せっかくだから視察がてらゆっくり休んでいってくれ。俺達もできる限りのことをする」


 俺がそう言うとノーマは口元に笑みを浮かべつつ言葉を返した。


「聖竜領の薬草は特別な効果があると聞いている。それに期待させてもらおう。……それと、今日の夕食にリリア先生は来るんだろうか? できれば同席して欲しいんだが」


 これは難しいな。


 サンドラの方を見ると俺と同じ事を考えたらしく、なんともいえない表情をしていた。

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