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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十三章『遅れて来たえらい人』

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165.やはり、この国の為政者はちょっと変わっているな。

 いよいよ夏だなと感じる日々も過ぎ去り、本格的に日中の日差しが厳しくなったある日。

 聖竜領に第一副帝がやってきた。

 今回も連絡はクアリアの町から。領内の人々はかねてからの準備を整えてある。俺も手伝いとして宿泊先になる屋敷内に冷房の魔法をかけておいた。


 思いつく限りの準備はした。そんな心持ちで、俺達は第一副帝を待ち構える。

 今回の出迎え場所は屋敷前ではなく村の入り口だ。そこはレール馬車の終点になっており、ちょっとした荷下ろしができる広さに整備されている。

 ここで挨拶をしてから、屋敷へ案内という流れである。


「馬車の速度が上がったのもあって、出迎えが日中になったな」


「少し前まで朝出発して夕方到着だったのが嘘みたいね。でも、夏の昼間はちょっと辛いわ」


 発着場に設けられた屋根付き休憩所で、馬車を待ちながらサンドラがそんなことを言った。出迎え要員は俺とサンドラとリーラ。それとメイド達が二人ほど。屋根の下とはいえ、やはり暑い。


「お出迎えがすみましたら冷たい飲み物をご用意致しましょう。ハリア様の作った水を凍らせたものが食堂にございます」


「トゥルーズは色々やっているんだな」


「それで氷菓子を作るつもりだとか」


「それは興味深い」


「アルマスも第一副帝を出迎えるんだから食べることができると思うわ」


 俺の反応が面白かったのか、サンドラが笑みをこぼしながら言った。

 そんな風に雑談しているうちにレールの向こうに馬車の影が見えてきた。馬車の数は二台。人か物が多いのか、クアリアから多めに出発してきたようだ。


 程なくして、馬車は到着した。二台の内、後ろの方がレール馬車の中でも一番上等な作りのものだ。第一副帝はそちらにいるのが一目でわかる。


 俺はこっそり魔力の感知で馬車の様子を探る。人数は六名ほど。荷物が多め。全員魔力が少なめなので、魔法士は随伴していなさそうだ。


 かちゃりと扉が開き、馬車から続々と人が出てくる。

 最後の方でいかにも執事然とした老人の後に、一際豪華な服を着た男性が下りてきた。


 おそらく種族は人間。身長はやや高めで細身。灰色の髪の整った顔立ちだが、目元にうっすらと隈が浮かび、全体的に覇気がない。年齢的には第二副帝よりも少し若いくらいだろうか。

 なんというかとても疲れている人。

 それが第一副帝に対する第一印象だった。


「出迎えご苦労。聖竜領のサンドラ・エクセリオ」


 見た目によく似合った穏やかで良く通る声で第一副帝はそう語りかけてきた。


「ようこそおいでくださいました。ノーマ第一副帝」


 サンドラが静かに礼をするとリーラ達もそれに続く。


「そちらが聖竜の眷属、賢者アルマス殿で良いだろうか?」


 一人、頭を下げなかった俺を見てノーマが問いかけてきた。


「そうだ。アルマス・ウィフネン。聖竜様の眷属をしている」


 そう答えて、俺は初めて軽く頭を下げた。不遜ではあるが、俺は帝国の臣民ではないのでこのくらいの態度でもいいだろう。皇帝にもそうしているしな。


「会えて光栄だよ。噂は聞いている。是非とも今回の視察で色々と……」


 ノーマが薄く笑みを浮かべながら語り出した辺りで、場違いな声が乱入した。


「あー、ノーマ君じゃないですか! ついにここに来たんですね! 相変わらず不健康そうですけど大丈夫ですか?」


 声が聞こえたのは後ろ。

 振り向いた俺達の視線の先には建築家のリリアがいた。

 相変わらず南部で活動していたはずだが、たまたま今日帰ってきていたらしい。恐らく、村の入り口にある酒場で食事でもしに来たのだろう。


「リ、リリア先生! まさかこんなに早く会えるなんて! もはやこれは運命ですよ!」


 いきなり俺達の存在を無視して駆け寄る第一副帝の姿がそこにあった。

 口調からは先ほどまであった威厳が完全に消えている。


「いや運命って……。私は久しぶりに人里にご飯を食べに来ただけですよ?」


「それを運命と言うのです。リリア先生がいなくなってから安否を確認しろとそこらじゅうから言われて大変なんですよ!」


「あはは、みんな心配性ですね。たしかに仕事で行方をくらますことは多かったけど。ここは安全ですから」


「数年前まで魔境と呼ばれていた場所に行かされたなんて聞けば誰もそんなこと思いませんよっ。それに手紙も寄越さないし」


 なるほど。帝国中部と南部から見れば聖竜領はまだ魔境扱いか。これは仕方ない。今後の活動で印象を良くしていこう。


「リリア、心配している人がいるなら手紙くらい出した方がいいぞ」


 手紙は大事だ。俺も昔はことあるごとに妹に手紙を出していた。


「うっ。すいません、筆無精なもので……」


 俺の指摘に反省した様子を見せるリリア。だが、放浪者に近い彼女の生態を考えると手紙を出すのは難しいだろう。


「積もる話もあるようですが、まずは屋敷の方にご案内しても宜しいでしょうか?」


 状況を見守っていたサンドラの言葉を聞いてノーマ副帝は晴れやかな笑顔に言う。


「リリア先生の同席を是非ともお願いしたい!」


「え、私ご飯食べに来たんだけど……」


 第一副帝相手とは思えない反応を返すリリア。この二人、どんな関係なんだ。


「荷物の運び込みもありますし、リリア様とのお話は後ほどということでいかがですか?」


 そう言ったのは、第一副帝の横でずっと静かにしていた執事だった。


「……うむ。そうだな。先に職務だ」


「ノーマ君。お屋敷に行ったらちゃんと休んでくださいね。相変わらず顔色悪いですよ?」


「長旅だし、気がかりなことが多いんですよ。知ってるでしょう……」


 肩を落とす第一副帝を見て、リリアもため息をついた。話に聞いた通り、彼の領地は色々と大変らしい。


「荷物は馬車に移して運びますので、先にお屋敷へ」


 リーラの指示の下、用意していた屋敷行きの馬車に荷物の載せ替えが始まった。

 俺達はそれとは別に移動用の馬車に乗り混む。


「あ、あのリリア先生!」


 馬車から乗り出すようにして第一副帝は酒場へ向かうリリアに声をかけた。


「ん? まだなにかありますか?」


「戻ってきてください! 俺の領地に! みんな待ってます!」


「え、無理ですよ。仕事ありますし」


 第一副帝とは思えない懸命な懇願は、あっさりと断ち切られた。


「そんな、リリア先生……」


 彼の嘆きとは別に、無情にも馬車は出発した。リリアの方は遠ざかる馬車をしばらく見つめた後、軽い足取りで酒場へと入っていった。


「うぅ……。あんまりだ……」


 馬車の中で膝をかかえはじめた第一副帝を見ながら、俺は目の前の執事に聞く。


「大丈夫なのか?」


「多忙な方なので、お疲れなのです」


 まるで表情を変えずに、執事からそう返答があった。


 やはり、この国の為政者はちょっと変わっているな。

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