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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十三章『遅れて来たえらい人』

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161.難しい仕事にやりがいを感じることもあるが、それだけではない。

 聖竜領にあるダン商会の酒場兼宿屋兼雑貨屋。ここも以前からの工事で姿を変えていた。 当初併設されていた雑貨屋部分は独立、酒場部分は広くなり、内装も少々凝ったものに改装。

 雑貨屋の方もちょっとした建物になり商品点数が増えた。

 それに加えて酒場の裏にはパン焼き釜が置かれた小屋が増築され、メイドを中心とした当番が聖竜領にパンを供給している。


「なんだか、急に村らしい風景になったな」


「そうですね。前は建物といえばうちの店と屋敷くらいでしたから」


 改装の終わった酒場の前で周囲を眺めながら、俺はダニー・ダンとのんびりと話をしていた。

 店先にテーブルを出して、のんびりお茶を飲んでの休憩である。

 出来上がったのはダン商会の建物だけじゃない。道沿いには東都の商会の建物が二軒。ちょっと道からそれた場所にはクアリアの職人向けの事務所兼住居もほぼ完成している。

 西にある農家の集落も含めれば、聖竜領も立派な村といっていいだろう。


「東都の店は思ったよりも小さいな」


「ええ、聖竜領では主に仕入れを行うようです。ここで買い付けて、クアリアにある大きな店舗と倉庫から各地に出荷ですね。一応、うちからも仕入れてくれるみたいです」


「俺との直接取引は諦めたみたいだからな」


 サンドラとダニーが何かしているのか、東都の商人が俺に直接商談を持ちかけて来ることはない。聖竜領の特産品の大半は領主の制御下にあるので、ダン商会がいきなり危機的状況に陥ることはないだろう。


「このまま人口が増えると、広場で収穫祭が行えなくならないか心配だな」


「爆発的に人が入ってくることはないと思いますが……。でも、収穫祭に合わせてお客様が増えることは考えられますね」


「それはそれで問題だな」


 きっとサンドラもこのことは把握しているだろう。そのうち、広場の拡張なり別の手段なり、何らかの対策をするはずだ。


「問題と言えば、クアリア支店ですね」


 いきなりダニー・ダンが難しい顔になった。俺の分のお茶を淹れる手さばきは見事なものだが、表情は真面目そのもの。


「なにかあったのか?」


「思った以上に順調でして、ドーレスさんから悲鳴のような連絡が届いてきます。新しく人を雇っても手が足りないくらいだそうです」


「それほどか……」


 ダン商会クアリア支店は聖竜領に人が沢山押し寄せるのを防ぐための店舗だ。聖竜領のことが帝国内に知れ渡っているので繁盛は予想していたのだが……。


「相応の準備はしてきたつもりですが、アルマス様達が帝国内で動いた影響はかなりのものだったようです」


「考えてみれば、皇帝やら第二副帝やら帝国五剣やら続々と相手にしたからな……」


 目を付けていた貴族や金持ちは多いことだろう。


「おや、アルマス様とダニーの旦那、どうしたんだい?」


 世間話をしているとそう声をかけてくる者がいた。

 大工のスティーナだ。隣にいるのは、驚いたことに建築家のリリア。


「大分工事が進んだんで世間話だよ。リリアがここまで来るなんて珍しいな」


 本当に珍しい。彼女は春に聖竜領に来てから、殆どの時間を南部の草原で過ごしている。

 もしかしたらこの辺りに戻ってくるのはその時以来なんじゃないだろうか。


「ええ、珍しいですね! 色々と考えもまとまったし、トゥルーズさんのご飯が美味しかったのでちょっと戻って来てみました!」


 自主的に長旅をしている割に、元気そのものな様子でリリアは言った。身なりも小綺麗だ、南部でハリアに洗濯してもらったのかもしれない。


「そしたらちょうどあたしと会ってね。今後のことも話したいと思ったから、酒場で一杯というわけさ」


「なるほど。そういうことですか」


 ダニー・ダンは穏やかに微笑みながら頷いた。売り上げに繋がるのはよいことである。


「リリアの方は仕事に目処がついたんだな」


「ええ、おおざっぱなイメージはできましたので、たまに野営を交えつつ部下や聖竜領の皆さんと話を進めて行こうと思います!」


「野営は必須なのか……」


「必須です!」


 力強く言い切られた。専門家が言うならそうなのだろう。彼女は建築家であり、芸術家としての気質も強いようなので、俺にはよくわからないところがある。


「あたし、サンドラ様に頼んでリリアさんが作った建築を調べてもらったんだ。帝都とか東都の有名な建築まで手がけてるなんて思わなかったよ。そんな人と一緒に仕事できるなんて……」


「私も嬉しいですよ。正直、女性の職人さんは珍しいですからね。それに、楽しそうですっ」


 なんだか既に大分仲良くなっている二人は、俺達への挨拶もそこそこに酒場へと入っていった。


「なんか、凄い飲みそうだな」


「ええ、うちとしてはありがたいことです」


「酒場以外の資材の発注も任されるだろうし、良いことだな」


 リリアの南部を別荘地に仕立てる仕事は聖竜領全体の大きな公共事業になる。ダン商会も大きく関わるはずだ。


「良いことなのですが。ちょっと心配な噂が……。リリアさんと仕事をすると、物凄く多忙になるそうです。変わった物や難度の高いものを要求されるようで」


「それは…………」


 難しい仕事にやりがいを感じることもあるが、それだけではない。

 ダニー・ダンの表情はそれを雄弁に語っていた。


「もしかして、一番大変なのはスティーナか?」


 リリアに振り回されるスティーナの姿が容易に想像できた。仕事に対して真面目なスティーナを、才能と実績のあるリリアが自由自在に使うという構図だ。


「心配です……」


 ダニー・ダンは俺の問いかけに答えず、一言そう呟いた。


 聖竜領の大工の多忙は、しばらく終わりそうにない。

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