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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十三章『遅れて来たえらい人』

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160.この分だと、再会も近い。秋ぐらいには目処が立つだろう。

 イグリア帝国という国は基本的に温暖な地域にある。

 この場合温暖というのは、一年中雪に閉ざされている土地がないという程度の意味だ。

 冬になれば氷も張るし雪も降るが、夏はしっかり暑い。

 帝国内を紹介した本を読めば、西部にある帝都は夏はかなりの気温になるというし、東部の都である東都も暑い。

 当然、聖竜領の夏もそれなりに暑いのだが、氷結山脈が近いこともあり、標高が高いためか過ごしやすい。日中はともかく、朝と夕方は涼しく過ごせる場所なのである。


 そんな聖竜領の夏の始まり、涼しく過ごしやすい場所に俺はいた。

 聖竜の森の中、エルフの集落近くである。


「思ったよりも凄いことになったな……」


「ええ、オレも驚きです……」


「皆で頑張りましたからねぇ……」


 俺の感想にユーグとルゼがしみじみと続いた。

 目の前には青々と茂るハーブと薬草の畑があった。


 以前もらったエルフの肥料を使い、森の中に畑を作ってみた結果である。

 なんというか、思ったよりも上手くいった。ユーグと共に珍しい薬草などを選定し、時間を見て俺やエルフ達で世話をしていたのだが、想像以上に生育が良い。中には育てるのが難しい品種もあるということだったのだが。


「これはやはりエルフの肥料が良かったということだろうか?」


「聖竜領の土地とアルマス様のお力もあるかと」


「つまり両方ですね。オレとしては研究材料分が確保できれば良かったんですが……」


 三人で畑の中を歩く。エルフ村の研究所近くに切り開いた畑はちょっと大きめに作られている。収穫量が想定できないのと、豊富な種類を試したかったためだ。

 それがまさかの豊作とはな。


「この辺りの草地はゼッカが植わっているはずだったな」


 帝国内で最も希少とされる魔法草、ゼッカ。地中に花が咲くという変わった品種で、育てるのは困難とされている。

 俺が今見下ろしている丁寧に草を取り払われた地面の下で、それはしっかりと生育している。さっき試しに掘ったら蕾がついていたので、慌てて埋めた。


「まずは収穫の目処が立って良かったです。おめでとうございます」


「……それで、どうします? 一財産だと思うんですけど」


「…………」


 笑顔のルゼにユーグが続けた言葉に俺は黙り込む。

 希少な薬草や魔法草が収穫できたのは良いことだ。産地は聖竜の森、俺が育てたから眷属印。効果は抜群だろう。きっとこれまで以上の効果を発揮するに違いない。


「半分はエルフ村と研究所で使って貰う。今後も続けたいからな。残りの半分は使えるようにして、順次出荷したり、聖竜領内で保管の予定だ」


「さすがです。サンドラ様と相談済みだったんですね」


 感心するルゼに俺は軽く頷く。昨日慌てて相談しておいて良かった。

 一応、この畑で取れたハーブや薬草は眷属印・特級としてこれまでにない特別な商品として扱う予定になっている。出し惜しみしつつ、ちょっとずつ売るつもりだ。


「エルフ村の分も頂けるのはありがたいです。もうすぐ村の中の診療所が開けますから、とっておきの薬を作れます」


「そういうことなら多めに渡してもいいと思うぞ」


 領内の人が増えたことも有り、医者であるルゼの本格的な活動がもうすぐ始まる。こういうのは、できるだけ協力しておくべきだ。


「研究所の方でも色々作ってますから、そこは上手くやりましょう。でも、いいんですか? 半分も貰って?」


 オレ達は嬉しいですけど、と言うユーグ。


「俺一人でやったわけじゃないからな。皆が協力してくれなければ今後も続けられないから、それは正当な報酬だと思う」


 金銭が必要ないとまでいかないが、ここで独占するようなことはさすがにできない。それに、金を持ちすぎておかしな人生になってしまった者を過去に何人か見たこともある。


「俺は程よく豊かに暮らせればいいんだよ。……ところでここの収穫物、末端価格でいくらくらいになるんだろう?」


「人聞きの悪い言葉使わないでくださいよ……。屋敷一つくらい余裕で建つと思いますよ」


「そうか……」


 図らずもかなりの収入源を確保してしまった。これで安心して家の増築をしたり、帰ってきたアイノの服やら家具やらを買ってやることができる。


「アルマス様、今、妹さんのことを考えていましたね?」


「……なぜわかった」


「わかりますよ。最近ニヤニヤしてますから」 


 なんということだ。あまり会わないルゼとユーグにわかるくらいだから、聖竜領の皆にも把握されているに違いない。今後は表情を引き締めなければ。

 とはいえ、アイノを目覚めさせる魔法の研究は平行していて順調だ。

 この分だと、再会も近い。秋ぐらいには目処が立つだろう。

 聖竜領はレール馬車の運用が始まり賑やかだ。仕事の忙しさもほんの少しだが落ち着きつつある。


「今年の夏も暑そうだが、もう少し頑張るとしよう」


 誰ともなく呟くと、横のルゼとユーグが静かに頷いた。

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