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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十二章『三年目すごく忙しい春』

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158.そして、この場に案内されてから護衛のマルティナともども固まっていた。

 その日、俺はクアリアの領主の屋敷を訪れていた。最近はよくこの隣町に行く。レール馬車が開通したおかげで交通の便が良くなったおかげだ。……別に新しい乗り物に乗るのが楽しいわけじゃない。


「というわけで、これが約束の護符だ」


「まあ、こんなに早く。ありがとうございます。アルマス様」


 そんな会話と共に俺は手製の護符をシュルビアに渡す。

 今回の護符の出来は、先日サンドラに渡した物より良い。少し手慣れたようだ。


「大切にします。きっと、我が家に良い将来をもたらしてくれるでしょうから」


「特別な魔法はかかっていないから効果は保証できないんだがな」


 お茶を口に運びながら、俺はそう答える。


「……アルマス様。全然動じないんですね」


 突然、そう言ったのは俺の隣に座っていたマノンだ。

 彼女はクアリアにおける聖竜領の領主代行として、今日この場に同行している。

 そして、この場に案内されてから護衛のマルティナともども固まっていた。


「もちろん、驚いてはいるよ」


 俺もマノンもマルティナも驚いているのは、目の前にいるシュルビアの格好が原因だ。


「うふふ。ごめんなさいね。最近はこの服でいることが多くて。聖竜領のお二人なら良いかなと思ってしまったの」


 悪戯っぽく笑う『東方の宝石』とまで呼ばれた女性は作業着姿だった。しかもよく使われているらしく、少し汚れている。

 この地に春が来て以来、彼女は畑仕事をしたり馬の世話をしたり、第二副帝の娘とは思えないくらい外仕事をしているらしい。


「正直私、最初にそのお姿を見た時は失神するかと思いました。シュルビア様が手にマメを作って農作業しているなど……」


「夫には大分止められましたけれど、今はもう何も言いませんね」


 それは諦めたと言うことだろうか。スルホも心配だろう。


「周りの者が心配するんじゃないか? 怪我でもしたらことだろう?」


「ええ、だから夫がつけるお付きがどんどん増えていくんですよ。おかげで畑もどんどん広くなるのですけれどね」


 楽しそうに笑いながら、シュルビアはカップをテーブル上に置いた。ちなみにこのテーブル、非常に素朴な作りな上、少し歪んでいる。なにを隠そう彼女の手作りである。


「健康になって、今までの分を取り戻す勢いで動いているな……」


「ええ、アルマス様のおかげでとても楽しくさせて頂いております」


 もう初めて会った時の儚い印象は全くない。机仕事が多くて最近は運動不足気味なサンドラより聖竜領向けの人間に見えるほどだ。


「私は驚きましたが、おかげでシュルビア様の評判はとても良いんですよ。東都から来たお嬢様かと思ったら、クアリアの民みたいな人だと」


 マノンの言葉に、シュルビアの表情がこれまでで一番明るくなった。


「ありがたいことです。この町の皆さんに受け入れてもらえるか、少々不安でしたので。元々病弱でしたから、領主の妻が務まるか怪しいとか言われていましたし」


「そうだったのか」


 今となっては笑い飛ばせる懸念だが、当時は深刻な問題だったのだろう。領主の妻が病弱で、仕事も満足に出来なければ領地全体に悪い影響が出る。


 それから俺達はお茶を飲みながら軽く雑談をした。主な内容は聖竜領南部の開発について必要と言われた職人のことだ。一応、サンドラからスルホに問い合わせがあったそうだが、さすがに難しいとのこと。


「話は変わりますが。第一副帝が聖竜領に興味があるようだと、昨日夫が話していました」

 

 そろそろお暇するかと思った時、シュルビアがぽつりとそんなことを言った。

 顔から笑みは消え、眼差しは真剣だ。今日、これを話すタイミングを待っていたのだろう。


「二人いる副帝のもう一人か……。なにが目的なんだ?」


 その問いかけに、シュルビアは首を横に振った。マノンの方も見てみるが同様だ。

 二人にも想像がつかないが、第一副帝に動きがある。それが今わかっていることの全てか。

「わかった。サンドラに伝えておこう。詳しいことがわかったら教えてくれると嬉しい」


 第一副帝が治めるのは帝国中部と南部。中部は俺達の暮らす東部より発展しているそうだが、南部はそうでもないと聞く。


「マノン。後で第一副帝とその領地についての情報を教えてくれないか。資料があると助かるんだが」


 なにがあるかわからないが、知識を仕入れておいて損はない。マノンなら、本屋に置かれている書籍以上の知識があるだろう。


「すぐに資料を用意します。帰りに聖竜領にお持ちください」


 優秀な領主代行は、そう言って穏やかな笑みを浮かべると、カップに手を伸ばした。

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