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144.しばらく、トゥルーズからの追求をかわすのに手間取った

 聖竜領が工事などで賑やかになると、色々と便利に使われている広場も賑やかになる。

 例によって資材が積み上げられ、作業に従事する者達向けの休憩小屋が建てられ、いつの間にか作られていた立派なかまどに火が入った。


 そこで聖竜領きっての料理人の腕が定期的に振る舞われる。


 ある日の午後、俺は遅い昼食のため広場に訪れていた。


「トゥルーズも今食事か。ちゃんと休めているのか?」


「……アルマス様も遅いご飯だね。大丈夫、休みは貰ってるよ」


 言いながら、トゥルーズはテーブル上に並べられた自分の料理を口に運んでいた。俺も近くでメイドから貰った食事を置いて席につく。


 森で採れた鹿や魚を使った料理が中心だが、エルフの森で修行をして帰ってきた彼女はハーブや薬草を使ったこれまでと違う味付けをするようになった。

 なんというか、鼻を抜ける香りとか、味わいが柔らかいというか、そんな味が多い気がする。


「エルフの森で修行して味付けが変わったのか?」


「……色々と試しているところ。エルフの人達の料理は薄味だったから、人間向きにした上で風味を変えたりしてみている。……美味しくなかった?」


「トゥルーズの料理は相変わらず美味しいよ。ただ、珍しい香りがすることが多いと思ってな」


「……不快じゃない?」


「そういう感じはしないな。慣れないから、不思議な気持ちにはなるが」


「……そう。参考にしておく」


 言いながら、トゥルーズは服のポケットからメモを取り出すと手早く書き記し始めた。軽く見てみると、そこにはびっしりと書き込まれている。


「もしかして、皆から感想を聞いているのか?」


「……当然。初めての味付けだから、広く意見を集めて調整したい」


 落ち着いて物静かに見えるが、彼女の料理への探究心は相変わらずのようだ。


「俺もできるだけ協力するよ。それとも、サンドラやマノンのように舌が肥えている者の意見の方がいいかな」


「……ありがとう。最終的にエルフの人達がここで料理店を開くときのレシピに回したいから、色んな人の意見があると嬉しい」


「そういえば、そんな話があったな」


 エルフ達がこちらで食堂を開く案があると前に聞いたが、しっかり話が進んでいるらしい。

「……一応、準備は進めてるよ。いつになるかわからないけど」

 

「たしかに、労働力的に今は厳しいからな……」


 そんな話をしていると、話題のエルフが俺達の方にやってきた。


「お二人も遅めの昼食ですか。忙しいですね」


「ルゼか。普通にここに来るのは珍しいな」


「農家の方に診察にいってきたんです。子供達の体調の確認ですけれどね」


 そう言って朗らかに笑みを浮かべると、ルゼは自分用の野菜と果物中心の食器をテーブル上に置いた。


「エルフは小食だし、味付けも人間向きとは言いがたいのに、あの携行食は特別美味いんだよな」


 聖竜領の特産品として販売もしている携行食。あれはとても美味しい。エルフの味付けが人間や他の種族にもマッチした奇跡のような品だと思う。


「……私もそう思う。あの味付けの秘密を知りたかった」


「教えて貰えなかったのか?」


「…………」

  

 俺の問いかけに、トゥルーズは軽く頷くと、恨みがましい目でルゼの方を見た。

 

「そ、そんな顔をしても駄目なものは駄目ですよっ。携行食は秘伝の技術なんですから。トゥルーズさんが覚えたら、あっという間に美味しくアレンジされたレシピが広がっちゃうかもしれないじゃないですかっ」


「……私なら、あの携行食をより美味しいものにできると思う」


 見たことのない視線でルゼを見ながら、トゥルーズが力強く言った。


「例えそうであっても駄目です。森のエルフ達だけに伝承されているから価値があるのですし」


「もしかして、エルフにしか使えないハーブ類でも入っているのか?」


 前に貰ったキンソウダケというのはエルフにしか収穫できないという特殊なキノコだった。例の携行食も作成時に何らかの特殊な処理をしていても不思議じゃない。


「それは……。アルマス様、今、私から製法の一部を聞き出そうとしましたね?」


 ばれたか。


「トゥルーズには世話になっているからな。少し力になりたかっただけだ。すまない」


「……ありがとう、アルマス様。とても嬉しい」


「い、意外と姑息なこともするんですね」


 人間時代の俺は割と生き残るためならある程度手段は選ばなかったからな。


「軽いジョークだよ。きっと、森にいる時、トゥルーズがさんざん頼んだはずだ。それで駄目だったんなら、そういうことだろう?」


「やっぱり、わかってたんですね。安心しました。聖竜の森に住んでいる手前、アルマス様から強く言われると負けそうで……」


 笑顔に戻ったルゼが再び食事に戻る。最後の部分を聞いたトゥルーズが今度は俺に強い視線を送ってきた。


「……アルマス様」


「そんな目で見ても駄目だぞトゥルーズ。エルフ達の大切な秘密なんだから」


「……でも、アルマス様なら」


「駄目だ」


「……今度料理にデザートをつける。それも特別なのを。聖竜様の分も」


「俺だけでなく聖竜様まで買収するのはやめてくれ」


 しばらく、トゥルーズからの追求をかわすのに手間取った。

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