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141.俺はしばらく聖竜様との話を楽しみながら、屋敷へと向かって歩く。

 サンドラの父の来訪以降は順調に時間が過ぎ、雪も殆ど溶けて、春の訪れを感じさせるようになった頃。

 再びエルフ村で料理修業に行っていたトゥルーズが帰ってきた。


「ただいま、アルマス様。……畑仕事の準備?」


「おかえりトゥルーズ。ああ、手始めに屋敷周辺の畑を掘り返している。ちょっとした練習も兼ねてな」


 俺達の前ではゴーレムを使って畑を掘り返す農家の皆さんが見えた。それを監督するのはアリアとロイ先生だ。聖竜領名物のゴーレムを使った作業のコツを思い出して貰うのが狙いである。

 順調にいけば、農家の人々が自分の農地を耕すことになるだろう。


「この光景も見慣れてきましたねぇ」


 そう呟いたのはトゥルーズに伴ってついてきたルゼだった。


「なにか用件か? 冬の間はたまに南部に顔を出すくらいだったようだが」


「ええ、せっかくですから、エルフ村の今後について考えておりました。トゥルーズさんのおかげで人間向け料理も学べたことですし。エルフの料理店についての相談と。それと、簡単な薬を卸せないかもですね」


「薬か? 聖竜領で獲れた薬草を利用したものかな?」


「そうです。効き目は確かですし、扱いが難しくないものならば良いかなと思いまして。価値あるものになると思います。それにあわせて、里の者に指導を行って後任の育成を行います」


「随分と本格的だな」


「……自分の代わりの者を作るのが、自由な時間を作る第一歩だと気づきましたので。なんならウイルドのエルフ達に連絡して、人を増やします」


 ルゼは自分に正直なエルフだった。聖竜領にとっても有り難い決意だが、人材育成は大変だ。しばらく彼女も忙しくなるだろう。


「指導は大変だろうが、きっとここに良いことをもたらすだろう。なにかあれば俺も協力しよう」


「是非ともお願いします。せっかくですから、ここを良い場所にしていきましょう」


 笑顔でそう告げると、ルゼはトゥルーズと共に屋敷へと向かっていった。

 これからは屋敷ではトゥルーズの手でひと味違った料理が作られることだろう。上手くタイミングをはかってお邪魔するようにしよう。

 とりあえず今夜は屋敷でいいかな、と考えていると今度はハリアがやってきた。

 冬の間は南部の調整に専念していた彼は、変わらぬ様子でふわふわ浮かんで近寄ってくると、楽しげに話しかけてくる。


「こんにちは。アルマス様。もう春だね」


「ああ、きっと南も賑やかになるだろう。冬の間は世話をかけたな」


「きにしないで。それがぼくの仕事だから。きょうはお散歩がてら、ほうこくにきたよ」


「なにかあったのか?」


「スティーナが、近いうちに小屋の材料を川に流すって。建築再開だね」


「道路工事の再開準備だな。クアリアからも人員がそろそろ追加で来るはずだ」


 今はのんびりとゴーレムの農作業を眺めていた俺だが、すぐに忙しくなりそうだ。まずは南部の各地に作業小屋の建設。道路工事の完遂。それから、南部の整備。聖竜領内での建築工事や農作業だってある。

 それに、なにがしかの問題だって起こるだろう。一つ一つ、順番に対処していくとしよう。

 

「じゃ、ぼくは酒場にいくね。ひさしぶりー」


「ああ、ゆっくりしていくといい」


 これからの仕事へ鋭気を養うつもりなのだろう。ハリアは酒場へと向かっていった。


『冬の間に、サンドラと父親のことにある程度結着がついて良かったのう。これで心置きなく春を迎えられるぞい』


 ゆっくりと浮かんで去る姿を眺めていたら、聖竜様が話しかけてきた。口調はいつものように明るい。サンドラ親子がぎこちないながらも和解したのを喜んでるようだ。


『そういえば聖竜様。ヘレウスが来たとき、全然接触して来ませんでしたね』


『ぐ……。いやほら、ワシは竜じゃからな。人間同士の心の機微とかよくわからんし。あの親子関係を見て上手いこと言うのとか難しいじゃろ』


『たしかにそうですが、せめて俺に助言の一つもして欲しかったですね』


『応援はしておったよ。心の中でじゃが』


 ちょっと小声で聖竜様がそんなことを言ってきた。部下のモチベーションのためにも、今後は是非とも声に出して応援して欲しい。


『ともあれ、これでサンドラのことが一段落したのは確かです。あとはアイノが戻ってくれば完璧ですよ』


『うむ。お主が先日手に入れた魔法書じゃが。あれが上手いこといけば、アイノの治療は更に早まるじゃろうな』


『聖竜様のお墨付きとは心強いですね。頑張りますよ』


『そう言うとお主は寝ないで作業し続けそうで心配じゃ。竜の肉体とはいえ、無理するでないぞ。それに、アイノの治療は十分早まっておるんじゃからな』


 昨年調べた魔法施設を解析した結果、聖竜様によるアイノの治療はすでに早まっている。

 焦るのはよくないということだろう。その通りだ。最後の瞬間こそ、慎重に行きたい。


『そうだ。トゥルーズがエルフ村で作ったお菓子でもないか聞いてみましょうか。あとで石像に供えに行きますよ』

 

 俺がゴーレムを使った農作業を見守っていたのは、半分は時間つぶしだ。仕事自体はアリアとロイ先生で事足りる。屋敷に向かっても問題ないだろう。


『おお、それは楽しみじゃ。今年は聖竜領内に店が増えるといいのう。色々食べるのが楽しみじゃ』


『楽しみが多いのは良いことだと思います』


 俺はしばらく聖竜様との話を楽しみながら、屋敷へと向かって歩く。

 冬とは違う、暖かい空気と日差しを受けて、緑芽吹く聖竜領の景色の中を。

これにて11章は終わりとなります。


本日は書籍2巻発売日。このご時世ですので書店に置いてあるか怪しい所もありますので、ネット通販等もご活用頂けますと幸いです。

それと2巻のカラー口絵を公開可能になったのでページ下方に追加しておきました。読む際の参考にしてみてください。


また、今回でストックが尽きてしまいましたので、少し更新をお休みします。

多分、一週間程度で戻ってきますので、それまで下の方のリンクにある新作などを読んで頂けますとありがたいです。

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新作はじめました。宜しくお願いします。

作品リンク→『一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO』



書籍化します。
2025年8月末発売予定です。

作品リンク→『生まれ変わった最強魔術師は普通の暮らしを求めます 』

おかげ様で第2巻が発売中です。
画像をクリックで出版社の紹介ページに飛んでいきます。
html> キャラ紹介
発売日を過ぎてOKが出たので2巻のキャラ紹介口絵です。
読むときの参考にして頂ければと思います。
書籍版、発売中です。宜しくお願い致します。
画像をクリックで出版社の紹介ページに飛んでいきます。
html>
キャラ紹介
書籍販売後はカラー口絵掲載OKとのことでしたので、登場人物紹介を一巻より。
読むときの参考にして頂ければと思います。


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