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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十一章『二度目の冬と思わぬ来客』

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128.仕事が多くて気ぜわしいが、こういう時こそ安全かつ堅実にことを運ぶべきだろう。

 収穫祭が終わり、少しずつ寒くなっていく中、聖竜領の屋敷の食堂に皆が集められた。

 

 いつも通り主立った面々が集まり。夕食を終えた後に飲み物が用意され、会議の準備が整えられた。


 ちなみに、会議に参加していないエルフ村、農家の人々にも特別な食事がそれぞれ振る舞われ、ささやかな宴が催されている。


「みんな、収穫祭を含めてお疲れ様。色々あったけれど、二年目も無事に乗りこえることができそうね。冬の備えも大丈夫。人が増えたけれど、それ以上に収入は増えたし、将来も見えてきた……」


 そこでサンドラが一度言葉を切った。少し申し訳なさそうな様子だ。


「どうかしたのか? なにやら浮かない表情だが」


 俺の問いかけに、他の領民達もそれぞれの動きで同意した。


「……今年は春から忙しかったでしょう? だから、冬の間はゆっくり過ごしましょうって言いたいのだけれど。ちょっと状況がね」


 その言葉の意味するところを皆が理解し、動きが止まった。室内のちょっと緩んだ空気が引き締まる。


「確認させてもらうが。それは、冬も仕事で忙しくなるということか?」


「春ほどではないけれど、やることが結構あるわ」


 サンドラが生真面目な顔で頷いた。


「そうはいってもさ、春ほど忙しくはならないんじゃないの? 雪が降ったら作業できないでしょ?」

 

 場の重い空気を払うように元気よく言ったのはスティーナだ。


「…………ごめんね、スティーナ」


 対してサンドラは困ったような笑みを浮かべて謝罪した。


「え、それはどういうこと? なんか不安になってくるんだけれど」


 軽く焦り始めるスティーナ。それを見てサンドラが癖毛に触れつつ優しく語る。


「順番に説明するから安心して。みんな、少し前に皇帝陛下と第二副帝が続いて訪れた事は覚えているわよね? あの二人が来て、南部の開発について語っていったわ。湖に別荘を作るとか具体的にね」


「具体的ということは……現実にしなければいけないということですね?」


 ロイ先生の発言にサンドラは頷く。


「もちろん、二人とも聖竜領の現状は理解してくれているから、無理な工期を言ってきたりしないわ。でも、しっかりと支援の態勢は整えてくれるの。つまり、わたし達としては動かないわけにはいかない」


「…………」


 つまり、金に物に人と援助が入る以上、南部の開発について手を出さずにはいられないということか。


「もちろん、スティーナの言うとおり冬は雪が降るのもあるから、春のように大規模な開発は行えない。でも、できることはやるわ。まずは南部への街道作り。これはいつも通り、アルマス、ロイ先生、クアリアの職人達で作業をするわ」


 ゴーレムを使った土木作業は聖竜領の得意技だ。季節を問わず、上手くやれるだろう。


「南部までの道中に休憩できるところが無いのが気になるな。作業員は野営か?」


 ハリアの湖まで歩いて二日はかかる。そこまで舗装するなら途中に休憩できる場所が必要だろう。


「ええ、ウイルド領で使わなくなった野営用の天幕なんかが送られてくる予定になってる。途中と湖の近くに野営地を作って仕事をすることになるわね」


 ウイルド領主ヤイランは随分大人しくなったという、そこで使わなくなった品を放出しているのだろう。サンドラも上手くやったものだ。


「それと、街道に続いて南部の開発を他にもしたいの。アルマスの言った案が採用よ。小屋を部品ごとに分けて川で流して現地で組み立てるっていうの」


「そうか。採用されたか……」


 サンドラの言葉に俺は素直に喜べなかった。今の発言を聞いて、スティーナの表情が固まったからだ。


「サンドラ様。念のために聞くけれど、その小屋の部品というのを作るのは……?」


「もちろん、あなたよ。それだけじゃないわ、聖竜領内では宿屋の増築もあるし、農家も増やす。人手の方は、クアリアから人が派遣されてくるから安心して。ただ、今後のことも考えて、工房の拡張もお願いしたいの。人も増やしてね」


「こ、今後って……?」


「南部に別荘。それと、領内に宿屋以外の建物を建てる話も出てくると思うの。だから、スティーナは相当忙しくなるとおもう……」


「う……。いや、大丈夫。やってみせるよ! 仕事があるのはいいことだ! それに人手もちゃんと手配してくれてるんだからね、あたしはやるよ!」


 一瞬怯んだスティーナだったが、すぐに立ち直ってやる気を見せた。頑張りすぎないか心配だ。過剰に働いて体調を崩さないように、それとなく様子を見にいくようにしよう。


「わたし達の方でもできるだけのことはするから。それと、宿屋だけれど。ダニーはドーレスが帰って来次第、クアリアに向かってダン商会のクアリア支店を作る準備を進めて欲しいの」


「はっ、はい! 前にそれとなく話されましたけれど、やるんですね?」


 名前を出されて驚いたダニー・ダンが目を輝かせながら問いかける。


「ええ、皇帝陛下が眷属印を使うことで、聖竜領産の品を求める人は増える。でも、聖竜領に沢山人を滞在させることはできないから、クアリアである程度商売しないと」


 これについてサンドラは事前にダニーやドーレスと話し合っており、クアリアの商会に卸して商売するのではなく、直接支店を持つ方向にした。偽物や混ぜ物が極力出ないようにするためと、聖竜領で儲けるためだ。


「眷属印の品は商品数が少ないから、これまで作って置いた分と冬の間に獲れるハーブや薬草も置くようにしようと思うの。これはそこまで負担にならないようにしたいわね」


「そちらについてはエルフ村の方である程度対応します。ご安心を」


 気難しい顔をし始めたサンドラをフォローするようにルゼが言った。


「ありがとう。それと最後、冬の間、農家の子供達と希望者に簡単な読み書きと計算を教えるようにしたいの。これも大切なことだから、できるだけ手伝ってくれると嬉しい」


 その方針に異論を唱えるものはいなかった。辺境であっても読み書きくらいできて損は無い。都会出身で学のある者が多い聖竜領だ、時間を見て誰かしら面倒を見ることになるだろう。


「できれば、雪が積もって動きにくくなる前に街道の方だけでも目処をつけたいのだけれど」


「急ぎだな。物資の輸送にハリアも手伝ってくれるだろうから、なんとかなるさ。怪我や倒れる者が出ないように気をつけよう」


 仕事が多くて気ぜわしいが、こういう時こそ安全かつ堅実にことを運ぶべきだろう。


「しかし、思った以上に忙しくなりそうだな」


「わたしもゆっくり過ごしたいから、春以降にみんなで時間を作ってしっかり休みましょう」


 サンドラが苦笑しつつもそんなことを言う。まったく、思いもよらず、忙しい冬になったものだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 湖は魚とか居ないんだよね
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