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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十章「二度目の収穫祭と次の冬へのあれこれ」

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126.「しかし、来年以降も忙しくなりそうだな」

 ヴァレリーとマイアとハリアは予定通り三日で氷結山脈から帰ってきた。

 驚いたのはそこからだ。妙に元気になったヴァレリーはその翌日には南部への視察へ赴くと言い出したのだ。

 予定を考えればとても助かる話だったが、流石に俺も困惑した。本人が肌をツヤツヤさせながら楽しそうにしていたのと、クロードの許可があったのもあり決行となった。


 念のため、ハリアの作った水で眷属印のハーブティーなどを飲んで出かけることになった。 そして、南部への視察へ出発して三日。湖の畔で野営で焚き火を囲む俺達の中には、今まで見たことのないくらいご機嫌なヴァレリーの姿があった。


「正直、少し心配していたんだが元気そうだな。ヴァレリー……」


「おかげさまで、とても爽やかな気分です。久しぶりに十全に体を動かせましたし。アルマス殿とハリア君が協力して作ってくれたハーブティーのおかげで心身ともに充実しています」


 焚き火を眺めながらうっとりと言うヴァレリーは満足そうに微笑んでいる。いつもクロードの奇行に眉をひそめているのとはかけ離れた光景だ。


「帝国五剣にありがちな話でね。剣を振るのが好きで上り詰めたら、政治的な立ち位置になって思うように振るまえなくなるんだ。政治に関わるほどの剣技は素晴らしいとしかいえないけれども、皮肉な話だね」


「ロジェと皇帝と同じか。なかなか大変だな」


「聖竜領に来て正解でした。ここなら思う存分、剣を振れますから。私達も別荘を建てましょう。なんならクロードを置いて私だけ来ます」


「気に入って頂けたのは嬉しいですが。氷結山脈に一人で入らないでくださいね」


「わかってるわよ、サンドラ。ハリア君とマイアと三人で行くわ」


 顔を引きつらせながら言ったサンドラに対して、ヴァレリーが笑顔で言う。サンドラからすれば要人が危険な氷結山脈に毎度足を踏み入れるのは嫌だろう。残念ながら、帝国五剣の面々は誰も自重しそうにないが。


「まあ、その辺りはおいおい話し合うとしよう。ボクとしては南部の視察に成果があったことも嬉しいね」


「少々距離はありますが、港にちょうど良い場所がありましたね」


 クロードにサンドラが同意した。南部の湖から東に行き、海沿いに歩いたところ、軽く湾になっている岸と岩場を見つけたのだった。

 これは少し前にハリアに南部を見回ってもらっておいたことが幸いした。いくつか候補地が事前にあったおかげで、探索は非常に楽になった。

 そして、工事をするとなると大変そうだが、なんとか港にできるのでは、というのがサンドラとクロードの見立てだ。


「造るのは小さめの港。南北から交易品と海の幸が入るようになるの。ハリアが了承してくれたのがちょっと驚きなのだけれど」


「ちいさな港ならいいよ。ハリアも珍しいものとおいしいもの、ほしい」


 夕食をとって近くで満足気に膨らんでいたハリアがそう言うと、ころんと転がった。

 それを見たヴァレリーが目を見開く。


「ハリア君。今度、おいしいお菓子届けるから。また、遊びましょうね……」


「わかったー」


 ギラギラした目で言われてもどこ吹く風で答えるハリア。見てて少し心配になるな。


「安心してくれたまえ。妻は可愛いものが好きなだけだ。害はない。それより問題は資材関係だね。聖竜領は遠い上に、この辺りは更に遠い。計画をしっかり練らないといけないね。作業小屋を作るだけでも苦労しそうだ」


「それなんだが、資材関係は木製の建物を部品単位にばらして川を流せばいいんじゃないか? それを湖の近くで受け取って一気に組み立てるんだ。昔、どこかの国の戦史でそんなことをした話を見たことがある」


 南部に向かって流れる川は水量も比較的多い。部品を乗せた筏くらい流せるだろう。なんなら人もそれで運べば良い。


「いいね。その話、ボクも読んだことがある。まあ、今思い出したのだけれどね。他にもなにかあるかい?」


「いっそのこと、小屋を作ってハリアに運んで貰うのもいいな。俺が前に住んでいた小屋くらいのものなら運べるだろう」


「……そうね、あれくらいのが複数あれば作業小屋としてなら使えるわね。資材さえあれば環境はどんどん整うわけだし」


「ハリア、アルマス様の昔の家ならはこべるよ」


 どうやらハリアもやってくれそうだ。この際、俺が長く住んだ住居が作業小屋レベルだったことは気にしない。


 俺の言葉とサンドラの評価にクロードは満足そうに頷く。


「聖竜領の領主と眷属が了承してくれるなら、それを計画に盛り込もう。ボクも考えがあってね、東都で試しているレール馬車を導入しようと思うんだ」


 第二副帝の口から出たのは知らない単語だった。

 疑問が顔に出ていたのだろう。説明好きなクロードは楽しそうに話を続ける。


「レールというのは二本の長い鉄の棒でね。その上に載るように車輪を調節した馬車を用意して、馬に引かせるんだ。そうすると、揺れも少なく速度も安定して大変便利なんだよ」


「レールのある場所でしか使えませんが、ここならそれが良い方向に作用しますね」


 確かに聖竜領と南部を往復するだけの一本道は設置するのに打って付けだ。


「それに将来、ここは皇帝や第二副帝の別荘ができる。そこに向かう道に最新の乗り心地の良い馬車が走っているのは悪くないだろう?」


「流石は第二副帝だな。そこまで考えているとは」


「それは正解というには半分ですよ、アルマス殿。主人は新しいものを試したいというのが本音です」


 横からヴァレリーが言うと、クロードの動きが止まった。どうやら図星らしい。


「……ただ、乗り心地が良いのは確かですし、皇帝陛下が来ることを考えると私も反対できません」


 そのことにあからさまにほっとするクロード。この夫婦の関係がよくわかる構図である。


「まあ、今話せるのはこんなところかな。皇帝からの援助もあるだろうし、問題は資材と人材。港ができた後も考えないとね……」


 クロードはそう言いながらも、自分の考えを次々と披露する。それに応じるのはサンドラだ。彼女も領主として思い描くものがある。俺は特に口を出す気も無いのでそれを聞きながら、ある意味一番の当事者である聖竜様に問いかける。


『聖竜様。なんだか南部で色々やる流れですけれど気になることはありますか?』


『いやない。いや、やっぱりある。気になるのは海の幸じゃの。舶来品もじゃが、トゥルーズの調理する海の幸はかなり気になる』


『…………』


『あ、お主今ちょっと呆れたじゃろう。それでいて一番最初に味わうんじゃからな。ちょっとずるいぞい』


『できるだけ早く、聖竜様に持って来ますよ。念のため聞いておきますが、この周辺の海に危険はないんですか?』


『ハリアがいるから大丈夫じゃよ。ああ見えて、立派な水竜の眷属じゃ。船乗り達の守り神になるかもしれんのう』


 言われてハリアを見てみると、俺と聖竜様の会話に気づいたのか表情引き締めて自信ありげな笑みをして見せた。


『まあ、頼りになるのはたしかですね』


 実際、水竜の眷属として彼の働きに問題はない。


「しかし、来年以降も忙しくなりそうだな」


 誰とも無くそう呟くと、横にいたサンドラが頷いて言った。


「ええ、頼りにしているわ。アルマス」


レール馬車は19世紀のロンドンを初め、世界各地で見られたそうです。

後に蒸気機関車にとってかわられたのですが、この作品世界は産業革命が微妙に起きていないのでしばらく活躍するという感じでお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然なのですが、ちょうど昨日Wikipediaで馬車鉄道の記事を読んでいたので『レール馬車』の件でおおっと思いましたね。 それにつけても竜の皆さんはぶれませんね…食欲に素直なのは良いことです…
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