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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十章「二度目の収穫祭と次の冬へのあれこれ」

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118.これまでの緊張も何もかも吹き飛んで気が抜けたらしい。

「はーい。みんな、ご飯ですよー」


 柵で囲われた小さめの敷地内、そこに放たれた鶏に楽しそうに餌をあげるアリア。

 聖竜領の領主の屋敷近くにある、鶏小屋前の光景である。

 昨年作られてから、皆に色々な意味で大切にされている鶏達。俺もたまに餌をやったり小屋の掃除を手伝ったりしている。


「思ったよりも数が増えてきたな」


 周囲に寄ってきた鶏に餌を撒きながら呟くと、アリアが満面の笑みで反応した。


「ですねー。まるまる太って可愛いですねー。……収穫祭の頃が食べ頃でしょうか」


 元々鶏をさばいた経験があるだけあって、アリアは「可愛いから食べれない」というタイプではない。むしろそこは割り切れる人だった。生きる上で必要なことだからな。美味いし。


「収穫祭か……。人口も増えたし、昨年よりも賑やかになるだろうな」


「はいー。みんなもそんなことを話してましたねー。そのへん、アルマス様はサンドラ様から何か聞いてませんかー?」


「いや、聞いていないな。相談もない。……あの状態だからな」


 アリアの質問に俺は首を横に振って答える。


「あー、あの状態ですからねー」


 残った餌をまとめて地面にまきつつ、アリアはうんうんと頷いた。

 領主サンドラは今ちょっと面倒な状態になっているのである。


「サンドラのことだから考えてはいると思うんだがな……」


「でもちょっと心配ですよー。なんとかしないとー」


 たしかに、そろそろサンドラの方もどうにかしなければならないだろう。

 時間は大切だ。聖竜領は仕事が多い、色々と対応が後手に回るのは望ましくない。


「少し話してみるか。皆、心配しているしな」


「はい。お願いしますー」


 アリアに頼まれると、俺は鶏達へ餌を一気に振りまいた。


○○○


 領主の執務室にいくと、予想通りの状態のサンドラが仕事をしていた。


「…………あー」


「サンドラ様。変な声ださないの。はい、農家の皆さんのハーブ栽培協力の謝礼の書類」


「……はい。うん、大丈夫だからこのままやって頂戴」


「それと、クアリアとの交易の数字、まとめておきましたけれど」


「合ってるわ。ポーションの生産はユーグとロイ先生に……ふぅ」


 マノンに問いかけられて応答はしているが、今ひとつ精彩に欠ける領主の姿がそこにあった。今も俺が入ってきたことに反応もせず、すぐに遠い目をして外の景色を眺め始めた。


「…………あー」


「あまり気の抜けた声は出さない方がいいと思うぞ」


「……アルマス、来ていたのね。なにか用があったかしら?」


 俺の指摘に特に気にした様子も無く、微妙に緩んだ顔でサンドラが聞いてきた。


「……やれやれだな」

 

 呟きつつ、俺は執務室内の椅子に座る。今日の護衛であるマルティナがすかさずお茶の準備を始めた。室内を見渡すと、マノンと事務のメイドが無言でこちらを見てきた。「なんとかしてください」ということだろう。


 先日、義母と義兄を追い返して以来、サンドラはずっとこんな感じだ。

 父親のことが気になっていて片手間に対処するようなことを言っていたものの、いざ事が終わると一気にこうなった。

 自分の今の境遇に追い込んだ宿敵に引導を渡したということで、これまでの緊張も何もかも吹き飛んで気が抜けたらしい。


「俺の用件というのは君の件だ。サンドラ、どこかで休養というか、気晴らしでもしたらどうだ?」


「……マノンが来てからちゃんと休みもとれるようになっているけれど。疲れてるように見えるかしら?」


「かなりな」


「サンドラ、貴方疲れてるわよ」


「ですです」


 俺の返答に乗っかるようにマノンと事務のメイドが追従した。

 更にリーラも心配してトゥルーズに元気が出そうなメニューをこっそり頼んでいる。おかげで最近、食事が豪華だ。


「……そうかしら。確かに、自分でも景色をながめてることが増えたけれど。心に余裕ができたんだと思ってた」


「いや、それは違うぞ。明らかにいつもと様子が違うし」


 どうやら、本人はあまり自覚が無かったらしい。


「なるほど。どうやらわたしの自覚がおかしかったみたいね」


 執務室内の全員の意見が自分と違うことを確認して、ため息を一つつくサンドラ。

 こういう時、色々と気晴らしができる場所があるといいんだが。聖竜領の近くだとクアリアが一番大きな街だが、あそこもイグリア帝国内だとまだ田舎だしな。

 ……いや、なんとかなるか。


「サンドラ、休暇をとってリーラと一緒にクアリアに行ってきたらどうだ。今ならスルホとシュルビアが帰ってきているだろう」


「それは良い考えですね。流石はアルマス様です」


 俺の思いつきに最初に賛同してくれたのはマノンだった。

 聖竜領まで来るほど余裕が無いからか顔を見ていないが、スルホとシュルビアの二人はクアリアに帰ってきている。


「二人は君が幼い頃からの知り合いだ。父親のことも含めて色々と相談できるんじゃないか?」


 彼らだってサンドラの近況は気になっているだろう。それに彼女の父親とも面識があるはず。色々と助言してくれるはずだ。なにより、サンドラが頼れる貴重な人材というのも大きい。


「たしかにそうだけれど。でも、仕事が……」


「それなら大丈夫でしょう。クアリアは近いですから、何かあれば一日で戻って来れます」


 マノンのその一言がダメ押しになったのか、サンドラは癖毛に触れてしばらく考えると、遠慮がちな笑みを浮かべて言った。


「うん。みんなの気持ちに甘えることにするわ。少しの間、休みをちょうだい」


 それから二日後、業務の引き継ぎとクアリアとの連絡などをして状況を整えてから、サンドラとリーラは聖竜領から休暇で旅立っていった。

ちょっと何かが燃え尽きたサンドラ、休暇へ……。


今日は何とか更新できましたが、次から週一になるかもです。

ご了承ください。

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