006
右を見渡せば賀ンマ忍軍。
無論、ただ鍛えられているというわけではない。中には片腕のみが妙に長かったり、両足が胴体に比べて異様な隆起を誇っている者がいる。
かと思えば無駄に福々と肥え太ったものもいるが、それもただ太っているだけということはあるまい。
賀ンマ忍軍の鍛え抜かれた肉体美が陽光を受けてテカっていた――そう、賀ンマ忍軍はほぼ全裸だった。
『別にほぼ全裸なのはいいんですけどねえ。アゼリさんとかディーさんとか、ハッスル丸さんだってほぼ全裸ですし』
「なんでそろえたように無毛・無甲の肌の奴らばっかなんだろうな。それに服着てるかと思えば目の粗い網タイツだの皮やチェーンの柄の悪そうな服だの、センスがわからん」
(古代の忍者は全裸のほうが機敏に動けたというが――いや、俺は詳しくないしな、何とも言えん。で――)
左を見渡せばオメ賀機忍衆。
影鯱丸と同程度、4mから、高くても5m級の小型魔動機が十数機並んでいた。他にもデスクワークを改造したらしい機体が数機ならんでいる。
小型魔動機、こちらでは機忍装という――は、これもなんともバリエーション豊かだ。数が少ないのは、やはりコアが希少だかららしい。
影鯱丸は標準的な機体だったのだろう、細身の機体や大柄な機体、さらには脚部や腕部にギミックが仕込まれていると思しき機体や腕や足が複数ある機体もある。
「あの機体なんか、装甲に妙な隙間があるよな。あれじゃバラけちまいそうだけど」
『おそらくは可変機構が仕込まれているんだろう。あの感じだと……変形形態は四足獣だな』
「魔動機で精霊機の精霊形態みたいな機構とかよくやるな……って、なんで見ただけでわかるんだよ」
『見ればわかるだろう』
完成図を見れば説明書無しでもプラモが組めるゼフィルカイザーにとって、変形機構の類推はそこまで難しくはない。機忍装は機体体積に対して搭乗者が占める割合が多いため、なおのことだ。
だが、忍者ロボ軍団を見てもゼフィルカイザーのテンションは上がるどころか落ち込む一方だ。
(経験値……資金……隠しフラグ……勝利条件……うっ、メイン回路が……!!)
ぬぐい難い前世のトラウマが喚起されていた。
「ていうか存外少ないんだな、魔動機」
『帝国の外やともともとこんなもんやろ。帝都におったせいで感覚麻痺っとるだけや』
「かなぁ。あと頑張タイプに乗ってる人だけじゃなくって、機械仕掛けの武器つけてる人も多いな。
あの人なんか腕まるまる機械で覆って――いや、ひょっとしてあの腕、全部機械仕掛けか?」
『せやろうな。ねーさまの義手義足とおんなじ感じがするで。細工の精度はオメ賀のほうが上やけど、からくりの構造はねーさまのが上やな』
「見ただけでわかるもんなのか?」
『いや味見したでな。ねーさまのは残骸をくすねといたし、こっちでも失敗作をちまちまと。でもゼッフィーには遠く及ばんな』
「はいはい――しっかし、凄いんだけどへんてこなのも多いと言うか……あ、ジ・インセクトさんだ」
ろくろ首を見つけるアウェルだった。
そして背後には、ずらりと並ぶガン魔忍法寮。得体のしれない陣を敷いて香を焚き呪文を唱えている。
やっていることが忍者じゃなくて陰陽師や道士のそれであるということを除けば、三つの軍勢の中ではまあまともな方と言えた。
もっとも、その陣を取り囲む異形の者どもは尋常ではなかったが。魔動機に匹敵する体躯の赤い鳥、青い竜、白い虎、黒い亀が鎮座している。
『……で、あれ、なんなの?』
『たぶん式神だろう。陰陽師が使う使い魔だ。精霊機みたいなもんだろうな』
『え? あれがですか? 冗談でしょう』
『おそらく大人数で儀式を行うことによって顕現させているんだろう』
『それはそうなんでしょうけど、私が言ったのはそうじゃなくてですね。あのぬいぐるみみたいなのが精霊機と同じって』
そう。四聖獣っぽい四体の巨獣は、無駄にデフォルメされて丸っこい外見をしていたのだ。今日びアトラクションの見世物だってもう少しリアルだろう。
だがゼフィルカイザーは落ち着いていた。
『あんまりリアルで怪獣チックだと別のほうを敵に回すからなあ――むっ!?』
陰陽寮の陣の周りに、さらに四体、式神が顕現した。今度は黒い竜、赤い猩々、紫の蛸、象牙色の鳥という――
『アウトォオオオオオ!!』
「うおっ、どうしたんだゼフィルカイザー!? おっ、さらに出てくるぞ、今度はなんか透明な感じの――」
『いろんなものに抵触する前に全て斬り捨てるぞ、来い、機神剣……!!』
「まだ敵と当たってもいないのになにやってんだ! あ、おい、なんか偉そうな人たちが出てきたぞ」
居並ぶスッパ島忍軍総勢の前に音もなく現れた忍者は四人。筋骨隆々としたすごい体の忍者、四肢を義体化し雷光を迸らせる忍者、鬼火を漂わせた白髪の老人。そしてそれらを従えた、小柄な老爺だ。
『見たところ、三つの里の頭領っぽいが……あの老人は?』
尋ねるや否や、足元、頑張の整備を終えて起動したハッスル丸が、調子を確認するようにゼフィルカイザーの肩に乗った。身のこなしはまるで別人と言っていいほど軽やか、かつ鋭い。整備は十分のようだ。
「ゼフ殿の御慧眼の通り、あれらは三つの里の頭領にござる。それぞれブロンズ伯殿、ライトニングサンダー殿、ファントム斎殿。
そしてあのご老体は三つの里の調停役も兼ねる忍者学校の長であらせられる御仁――メイルシュトローム殿にござる」
「忍者は、ガッツだってばよ……!!」
『よし、この島滅ぼしてやる……!! O-エンジンツインドライブ……!!』
短く訓辞を告げた老爺を存在させておけまいと、転生機がその真の力を解き放とうとする。
「だから敵じゃないって言ってるだろ!?」
騒ぐゼフィルカイザー達をさておき、ブロンズ伯がメイルシュトロームから言葉を引き継ぐ。
「祭、忍ファイトが行われなくなって久しい昨今、我らが先祖が封じた鬼が島の女全てをよこせと告げてきた。
我らは無体に応じるわけにもゆかず、さりとて不義理を働いた手前断るわけにもいかず誠意を見せたつもりであったが、鬼は我らの手を打ち据えた」
(盛大に挑発しといてよう言うわ)
「三里の間にはそれぞれぬぐい難い遺恨があろう。我も親兄弟をこやつらに奪われた」
「それはこちらのセリフよ」
「ギギ、サ、左様、ギギ」
「だが――このままでは鬼めに、我らの全てが奪われよう。我らの切なる願いに応え、こうして七人の勇士が侍として馳せ参じてくれた」
『そんなもんになった覚えは――』
「いいから黙ってろって」
『ぐおっ、コックピット内を蹴るな! というか最近、容赦が無くなってきたな、お前も』
胸を抑えつつ、ゼフィルカイザーは左右に並ぶ機体を見る。
右には装甲が改修されたミカボシ、その向こうにはやはり改修されたデスクワーク。
左には打ち直し跡のある大斧を携えたダーザインと、装甲を軽量化したヌールゼック。
足元にはハリネズミのように大量の剣を抱えたセルシアだ。
『何故かみんなやる気満々だし……』
『今更グチグチ言うとか情けないですね、自称正義のポンコツ』
『ゼッフィー、自分のルーツかもしれん言うとったやんか』
通信先からも突っ込みが入る。もはや退路はない。
『ッ、センサーに感、前方ッ』
ゼフィルカイザーのAIがショートしかかる中、軍勢に立ちはだかる七色の山から影が揺らめいた。不確かだった像が姿を結ぶにつれ、足音も確かなものになっていく。
果たして現れた軍勢に、忍軍からもどよめきが走る。
朽ちた鎧兜を見につけた武者、鋤や鍬を手にした農民。いずれも目立った形質などはなく、ゼフィルカイザーには大河ドラマのエキストラに見えなくもない。
だがいずれも土気色のただれた肌に淀み切った瞳と、生体反応を探るまでもなく連中が死人なのは明らかだ。
それのみであったなら魔動機など不要だろうが、そう思わせないのが歩兵を踏み砕きながら歩いてくる巨大な鎧武者だ。
ミカボシに比肩する巨躯、おそらくは骨董魔動機なのだろう。しかしゼフィルカイザーの聴覚センサーにも、それを通して聞き取るアウェルの耳にも、鎧武者がミュースリル駆動でない、異質な力で動いているのは明らかだった。
何より異質なのが、踏み砕かれた兵士が、まるで巻き戻すように元に戻り隊列に加わったことだ。
死体を操る力を持つ魔法は見たことがある。プラウド・ジャッカルのビルガンデルも、生体部品は修復能力を持っていた。
だが同系統の魔法だとするならば――少なく見積もっても既に3000を超えた軍勢すべてを操る鬼とは、どれほどの魔力を持っていると言うのか。そもそも、魔法の仕業なのか。
忍者たちも、ともに並ぶ魔動機乗りたちも慄いている。およそ人のなせる業ではないからだ。
未だ正体を隠した黒騎士ガルデリオン・シング・トライセルもだ。この場にいる者の中でおそらく唯一、これと同等の事象を引き起こし得る存在――実弟、魔王アルカディオスを知るが故に、シングの戦慄はともすればこの戦場の誰よりも大きかった。
そんな中、ただ一人、否、ただ一機臆することのなかった者が、布に巻かれた得物を構える。
「っ、ゼフィルカイザー?」
『ふ、ふふ……ゾンビ武者にゾンビいっき、そしてゾンビロボ……なんて普通なんだ……!!』
布が振りほどかれ、得物の姿が露わになる。幾本もの銃身を備えた火砲、ガトリング砲だ。大魔動杯決勝戦で用いたものをスッパ島でリビルトした物だ。
無論、ただ作り直しただけでなく、細部もより調整されている。だが、最大の違いは素材だ。新たなるガトリング砲の表面には、木の年輪を思わせる目が不規則に入っている。当然だ。何せ木製だ。
『普通の魑魅魍魎どもめ、私の、この私の、全然普通じゃない砲撃を喰らうがいい……!!』
木製ガトリングが火を噴き鬼の軍勢の先触れを蹴散らし、それが開戦の号砲となる。
「おお、なんというますらおぶり――!!
者どもつづけ、我ら、故郷を守るため、百鬼夜行とならん!」
後の世にいうスッパ島大戦・百鬼夜行の陣の始まりだった。




