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010

 オメ賀の里の一角にある屋敷にて、下女は奥方が庭先に立っているのに気づいた。


「どうなさったのですか、おギフト様? 戦の様子が気になられるので?」


「――――とのが、よんでおられる」


「殿が……? ッ――!?」


 下女もまた忍びである。奥方、おギフトが正気でないことに気づき、着物をはだけると胸部の二連装拘束粘液射出装置を発射、拘束したが――おギフトの手の甲に歪な文様が浮かび、弾けるのには気づかなかった。

 同様の光景は他の里でも見られた。


「おマネー様!?」


「マダムバタフライ、お気を確かに!」


 存命中の六人の嫁ぎ女すべてが同様の所業に及んでいた。そして、ここにも一人。


「――――それが、お主らの役割か」


「そういうことだえ。ま、今となっては手遅れだけどねえ」


 荒れ狂う空、境内を風が薙ぐ中、対峙する老人と老女。


「それでどうするね? こちらの役割はもう果たしたがね」


「何を言うか。忍者が二人ここにいるのだ。なれば――」


「やるかい。なら、尋ねたかったことがあるんだがねえ、バレット」


「なんだ、ミラージュ」


「アンタはなんでアタシを欲しがらなかったんだい。アタシは、あんたを慕っていたってのに」


「知れたこと――拙者が、お主を恋うておったがゆえよ」


 天を狂わす源、忍界山の虹の障壁が解けゆくのすら目に映さぬ。二人の目には、互いのみが映っていた。


「鯱の童よ。貴様の激憤至極最も――されど我らはこのようにしか生きれぬ。貴様は、違ってみせろ。変われなかった、我らの代わりに」


 二人の間に気が極限まで高まり、かつて愛し合った者同士が秘奥と秘奥を激突させる。

 忍びの理、ここにありとばかりに、あるいは過ぎ去りし刻を取り戻すように。そんな光景すら一幕に過ぎぬとばかりに、邪鬼の胎動が島全体を激震させた。




 激動する忍界山の中、巨大柱を除くあらゆる構造がまるで融けるように崩れたかと思うと、うねりを帯び、やがて地面が渦を巻きだす。

 それだけではない。巨大柱の隙間から垣間見える虹色のドームがほつれ、実態を失っていくではないか。


「ちょっ、なによこれ!?」


『大丈夫かセルシア、早く入るんだ――なんか今凄い殺気を感じたんだが。

 とにかく、あれが邪鬼とやらじゃあなかったのか、何かわからないのか、ゼフィルカイザー!?』


『……あくまで、推察だが。何一つ、遊びなどなかったのだとしたら。封印がほつれてからこの日まで、何もかもが奴の計画通り進んでいたのだとしたら』


『流石――我を押し込め、隠居せしめただけのことはある』


 地面から、それだけではない、周囲一帯の空間から声が響いてくる。何かがそのように、空気を直接揺さぶっている。


『すべてはこの封印を解くための茶番。外に封を解くための手駒を送り出すための計略よ。

 そして封印の要たる彼奴めの式神を我の手駒とし、それも貴様らの手で砕け、封を解く贄となった』


『つ、つまりどういう筋力なのだ? 筋力で説明してくれ!』


『おそらくだが、嫁ぎ女はここで奴の世話をするうちに籠絡されるなり洗脳されるなりして、忍界山の外にあっただろう封印の要を解く手駒にされていたんだろう。

 起点となっていたのは式神で、完全に解くことはできないでも乗っ取ることはできた、あくまでおそらくだが』


『ほぼ正解だとだけ言ってやろう』


 鳴動が、ゼフィルカイザーの推察を評価する。


(結局は忍者ども同様にふざけた奴に過ぎんと思えば、この計画性に、計画自体の遠大さ……!!)


 少なくとも人と同じ時間スケールを持つものでは絶対にない。ゼフィルカイザーは警戒値をかつてなく跳ね上げ――


『そう――七人の嫁ぎ女に、七体の式神、それこそが我が求めし者よ』


『危ない表現をするんじゃない……!!』


 危険極まる言い回しに、警戒値をレッドゾーン限界点で固定した。


『何を言う? 七つの秘宝を集め願いをかなえるのは伝統というものだろう。原初、集めるべきは四十八だったという話もあるが』


『どこの世界の話をしている……!?』


 もう忍者もロボットも関係ない、ゼフィルカイザーは中枢回路がバグとエラーと魔力でスパークする感触に身悶えながら毒づいたが――


『貴様は、よく御存じだろう?』


 カメラアイの瞳孔部が見開かれる。それ以上問い質す暇はなかった。地面の波打ちが一転して止まったかと思うと、地面全体に魔力の輝きで描かれた陣が映り、陣を粉々に砕きながら忍界山の土壌全体がせりあがり出した。


『ッ……粒子バリア、最大出力……!!』


 大魔動杯予選で受けたジャルルバルルの機道奥義が比にならないほどの土石流が、七人の雇われたちを襲った。




 粒子バリアごと押し出されたゼフィルカイザーは、波が収まったのを確認してバリアを解く。周りには僚機に加え多数の生体反応。どうやら、忍者たちの陣まで押し戻されたようだ。


「くっそ……大丈夫かゼフィルカイザー、セルシア、みんな!? あとついでにシングのアニキ」


『大丈夫だ、ありがとうアウェル』


『筋肉が、もう少し筋肉が足りていれば……!』


『そういう問題じゃないと思いますレルガリア殿。アウェル殿、ゼフィルカイザー殿、私もなんとか』


『それでなんで俺が一段下の扱いなんだ……!!』


『相変わらず広い割にごちゃごちゃしてるわねー、こっち。

 どうにか無事よ、っと。非常食とあいつの彼女はどこ、に……え?』


 ミカボシの背から頭を出すセルシアだったが、影鯱丸の姿を求め視線を巡らし、ふと、自分たちに影を落とす者に気づき、空を見上げた。

 そして、立ちはだかる巨大な影に、唖然とした。

 先ほどのギャザウェイブラスターで大きく吹き飛ばされた雲が、再び渦を巻いている。台風の目のごとく円形に区切られた天の穴からは、三度大きくえぐられた天津橋が目に映る。そして、欠けた天津橋と太陽を背負い立ちすくむ巨大極まる人型も。

 材質は最初に戦った一揆どもやアーマリー、シソーラスなどと同じ、忍界山の内部の土そのものだろう。その全てが凝縮した巨大人型は、手足に鎧をまとっていた。これも、忍界山の内部構造を作り出していた巨大な柱だったものだ。

 巨躯も巨躯、忍界山それ自体と同等の身の丈を誇る威容は、ヴォルガルーパーすら片足で蹴り飛ばせそうなほどだ。


『山の中に鬼を封印していたんじゃない……山で、蓋をしていたということか』


『つくづく、よく御存じだ』


【未知の機体を確認しました】


 遥か上方からの声と共に、ゼフィルカイザーのセンサーが反応を得た。

 ゼフィルカイザーのセンサーはゼフィルカイザーの見知った機体群どおりに分類して回答を寄越す。即ちこの反応の元は魔動機マジカライザーでも精霊機エレメンタライザーでも電動機モーターライザーでもない、ましてゼフィルカイザーと同型機でもない、完全なる未確認兵器ということだ。

 反応の元は、巨人の首のあたりだ。そこに、今までの邪鬼の軍勢のように捏ね上げられながら形成される姿があった。

 だがそれは今までのような土気色の味気ないものではない。ダークグレーの装甲に覆われた細身ながらもマッシヴな体躯には光のラインが走り、蛍火のように光が揺らめいていた。そして鬼というだけあり、天を突くような一本角が伸びている。

 背中には仏像の光背を思わせる輪が背負われているが、その片鱗は刃で覆われている。その数百八。戦輪チャクラム、否、百八方手裏剣だ。その手裏剣の中には、鬼火が巴紋の形で燃え盛っていた。

 なにより特徴的なのが頭部だ。ダークグレーで統一された機体の中、頭部カメラアイと思われる部分が、鳥か何かを思わせるような赤いバイザーで覆われている。


『改めて名乗ろう。我こそジ・オリジン――貴様たち忍びの者にとっての、もっとも古くそして新しき光である』


 神のごとく睥睨しての宣言に、しかし忍者たちは言葉もなかった。オクテット同様、ジ・オリジンの放つなにがしかの力が、忍者たちから自由を奪ってる。

 しかしこれほどの威容と圧力の前では、そんな力があろうがなかろうが同じことではないだろうか。

 シングもセルシアも、他の仲間たちも、声一つない。

 何よりゼフィルカイザーだ。玉座というよりは渡御する神を乗せる輿のような形の座に深く腰を下ろすジ・オリジンの姿に、言葉もない。


(忍者と神輿とかありえないだろ、次は忍者の癖に魔法でも使うつもりか? いいかげんにしろよスッパ島……!!)


 内心で全力で突っ込みつつ、解析を回し続ける。だがゼフィルカイザーの処理能力でも処理しきれない。

 なにせ電磁波重力熱量光量、およそゼフィルカイザーのセンサーで感知できるあらゆるものが異常値を示しセンサーが乱高下し続けている。その上、神剣を宿して以来徐々に感知能力が備わっている魔力が、否応なく降り注いでいる。


「……けど、やらないわけにいかないだろ」


 アウェルの感情値は既に高水準をキープ。O-エンジンフルドライブも行ける。だが問題がある。

 ヴォルガルーパーを倒した時の二次被害を思えば、ここには人間が多すぎる。忍者たちは平常であればむしろクマムシ以上の生存能力で生き延びそうだが、今こうして活動を縛られた状態では巻き添えは免れまい。

 それ以上に、果たしてジ・オリジンに今のゼフィルカイザー改|(仮)の力が通じるのか――だが、その時。再び大地が鳴動しだした。否、鳴動しているのは大地ではない、大地そのものの如き巨人の肉体だ。


『何事か、これは!?』


 主であるジ・オリジンが狼狽する。つい今しがたまで神々しさすら放っていただけに、ただならぬ事態が起こったことは最早明白だ。

 そして続くように、それを起こした張本人の声が響き渡る。


『クエックエックエッ、油断したでござるなぁ……!!』


『『貴様か……!!』』


 ゼフィルカイザーとジ・オリジンの声がハモった。


『要するは封印を成す七つの式神と、それを籠絡するための七人の嫁ぎ女。しかれど、貴様が用意したのは六人――故に貴様の封印は完全に解けたわけではあるまい。あのヘヴンズ・ウィードとやら、あれは貴様の現身うつしみであって式神ではなかろう』


『んっ、あっ、ああっ』


 自慢げに語るのと、艶っぽい女の声がオーバーラップする。ゼフィルカイザーの全身の回路を、エラーでもバグでもない、嫌な予感としか言いようがない物が迸った。


『思えば侍の伝説とは、この式神のことを指し示しておったのでござろう――ならば!』


『ンアーッ!!』


 絶叫と共に、巨人の肉体が裂けた。文字通り真っ二つに裂けた肉体の片方に座したジ・オリジンが印を組むと巨人は体積を減らしながらも身を形成し、鎧も身の丈に合った、より頑健な物へと鍛え直されていく。

 ジ・オリジンの赤いマスクの中の眼光は、ゼフィルカイザー達を見ていない。眼前で蠢く、己から分かたれた者を見据えているのだ。それはやはり人型を成した。眼帯をした、独眼の侍の姿を。


『里に伝わる伝説の侍が一人、そして貴様が手にし損ねた最後の封印――エックス兵衛、否――失われしバイソンズ、ザ・クロス!!』


『貴様……一度ならず二度までも、我の物を奪い取るか、下郎!』


『忍者でござるからなぁ、忍者らしくいただいていったまでのことよ、クエックエックエッ!!』


『さて、じゃあ島を出るか』


 ゼフィルカイザーは踵を返した。




 身を削いだとはいえ、鋼を纏い巨大な機械のごとき姿となったジ・オリジン側の巨人と、ハッスル丸とオクテットが呼び起こしたと思しき巨人。

 二体、いや二柱が相対するその光景は、神話のごとく人々の目に焼き付いた。一機、全力でその光景からカメラアイを逸らす者を除いて。


「い、いや、その……まずくないか?」


『もう嫌だ。とっとと島を出る。ゼフィルカイザーは賢く強い』


「けどさ」


『じゃあお前、あれ相手にO-エンジン起動させれるのか?』


「いや、そりゃお前……なぁ。けど、やらないわけにはいかないだろ」


 先ほどと同じセリフではあるがテンションは凄まじくダウナー気味で、事実、アウェルの感情値はゴリッと下がっていた。のみならず、さらにテンションを下げる声がコックピット内に響く。


『いやぁ、お願いでござるから加勢していただけんでござるかな?』


「うおっ、ハッスル丸!? どこだ……って、ひょっとしてこのお札か?」


『よしさっさと破り捨てろ!』


『ゼフ殿待たれよ』


『待たんわ! というか、そんなデカブツ持ち出せるんなら私の力なんぞいらんだろう!?』


 言う間にも、二体の巨人はそれぞれ得物を構える。鉄の巨人は大振りな大刀を、侍は侍らしく日本刀を。サイズが減じたとはいえ、それでも双方300m超はある。その切っ先が音速超過で雲を引いて激突して鍔迫り合い、生じた衝撃が大気を穿ち大地を揺るがす。

 こんな中、どう介入しろというのか。


『拙者とハチの力で封印の式神と契約し、彼奴めの力を剥ぎ取ったんでござるがな、維持するだけでも手いっぱいでござる。とりあえず――ムンッ!!』


『ンアーッ!!』


 ゼフィルカイザー、アウェルがいなければ自爆覚悟でコックピット内を焼き払ってやるのに、とフェイスマスク下の顎部関節を軋ませる。

 一方の戦場、巨人たちが激突するその足元では動きがあった。金縛りになっていた忍者たちが、戒めから解き放たれたのか戸惑い、うろたえている。


『同胞たちよ! オメ賀が抜け忍ハッスル丸と、ガン魔の元姫オクテットがこやつめの力を剥ぎ取った!

 存在だけで同胞たちを縛る、なるほどこやつは確かに忍術の神なのやもしれぬ。

 されどこの程度で剥げるならば所詮はメッキよ、我らを常に照らしたもう佐助大明神の光には遠く及ばぬ――見よ!』


 ザ・クロスの眼帯から光が放たれ、地上のある一点を指し示した。そこには白と黒に彩られ、機神の剣手にぽかーんと立つ機動兵器の姿が。


『こうして、佐助大明神の化身が降りてこられておる! ここがいよいよ正念場にござる!』


『ハッスル丸ぅうううううう!!』


 忍者たちの歓声が上がる中、機神は絶叫した。


『いーだろう、今すぐ貴様を解体して海生哺乳類のエサにしてくれる……!!』


「落ち着けゼフィルカイザー。なんかO-エンジン起動サイン出ちゃってるぞ」


『クエックエックエッ、こういう芝居も重要にござる――お、忍者たちから気が送られ始めたでござるな』


 ザ・クロスの攻撃に勢いが増す。だがジ・オリジンの巨体はそれを軽くいなしているように見える。


『こちらのデカブツは拙者が受け持つでござる、故にゼフ殿は首魁をどうにかしてほしいでござる!』


『るっさいわこの人鳥! いい加減に――』


『ふん、豆粒どもがどれほど寄り集まったところで所詮は豆粒よ。ククク、貴様らの妻女どもに我が精を注いでくれよう――』


「よーし任せろハッスル丸、あの野郎ぶった斬ってやる!」


【O-エンジン セミドライブ】


 展開した両腕の装甲からフィンがせり出し、青い焔と金色の粒子光が立ち上る。だが放たれる膨大な出力に反して、転生機は猫背になってうなだれた。


(はぁー……セミくらいだとこいつ、俺の許諾すっ飛ばして普通に起動するなあ。

 コツ掴んだのか、それともナノマシンのせいでシンクロ率でも上がってんのかなぁ、お約束通りに)


「どうしたんだよゼフィルカイザー!?」


『あーはいはい。放っておくのが危険なのは確かだし、奴には体に聞くこともある――君らは撤退して、忍軍の護衛についてくれ。デカブツの維持ができなくなったら、そこから総崩れになりかねん。では』


 流石にこの辺りは切り替えが早く、ゼフィルカイザーはブースターをふかして飛び上がった。


 


『……どうされます、みなさん』


 ひとまず一行に尋ねるケレルト。その声は疲れ果てている。忍界山内での激戦を思えば当然だろうが、しかしそこに感じる疲労感、否、徒労感は明らかに別の臭いを漂わせていた。

 だが、どうすると言ったところでこの超巨大戦だ。飛行能力もない機体では介入すら困難だろう。


『どのみち、僕は魔力が限界で……レリーは?』


『筋肉ぅ、筋肉ぅぅぅぅぅ……!!』


『駄目だ壊れてる。とにかく撤収しよう、シングさんもそれで――あれ、シングさん?』


 可動域が少ないデスクワークの頭を巡らしても、黒武者の姿が見受けられない。黒武者の肩に乗っていた、赤髪の蛮族と共に。


『いない……? それにセルシア様もどうされたんだ?』




 巨体の上を疾駆する白と黒の機動兵器の姿を、忍軍の目は捕えていた。斜面どころか絶壁と言っていいジ・オリジンの巨人体を、重力を無視し鷹のように駆け登っていく。


「おお、見よ! 垂直に壁を登るとは、あれこそ賀ンマに伝わりし体幹制御の体術! まさしく佐助大明神の御業よ!」


「否。天と地に己の気を交える術。凄まじきなり、シグ魔に術を伝えし、左方より助力せし輝ける大神よ!」


『いやいや、あれは脚部構造にスパイクを仕込んでいるに違いない、オメ賀においては当然の工夫よ! それもまた佐助大明神によってもたらされし発想……!!』


 ドウテイ3の喝采をセンサーでとらえてしまったゼフィルカイザーはテンションダウンを必死でこらえる。


「で、正解は?」


『重力制御に加えて推進力で無理矢理上っているだけだ。つまり超科学。忍法関係ない』


 ゼフィルカイザーの通常出力は以前の比ではない。加えてO-エンジンも起動している。

 だが元々、ゼフィルカイザーの飛行能力は重力制御と大規模推進による力任せのところが大きい。ならば、足場があるほうが速度が出るというものだ。

 なにより、ぶつかり合う巨体と巨体。ヴォルガルーパーのみが相手だったトメルギア公都戦とは違い、下手をすれば巻き込まれて潰されかねない。


『――この状況だ。私は機体制御と状況把握に専念する。ガイドライン通りに移動してくれ』


「了解、信頼してる。危ないと思ったら言ってくれ、オレはムーとかみたいに鋭くないんで、なっ――!!」


 巨体を大きく蹴り、その先、朧に燃える巴紋を背負う異形の鬼へと斬りかかった。

 機神剣の切れ味は知っての通りだ。およそこの世に斬れぬものなしと言っていい威力。

 だがゼフィルカイザーも、それにいいかげんアウェルも理解していた。こういう初撃は、大体決まらないと。

 黒鉄の刃がジ・オリジンに突き立たんとしたまさにその時、ジ・オリジンの直前で不可視の力場が刃を阻む。その手ごたえは魔力防壁とも、霊鎧装ともまるで違う。


『フォハハハハ!! 我が力の前にはいかなる攻撃も無力――』


【O-エンジン ツインドライブ】


 機神剣にフェノメナ粒子が収束し、刃が金色に輝いていく。それにつれ、刃が障壁に押し込まれ――


『「ほざいてろ!!』」


 障壁が両断された。斬撃の余波がジ・オリジンの座する神輿を斬り裂き、それで収まらない威力は大爆発を起こした。


『やったでござるか!?』


『余計なことをほざくな怪鳥――後ろだ!!』


 振り向ききる前に左腕で粒子バリア展開、バリアが大きく削られながら、攻撃を逸らしてのけた。

 質量のある攻撃ではない、エネルギー弾の類だ。性質はともかく形状は容易く読み取れる。なにせカメラアイが捉えている。光背を輝かせ、胡坐あぐらの体勢で浮遊するジ・オリジンを。

 その両手には、背の光輪にあるのと同じ、巴紋型のエネルギー体が回転している。


『エネルギーの手裏剣ということか……!』


「いやそれより、今どうやって避けたんだ?」


『流石、流石よのう、流石はかつて我を封じ込めただけのことはある、いや、流石』


『流石流石としつこいわ!! 貴様、一体私の何を知っている!? 貴様はかつての、魔法文明より以前の文明の遺産なのか!?』


『――――はて』


 ゼフィルカイザーの問いに、ジ・オリジンははて、と首を傾げた。


『――――我は、なんだ?』


 本当にわからぬという風に、赤いマスクの奥の視覚素子を明滅させ――


「っ、隙ありっ!」


『待てアウェル!!』


 斬りかかろうとする間に、ジ・オリジンが両の手のエネルギー弾を投擲してきた。


(ッ……これは……!!)


 慣性も規則性もあったものではない軌道を描くエネルギー手裏剣に、ゼフィルカイザーは回避パターンを示しながら歯噛みする。

 ブースターと重力制御を駆使し、ザ・クロスと格闘を続けるジ・オリジンの巨体を走り回るゼフィルカイザー。己の体だというのに、ジ・オリジンは容赦なく手裏剣による爆撃を続け、巨体には次々とクレーターが穿たれていく。


「飛んじゃダメなのか!?」


『お前はまだ飛行戦に慣れてないだろう、無茶だ――ッ、反応が?

 ……ッ、正面!』


 指示を耳にするや慌てて制動をかけ、真正面向かって斬りかかるアウェル。眼前に突如現れたジ・オリジンがギロチンの如きクロスチョップを振りかぶっていた。

 激突する金色の刃と、鬼火を纏うチョップ。決まったと、アウェルは思った。ゼフィルカイザーですら、この一刀を受ければただで済むまいと思っていた。

 しかし――余波でさらに大きなクレーターを穿ちながら激突した刃と刃は、双方無傷でせめぎ合っていた。


『ッ、機神剣を受け止めるだと……!?』


「リオ・ドラグニクスだってぶった斬ったんだぞ、それが……!!」


『機神――機械の神とな―――そうか、思い出したぞ』


 せめぎ合いながら、ジ・オリジンが冷めた口調で呟く。


『我は転生てんしょうせり』


『ッ……転生者てんせいしゃ、なのか……!?』


 己と同じルートかどうかはわからないが、この機体、厳密にはこの機体に宿る意志もゼフィルカイザーと同じく何者かが転生てんせいした姿だというのか。

 ゼフィルカイザーの緊張度がかつてなく増し――


『そう――我は転生てんしょうせん、貴様らに精を注ぐために、この魔界に転生てんしょうせん!』


『――――ビガー』


「なっ、ゼフィルカイザー!?」


 変なブザー音と共にO-エンジンが停止するわ基本出力も低下するわ機神剣の輝きまで失せるわで大慌てのアウェル。

 ここで一気呵成に押し切られなかったのは、アウェルの操縦センスの賜物と言えよう。どうにかジ・オリジンのクロスチョップを弾き飛ばすが――ジ・オリジンは胡坐を解き着地し、右手で印を結びながら、左手で足元から生えてきた直刀を逆手に構えていた。


『辞世の句を読むがいい、介錯してくれよう! 機神を僭称せし愚物よ――!!』


「ッ、セルシア……!!」


 死を覚悟し、思わず想い人の名が口を突いて出た。だが――斬撃がゼフィルカイザーを襲うことはなかった。衝撃波が起きて、ゼフィルカイザーが吹き飛ばされる。


『ぐっ……!!』


「大丈夫かゼフィルカイザー!?」


『す、すまん……!! あとあれだ、戦場で女の名を口にするのはだな』


「まだボケてんのか!? いいから前見ろ、前!」


 ゼフィルカイザーのカメラアイが、マントをはためかせる黒金くろがねの背中を捉える。

 その静謐なたたずまいと、隠し切れない威圧感、忘れようはずもない。ジ・オリジンも己の刃を受け止めた漆黒の刃に、赤いマスクの奥の視覚素子を見開いていた。


『貴様、我が介錯の一閃を防ぐとは何者か!?』


『魔王軍筆頭騎士、黒騎士ガルデリオン――魔界では見ない顔だな、先史文明の遺物よ』

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