二つ名を持つ冒険者
前回のキノコを生で貪ったマリコちゃん
熊を溺死させる。エルフが従者になる。
深夜の予期せぬ来訪者の撃退騒動が、無かったかの様に穏やかな朝を迎える。小鳥とか鳴いてる。
カノンちゃんは朝食を作り、私は洗い場で、元の世界から着ていた洋服を洗っていた。昨日の襲撃で1セット服がダメになってしまってたので、もう洗わないと着替えが無い……。
洗濯が終わって戻ると、食欲をそそるいい香りがしてくる。「いただきます」っと手を合わせてから、カノンちゃんにこれからのことを相談する。
「漠然としてあれなんだけど……。こらから私達どうしよっか?」
「わたしはマリコちゃんの従者だから、どこでも一緒についてくよー。マリコちゃんダンジョン行きたいんだっけ? ダンジョン行く? ふたつ離れたダラの町に隣接してるダンジョンが、わたしの行ってたダンジョンで、ここから半日くらいの距離だよ」
「ダンジョン行ったら直にお金稼げる? 私貰った服もダメにしちゃったし、稼いで着替え買いたいんだけど……」
「んー、お金の心配はそこまでしなくてもいいかもー。ダラの町の冒険者ギルドにいけば、デモニアクベアの賞金貰えると思うしー。賞金無くても素材だけでも良いお値段になるはず」
「あの熊賞金首だったんだ!?」
「金額は覚えてないけど、この森の最深部の主で、十数年前に人里を壊滅させた賞金首で、沢山の冒険者を返り討ちにした危険なやつなはず」
予期せぬ収入にガッツポーズする私、良かった強制白ビキニ生活にはならないで済みそう。思わず目も$マークになる。
「さっそく換金に行きましょう!」
「その前に隣町の不動産屋寄っていい? マリコちゃんに着いてくからもう我が家必要ないし……。っあ! そうだよ! この家安全だって言ってたのに! 魔物に襲われて危うく死ぬところだったー! 家賃返して貰おう! 半年契約で30万円も払ったんだよー!」
思わず飲んでいたスープを、噴出しそうになり咽る。この世界の通貨、円なのか!
「ッゴッフ、ッゴ、それは是非とも文句言って回収しなきゃだね!」
ご飯を食べ終え、カノンちゃんが家の物をすべて無限収納で収納する。備え付けされていた家具や調理道具はもちろん、外に生えてる野草やキノコも採れるだけ採る。私も手伝い野菜を収穫する。
カノンちゃんは、なんか抜けてる性格の様で、こういった所はすごくしっかりしている。あっという間に家とその周辺から、物という物が無くなってサッパリする。
「短い間だったけどさらば我が家! 行って来ます」
カノンちゃんが家に別れを告げ、隣町に向かう。モモンという小さい町で、歩いて三十分程で到着。
町の雰囲気は、普通に中世ヨーロッパっぽい。良かったここで竪穴式住居とか出てきたら、私の中のファンタジー感が大ダメージだ。そう白ビキニや黒海パンを履いた人達が、ちらほら居る以外は普通だ! 恐れるべきは、女神教だ……。
不動産屋には、お昼前に着いた。
ドンドンドンドンドン!!
「空けろーーー! この悪徳不動産がーーー!!」
カノンちゃんが叫びながら扉を叩きまくる。町の人達も、こちらをチラチラ見ていているので、ちょっと恥ずかしい。
少しすると中から慌てて人が出てくる。店主は二十代前半と思われる。お兄さん。
「風評、お断りです」
出てきた店主がキッリっとして簡潔に述べた。
しかし、カノンちゃんは引き下がる気はまったく無い。
「アンタのお勧めで借りた家! 凶悪な魔物がでて死にかけたよ! 前の居住者が突然姿を消したとか言ってたけど、絶対これが原因だよ!」
「確かに以前の居住者の方は、突然居なくなりましたが、凶悪な魔物がでるとか甚だ疑わしいです」
「ムッカーーー!!! これでもか!!」
ドン!
カノンちゃんが不動産屋の前に、無限収納からデモニアクベアを取り出しす。こちらを見ていた住民から悲鳴が聞こえ。店主も口をパクパクしてる。
「わたしマリコちゃんに助けてもらわなかったら絶対死んでたよ!」
「すみません! すみません! 分かりましたからそれ仕舞ってください」
「やだ! 払った家賃返せー! あと慰謝料払わないならそれどけない!」
おぉー、なんかカノンちゃんがしっかりしてる! 荒くれ者の冒険者っぽくてなんかいい。友達の意外な一面が見れた。
「契約されて日も浅いですし、家賃の払い戻しは応じましょう! しかしこちらも商売です。慰謝料は、何とぞご勘弁を……」
「やだ!」
店主を見据えるカノンちゃん。よし、私も助け舟を出そう。
「突然の事で、店主さんもお困りだと思いますが、昨夜その魔物が家を襲ったのは事実です。家の外壁に、襲われた時のキズもあります。私は、その魔物に叩きつけられ死に掛けました。カノンちゃん破れちゃった服見せてあげて。弁償して欲しいです」
カノンちゃんがボロボロになった服を取り出す。叩きつけたれた際に、土なのか私の血なのか、よくわかないけど色々ついて、ドロドロのボロボロになってしまっている。店主絶句。
「なんとか言え!」
カノンちゃん、ボロボロになった服を見てヒートアップした様だ。店主がすみませんを連呼しながら、腰につけているポーチをゴソゴソして、2枚の紙をとりだしカノンちゃんに差し出す。
カノンちゃんは、それを受け取りまじまじとそれを見る。
「どうかそれでご勘弁をば……」
「よし! ゆるす!」
「っえ!? 二つ返事なの?」
ニカッっとカノンちゃんが、笑みを浮かべて熊を仕舞う。チケットを私に見せる。
私、異世界語なんて読めないよ? いや、全部じゃないけど一部読める……カタカナ!?。
「マリコちゃん! これ劇団ミラの特別ペア招待券! 銀猫姫! わたし前からこれ観たかったんだよー。東大陸に実在したとされる銀猫姫が、もーそれはすごいんだよ!」
「っそっそうなんだ」
カノンちゃんが熱く語る。私は、視線をキョロキョロさせて町の看板を見る……。読めない……なんでチケットだけ読める? 何でカタカナ? っと上の空である。
そんな私達の、やり取りを見ていた店主が、困り顔で話しかけてくる。
「お気に召して頂いたようでよかったです……。では、家賃のご返金をば──」
***
家賃を返金してもらった私達は、屋台でお昼ご飯を食べる。
昼食は、パンにソーセージが挟んである具沢山なホットドックみたいなやつだった。野菜多いし適度に旨し。
ホットドックを食べながら、異世界の文字についても聞いてみたら、カタカナは北大陸で使われる世界の共通文字らしい、でも、この南大陸でも使われる文字があり、それは私には読めない文字とだった。
昼食を食べ終えた私達は、ダンジョンの有るダラの町へ行くため、乗り合い馬車に乗る。
食事も馬車代もカノンちゃんが支払ってくれた。
「マリコちゃん夕方には、ダラに着くよー。着いたら冒険者ギルドで換金しよー。ついでにマリコちゃんの冒険者カード作ろーね。冒険者カードあるとダンジョンに入るだけで、そのうち冒険者ランクが上がるんだよ」
「冒険者ランクって、上がるとなんかいいことあるの?」
「無いよー。指名依頼が来るとか、受けられる仕事が増えたりするだけー。でもなんかランク上がると嬉しいから登録するの」
「あぁー。確かにランクとか上がると嬉しいよね」
ネットゲームやってた時に、ランクとかスキルは、カウントストップするまで上げてたのでなんか気持ちが分かる。数字が増えると達成感があるよね。
「そういえばカノンちゃんは、他の冒険者とダンジョン行ったんだよね? どんな人達だったの? 凄い人ってどんなんだった?」
「一番強かったのは、ボルボンボさんだねー。二つ名もってる冒険者は強いって言うよー。二本のナイフで翻弄して、後ろから首を挟み込むのが得意な、首狩蟷螂のアンネさんや、領主の娘なのに冒険者やってる隻眼のベリンダちゃん、他にもトカゲのおっさんジョーさんとかー。ちなみにボルボンボさんは、南の赤いウンバボって言われてるよ。初代ウンバボ大帝が赤い髪だったことから、赤い髪を持つウンバボ族は、それを誇りとしているから、最高の誉れだ! って言ってたよー」
なんか途中におっさんが混じっていて気になる。けど首狩とか物騒な人もいるので、やっぱり冒険者って荒くれ者が多いのかな。
「なんか凄そうな人一杯だね」
「冒険者は他人から二つ名呼ばれることで有る意味一人前! そして、何を隠そうわたしも二つ名をもっているのだ! しかも二つも!」
「っえ、どんな二つ名なの? 気になる」
「荷物持ちのカノン! あと、小銭拾いのカノン!」
「っそ、っそうなんだ……。凄いんだね」
「フッフッフ! この小銭拾いのカノン様にかかれば、様々なお宝をゲットすることはたやすい、そうこの特別ペアチケットの様に!」
劇のチケットをヒラヒラさせて、ニヤニヤするカノンちゃん。なんか小銭拾いって二つ名がしっくりくる。思わずうんうんと、うなずいてしまった。
小銭拾いで思い出して、この国の通貨の話とか聞いて楽しく過す。カタコトと音を鳴らし、馬車は私達を運ぶ。
そして、少し日が傾き始めた頃、ダラの町が見えた。
乗り合い馬車を降りて冒険者ギルドへ向かう。
私も冒険者になるんだと思うと感慨深い。後は、ギルド中に居る人全員が、水着姿でないこと祈るばかりだ。




