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【裏話】魔術師公爵閣下の恋(後編)

淑女が意識を取り戻し、一先ず俺の私室に全員集合(秘書官は除く)。これからの事を話し合っていたのだが、頭の片隅にはあの困惑した葡萄伯爵嫡子の顔が残っていた


「そんなに葡萄栽培に『薔薇の淑女』が必要なのでしょうか……。望まれる事は喜ばしい事なのでしょうが、私はあの方が怖いのです……」


こんな感じに淑女は怯えていたから、これ以上混乱させない為にも黙っていることにした


……正直、彼よりも秀才君の方が親しいからというのもある。友達の肩を持ってしまうのは人情だろうと、公爵位を持とうともまだ若輩者なのは自覚している


「じゃあさ、もう良いヤツの方の葡萄君に足開いちゃえよ!!」


そう言ったのは淑女の従兄。彼は『神殿騎士』を務めている貴族だろうに、何故そんな明け透けなエロ発言をしたんだ?しかも婦女子たちの前で!!


驚く俺達を尻目に薔薇の淑女は声をあげた、まるで天啓を受けたかの様に輝く表情で。え、まさか?


「そうよ、開けばいいのよ!!葡萄侯爵嫡子様ッ、お願いしますわ!!」

「え、えぇぇぇぇッ?」

「あのキモ葡萄野郎にヤられるくらいなら、ガツガツいけばよかったのです。第一印象を大切にしなかった私の馬鹿ッ!!」


えぇぇぇぇ!!な、何言っているんだ『薔薇の淑女』!!


この時の彼女はおかしかった、やぶれかぶれになっていたのだと思う。本来ならば諌めなければいけなかったのだろうが、出てきた言葉はこれだけ


「落ち着いてご令嬢、そこは俺のベッドで……」


いや、そういう問題じゃないのは解っているけれども!!


「公爵閣下はご遠慮くださいませ。葡萄侯爵嫡子様、早く私を奪ってぇ!!」


淑女がそう絶叫、ベッドの上から秀才君に両手を伸ばす。乗っかって来いよと言わんばかりにノリノリだ。まぁ、そこで終われば動転していたんだなと、多少の黒歴史になるくらいだったのだろうが、事実は斜め上に走り出す


なんと秀才君は合点招致とばかりに、淑女に乗っかった(物理)。淑女と同じように手を伸ばし、指を絡めあいそのままベッドと淑女に乗り上げ荒々しい口づけを俺達に見せつける


完全に舌を絡めている濃厚な口づけ。あまりに濃厚な愛の営みの序曲に(まだ序曲、着衣だし!!)、誰かの悲鳴が聞こえた瞬間我に返り、俺は固まってしまった『梨の乙女』を横抱きにして部屋を飛び出した


……もう俺、あのベッドで寝られない……


速攻部屋の模様替えをする事にしようと、俺涙目。あの寝台は秀才君にくれてやろう。送料は向こう持ちで!!





「……申し訳ない、不快な思いをさせてしまったでしょう。葡萄侯爵嫡子には、後で厳重に抗議しておきますから」

「い、いえ。『薔薇の淑女』様がご無事でよかったですわ……。その、多少、驚いてしまいましたが」


あれだけ想い想われて、少しうらやましいと思いましたなんて微笑む乙女。なんて、フォローの上手いひとなんだ。完全に盛っていたあの2人を見て、そう言えるとは……。彼女の宛がわれている客間の前まで送る、扉の前では彼女の爺やが帰ってこない主人を心配して、オロオロと歩き回っていた。本当に申し訳ない……


「じいや」

「お嬢様、ご心配いたしました……。閣下、お恨み致しますぞ」

「申し訳ない、使いの者を出すべきだった」

「じいや、閣下に無礼な事を言わないで頂戴。お友達想いの紳士な方なのよ」


そ、それを言われると耳が痛い、結構下心満載の俺……。勿論、友人の恋路を成就させてやりたいと思うし、淑女に罪滅ぼしをしたい。元々、俺の見合いで集まってきた所為で、こんなにややこしい事になったのだから。そう、ここで男を見せないでどうするんだ俺!!


彼女の手を掲げ、指先に口づけを贈る。驚きに目を見張る彼女に、俺は口を開く


「明日、品評会と最後の舞踏会。エスコートの予約をしてもいいでしょうか、ご令嬢。私は王都より北へ四半日、研究農場の主。爵位は公爵です。だからと言って貴女の断る選択を奪うつもりはありません、守護女神様と愛と豊穣の神様に誓います」


貴族間での正式な名乗りを上げ、希う。最終日の舞踏会のエスコートはほぼ婚約の意味を持つ、勿論強制ではない、恋人としてのお付き合いの開始でも構わない。……最悪、友達からでもね、うん


彼女の爺やは目を丸くし、扉の隙間からは誰かが覗いている……恐らく彼女の侍女だろう。『梨の乙女』は驚きのまま顔を真っ赤にして、震えていた。あの濡れ場(一歩手前)の後すぐに、こんな告白駄目だっただろうか?俺までプルプル震えがきてしまった時


「……お受けします、公爵閣下」

「……後で秘書を寄越します、明日を楽しみにしていますね」

「はい、私も……」


最後にもう一度指先に口付け、一礼してその場を後にした





そいつは男臭丸出しで、扉を開けて文句を言う


「んだよ、嫁といちゃついている時くらい呼ばないでくれよ」

「……お前俺の秘書官だよな、確か……」


何で伝言魔法に返答しなかったと問うと


「嫁に『こんな広いベッド、さすが王城よね』何て言われたら、ヤリまくるに決まってんだろうが」


まぁ正しくはそれ以外の根回しをしていて、忙しかったとの事。王太子殿下と王女殿下が乗り込んでいこうとするのを必死に止めたとか、国王陛下と王妃陛下が乗り込んでいこうとしたのを止めたとか


多少本当の事かどうか怪しかったが、仕事はちゃんとする男だ


多分


「お前、眠いと口が悪くなるよなぁ。……仕事だ、俺の秘書官」

「ちと、待って。湯を浴びてくる……」

「ゆっくりでいいよ」


肌蹴たローブを整えて一度扉を閉める秘書官、嫁と同衾中だったらしい。癒されたい気持ちはわかるが、結果も待たずに同衾するか?しかもかなり本格的に


秘書官は昔から眠くなると理性が利かなくなるタイプで、夜勤はNGなのだ。NGの意味は分からないが以下略




しばらくして身だしなみを整えた秘書官と、明日の予定を確認し合い、『梨の乙女』の爺やと打ち合わせに行かせた


これで明日の準備は粗方済んだ……のだが


「……俺、今日どこで寝たらいいんだ?」


そういえば賜っている私室は占拠されていたんだっけ。結局、使われていない客室で寂しく一人寝、悔しくなんかないんだからな、明日になれば……ムニャムニャ





まずは昼間の品評会、共に会場に入場すれば秀才君と淑女が人目をはばからずにいちゃいちゃしていた。べったりと密着して、いかにも一線越えました的な雰囲気を醸し出している。出し過ぎている


いや、実際に越えたのだけれども


乙女と共に壁側に設置された椅子へと座り、秘書官が適当に見繕ってきた果物やワインを味見。常にあの2人を視界に入れながら話をした


「わが町では梨以外にも葉物野菜を作っています、正直梨だけでは経済が回らず……」

「他の町だってそうですよ、恥ずべき事ではない。色々な作物を作って、新種を研究して、食べ物さえあれば最低限生きていられる。そして作物たちを育てる事は、わが国の役割。愛と豊穣の神を崇めるわが国の」

「そうですね、『乙女』として『准神官』として弱気になってはいけませんね」


なかなかどの町でも一つの作物だけではやっていけない、もし不慮の事故でもあった時収入が0になってしまうから。まぁ、特産品があれば貯蓄もできるし……あ


「梨でお酒を造ってみてはどうですか?酒なら保存も聞くし、良品は遠い国にも輸出できる」


例の葡萄伯爵家が、ワインで荒稼ぎをしていてかなり裕福だし。確かに良い品はそれなりの値段で取引されるべきだけれども、な


「お酒……ですか?生憎、わが町に酒造関係の職人はいませんので、難しいですわ……」

「なんでしたら、俺が研究しましょう。……うん、面白いかも。たしか《4の国》ではシードルやカルヴァドスの梨版があると聞いたような……。向こうは設計図ごと書き換えてしまうからな、天然で出来ないかから調べてみようか……。まずは林檎の町出身の研究者を呼ぶか、いや、むしろ葡萄の町の秀才君がいるじゃないか、今回の恩をかえしてもらおう……」


公爵と言えども、俺は魔術師兼学者。こういう地道な研究は大好きだ、最近成分の分析ばかりで研究らしい研究が出来ていなかったからな


「閣下は研究馬鹿なのです、許してやってください乙女様」

「許すも許さないも、とても勤勉な方なのですね……」


秘書官がこそこそ乙女に語る、研究馬鹿で悪かったな。たしかに今は、それどころではなかったのだ。秀才君たちを見守りつつ、告白をしなければ……告白告白告白……。急に立ち上がった俺に驚いた乙女の前に、跪いて



「『梨の乙女』、俺の……妻になって下さい!!」

「……なんで今なんだよ?」

「こ、公爵閣下。い、今は葡萄侯爵嫡子様の作戦中では?」

「そ、そうだったッ!!」


い、勇み足……。結果、俺のこの恥ずかしい求婚騒動で取りあえずこの場は丸く収まったのだった。この場はね!!もう開き直って腰を抱いて、口づけちゃったよ!!『梨の乙女』は顔を赤くしてトロリと潤んだ目で俺を見上げる、あぁここでダメ押ししなければ


「乙女、返事を」

「……はい、閣下」


あの葡萄伯爵嫡男はいつの間にかいなくなった模様。あのいちゃいちゃカップルや俺達に触発されたのか、会場内で愛の告白大会が勃発。……まぁ、品評会と言う名のお見合い会なんだから、これが正しい姿なのだろう。大豊作となったそうだ


この後の舞踏会で秀才君と淑女と葡萄伯爵嫡子の最後のひと悶着があったそうだが、詳しくは彼等に聞いてくれ。端的に言えば、愛する二人を裂くことなどできなかったという事




「閣下、葡萄侯爵嫡子様から葡萄が届いておりますよ。お子さまも無事お生まれになって、男の子だそうですわ」

「おぉ、それはめでたい。お祝いは……君の梨が良いね、まだあるかい」

「はい、まだございますわ。早速手配を致しますね」


あれから1年、秀才君は薔薇の淑女と婚姻し第1子が誕生したそうだ。すでに第2子が腹のナカにいるそうだ、相性良すぎとちょっと引く


俺はあの日から1年間のお付き合いののち、入籍。俺としてはもっと早くに家に迎えたかったのだけれども、向こうの親が難色を示したのだ


そりゃそうだ、『梨の町』に生まれた『梨の乙女』だ、普通ならよその家に嫁にやらずに婿を迎えるのが通例。わざわざ梨に祝福を与える宝を、捨てるようなものだから。しかし俺の想いが半端無いという事を理解してくれたのだろう、ご両親とお爺様は嫁にやることを渋々了承してくれたのだった、渋々


どうやらこっそり秘書官があちらを口説いてくれたのだそうだ。恐るべし秘書官、癒しがあれば今までの倍働けますよね、なんてどんだけ俺を働かせたいんだ




1つ嬉しい誤算があった


それは夫婦の閨での事。妻は秀才君と『薔薇の淑女』のあの濡れ場(一歩手前)を見てしまった為に、アレが普通だと思いこんでいる様


本当の『普通』は、貴族のご令嬢はあんなあからさまに男を寝台に誘わない。しかも早くと急かすようなこともしなければ、いきなり腰に足を絡めたりもしない。まぁ、ある程度慣れてくればするかもしれないけれど、初夜では普通やらない(と思う)


しかし妻はやった、感動した!!


正直びっくりした、初夜の教えは受けていなかったのか?所謂あれか、『旦那様にお任せ』パターンか?


……うれしいけれども、これが俺に任せた結果だと思われたらちょっと恥ずかしいなと思ったりもしたので、閨の事は2人の内緒だよなんて囁いた。可愛く貞淑な妻はその通り口をつぐんでいたのだが、さらに誤算が




近くて遠い将来、嫁ぐ娘にだけは話してしまったのだ!!


そもそもその時代になると、娘だってやり方くらいなんとなく知っていたのだ。箱入りだけれども学者の卵となっていた娘、生殖の仕組みくらい気が付くというものだ。ただ嫁ぐ前に妻が心得として、恥じらいながらも自分の初夜の話をなんとなくぼかして話してしまい、誤解が解けるまで愛娘から白い目で見られたのはとても辛い日々であった



「これ幸いとおねだりさせてたんでしょ、や~らし~父上ってばむっつり公爵様丸出し」

「母には言わないでおくれ、娘よ……」

「言わないわよ、葡萄侯爵様夫妻の黒歴史にもつながるでしょうしね」




そうは言っても娘よ、あの2人は黒歴史だなんて思っていないんだよ。

堂々と人前でおっぱじめようとしたからね、とは言えなかった公爵閣下。


エロ成分切り落としR15版でしたが、このままでも物語としては成立しているかなと投稿いたしました。裏話まで読んでいただいて、ありがとうございました。これにて完結です。

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