託された背中
刃が、何度も火花を散らしてぶつかり合う。
だが、それも限界だった。
ガルドの剣は重く、正確で、容赦がない。
一撃一撃が、確実にこちらの体力を削っていく。
「……どうした、勇者」
余裕を残した声。
ガルドは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「その程度か?
魔王に辿り着く前に、ここで終わりとは――拍子抜けだな」
剣を構え直そうとして、足が言うことを聞かなかった。
膝が崩れ、床に手をつく。
(……動け……)
力を入れても、体が応えない。
息をするだけで、肺が焼けるように痛んだ。
「終わりだ」
ガルドは淡々と剣を振り上げる。
「勇者と魔王。
どちらも、俺の前では“邪魔な存在”に変わりはない」
冷たい声。
「だから――
君はここで消える」
刃が、振り下ろされた。
――その瞬間。
鋭い衝撃音が響き、ガルドの剣が弾かれた。
「……何?」
ガルドが一歩退く。
視界の端に立っていたのは、見覚えのある背中だった。
角を隠さず、迷いなく立つ魔族の男。
山小屋で出会い、粥を差し出してきた――あの男。
「……ハルド」
「久しぶりだな、勇者」
短くそう言って、ハルドは剣を構え直した。
「ここから先は、俺が引き受ける」
ガルドが目を細める。
「……お前か。
まだ、あの女王に義理立てするつもりか?」
「義理じゃない」
ハルドの声は低く、揺れがない。
「俺は、あの人が望まない戦いを止めに来ただけだ」
二人の魔族が、正面から睨み合う。
その間に立つ余地は、もうなかった。
「勇者」
ハルドは、こちらを一瞬だけ振り返る。
「……ここで倒れる顔じゃないだろう」
それだけ言って、再びガルドへと向き直る。
剣がぶつかり合い、激しい音が城内に響いた。
(……立て)
床に残されたままの俺は、歯を食いしばる。
(ここで終わるために、来たんじゃない)
魔王に会うために。
真実を、自分の目で確かめるために。
ふらつきながらも、壁に手をつき、体を引きずるように起こす。
視界はまだ揺れている。
足も、感覚が曖昧だ。
それでも――
(……行く)
最後に残った力を振り絞り、
俺は、魔王のいる方角へと走り出した。




