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沈黙の部屋

目を覚まして、最初に感じたのは静けさだった。

 不自然なほど、音がない。


 窓はない。

 扉は重く、外側から鍵がかかっている。


「……これ」


 カレンが小さく呟き、扉に手を当てた。

 力を込めても、びくともしない。


「閉じ込められてる……?」


 リオの声が震える。


 昨日――

 ガルドに案内され、この部屋に通されたときは、休養のためだと思った。

 戦闘の直後で、全員が疲弊していた。

 疑う余裕など、なかった。


「……安全のため、だったよな」


 自分に言い聞かせるように呟いた言葉が、空しく響く。


 魔王の夫。

 そう名乗った男。


(……信じるべき、なのか)


 胸の奥で、何かが軋んだ。



 その頃、城の奥。


 ガルドは一人、回廊を歩いていた。

 足音は静かで、誰にも気づかれない。


 戦えば、音が出る。

 血が流れる。

 それを魔王が見れば、すべてが終わる。


 だから、戦わない。


 閉じ込める。

 誰にも気づかれない部屋で、静かに、時間をかけて。


 それが一番、都合がいい。


 勇者が消えれば、魔王と向き合う理由もなくなる。

 余計な言葉を交わす必要もない。


 穏やかな笑みを浮かべたまま、ガルドは歩き続けた。



「……水も、減ってる」


 リオが壺を覗き込み、不安そうに言った。


 その言葉で、現実がはっきりと輪郭を持った。


「……試そう」


 俺は剣を握り、扉に向き直る。


「勇者様……」

「今は、できることを全部やる」


 剣を振るい、扉に叩きつける。

 鈍い音が響くだけで、傷一つつかない。


 カレンも続いて壁に魔力を叩き込んだ。

 だが、石はわずかに震えるだけで崩れる気配はなかった。


「……ダメね。ここ、普通の部屋じゃない」


 息を整えながら、カレンが言う。


 力任せでは無理だ。

 少しずつ、頭が冷えていく。


「……待て」


 俺は部屋を見回した。


 扉も壁も、異様に頑丈だ。

 だが、天井近く――松明の台座だけ、微妙に造りが違う。


「リオ、あれ、届くか?」

「やってみます!」


 リオが杖を掲げ、風を起こす。

 台座が軋み、わずかに傾いた。


「……今だ」


 カレンが魔力を集中させ、傾いた部分に正確に撃ち込む。

 乾いた音とともに、石の一部が崩れ落ちた。


 その奥に、細い通気路が見えた。


「通れる……?」


「狭いけど、行ける」


 順番に体を滑り込ませる。

 腕も足も擦り切れそうになりながら、三人で必死に進んだ。


 やがて――

 冷たい空気が、肌を撫でた。


 城の裏手。

 人目につかない通路へと、俺たちは転がり出た。


「……出られた」


 リオが呆然と呟く。


 安堵よりも先に、胸の奥に重たい感情が沈んだ。


(……やっぱり)


 あの部屋は、休養のためじゃない。

 最初から――閉じ込めるための場所だった。


 俺は、城の方角を見上げる。


 魔王の夫と名乗った男。

 穏やかな笑みの裏にあったものを、ようやく理解し始めていた。

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