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7.大神官の独白

※大神官視点のお話です。




「ふう。我々の計画は着々と進んでいるな。喜ばしい事だ」


夕食会も終わり、私は大神官用の部屋に戻ってきていた。

騒々しい宴会など苦手だが、聖女たちの士気高揚のためだ。仕方あるまい。


ふと神殿での事を思い出した。随分と懐かしい物を見た気がする。


「シアが、あれをまだ持っていたとはな……驚きだ」


思えば、出会った頃は泣いたり怒ったりと感情の起伏が激しい子供だったな。

何とか泣き止ませようと、ペンダントを与えたこともあった。


――6年前の、今日と同じ日。


地方にある邪神教団の支部。その教会で暮らす子供たちの中にシアがいた。

彼女は聖王国が起こした戦争に巻き込まれた戦災孤児だ。

邪神復活の手掛かりを求めて旅していた私は、たまたまその教会に立ち寄った。


そんなシアの第一声が、


「おじちゃん、なんか顔がこわい。じゃあく。うわ~ん」

「え…………」


おい。私の繊細な心が音を立てて砕け散ったぞ。まだ24だ。お兄さんだ。

なだめようとしても、一向に泣き止んでくれない。


よくよく話を聞いてみると、今日は彼女の9歳の誕生日なのだという。

いつもだったら、お姉ちゃんたちとごちそうを食べて、プレゼントを――――


「そうだ、いい物をやろう。一点ものだ。貴重品だぞ」


邪神様の教えを広めるために私が作った、ペンダントの試作品だ。

いずれ大量生産して、教団の収入源にしようと思っている。

うむ。我ながら良い出来であるな。


自信満々に差し出すと、シアはぽかんと口を開けて泣き止んだ。


「これ豚……?」

「猫だ」


私の芸術を理解できないとは……どう見ても邪神様を模した彫刻ではないか。

こら、腹を抱えて笑うな! 失礼であろう。

人の努力を馬鹿にするなど、立派な大人になれないぞ。


返せと言ったら嫌だと言って怒られた。理不尽だ。

まあそのうち飽きて捨てるだろう。子供とはそういうものだ。



それから1年も経たないうちに、シアが聖女として覚醒した。

驚きはしたが納得もした。私の本質を見抜いた力、本物であったとはな。


私は邪神信徒の身分を隠し、聖女の後見人として揚々と聖王国に乗り込んだ。

あとはまあ、賄賂やら魔法やらでのし上がって大神官の位を得たわけだ。


ウォルターという偽名を使ったが、周りからは役職名で呼ばれる方が多い。

本名はヴァルタザールだが、故郷でしか使わない名前だった。


やがて私は大神官の権限を濫用し、神殿の職場改善や貴族どもの横領摘発、王族に架空請求した資金を邪神教団に寄付したりなど、悪事を重ねた。


聖王国のせいでシアの村は焼かれたのだし、私の故郷とも浅からぬ因縁がある国なのだから、それぐらいは当然であろう。



「シアよ。聖女の仕事には慣れたか?」

「…………」


10歳で聖女として神殿に上がった直後から、やけにシアがおとなしくなった。

怒りもしないし、笑いもしない。

あしらうのは格段に楽になったが、なにか物足りない気分だ。


それと同時に、彼女を取り巻く守護の力が増していった。

これが女神の祝福とやらの力か。実に鬱陶しい。


悪意を持つ人間は、近付くことすら出来ない。

さっそく王子が魔法障壁で吹き飛ばされていた。


となると私はまだましな方なのだろう。触れはしないが傍には行ける。

なるほど、信用第一という事か。時間をかけて懐柔するしかあるまい。


いや、別に仲良くなって触りたいというわけではないからな。

聖女を利用するための効率の問題だ。



そして5年の月日が流れていく。

初めは聖女を有り難がっていた者たちも、途中から雑に扱うようになってきた。

聖力や魔力が見えない凡人はこれだから困る。


あんな環境にシアを置いておくのは忍びなかったが、私は悪人なのだ。

野望のためなら非情に徹することも厭わない。


たまに様子を見に行って声をかけて菓子をやって誕生日に花を贈るぐらいの偽善、いくらでもやってやろう。


邪神復活の目途が立ち、私は聖女をつれて聖王国を出奔した。

なんかむかついたので、国王と王子を行きがけの駄賃に殴っておいた。

王族がもう少し賢い立ち回りをしてくれたなら、交渉の余地もあったのだがな。


もしこのまま聖王国が滅びるとしても、自業自得だ。

まあ、泣いて邪神様に救いを乞うのであれば助けてやらなくもないが。



現在、聖女のおかげで我が故郷は目覚ましい復興を遂げている。

この地に聖力と魔力が満ちた時、我らの悲願は果たされるだろう。


聖女に恩を着せて、信用を得て、楽しい気分になってもらうだけでうまく行くとか楽勝すぎるにも程がある。


その計画の一環が、先ほどの誕生会だ。あの光景をまざまざと思い返す。


プレゼントのぬいぐるみを抱えた聖女が、一瞬フッと笑って私の方を見ていた。

私は、あることを確信する。


「シア……。やはり、そなたは――」


私の作ったペンダントが不満だったのだな……!


確かに豚だ。豚なのだ。もう現実を見よう。私に芸術の才は無い。

豚と一級品との格差を、聖女に鼻で笑われても詮無いことよ。


しかし、危うく勘違いを起こすところであった。

6年間も大事に持っていてくれたのかと、うっかり感動しそうになったぞ。


「ふ……。私もまだまだ、修行が足りないな……」


そのうち落ち着いたら、信徒にぬいぐるみの作り方を教えてもらおう……。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  登場人物の立ち位置が、こちらの予想を良い意味で裏切ってくれて全く飽きさせません!  つい話を読み進めたくなる展開の連続ですね。 [一言]  大神官様・・・! 初登場の時は私も守護妖精さん…
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