8.女神のささやき
ついに女神の登場です。
さらに半年が経ったわ。
聖女ちゃんは、今日も元気にお祈りをしている。
良くも悪くも変化はないけど、毎日平和でとても安らいだ日々よ。
そうそう、昨日は大神官が傑作だったの。
新たに作ったぬいぐるみが、どう見てもおかしくって!
顔は豚なんだけど、体は猫で・・・ぷっ。思わず笑っちゃった。
大神官は「豚」だって言い張ってたけど、あれウソよね。
聖女ちゃんも、そのぬいぐるみを抱きしめてぷるぷる震えてたわ。
頑張って笑いをこらえてるのね。わかる。
最近、聖女の感情が戻ってきてるみたい。
わたしが彼女の精神を守護魔法で防御してるから、本当に少しずつよ。
魔法を全解除すれば一番手っ取り早いけど、体を守れなくなってしまうわ。
でも、いつかはきっと――――
「シアは笑った方が絶対に可愛いわ。貴方もそう思うわよね?」
「にゃーん!」
何だか、猫ちゃんもずいぶん大きくなったわね。子猫だと思ってたのに。
育ち盛りなのかな。貴方は豚になっちゃダメよ。
そういえば、ご飯を食べてるところを見たことない。好物は何かしら?
ここの料理って、無駄においしそうなのよね。
わたしも聖女ちゃんの大好物の、野菜ごろごろシチューを食べたいな。
まあ、実体を持たない妖精だから食事は無理なんだけど。
でも昔、食べたことがあるような気もするの。
食いしん坊な誰かにせがまれて、鍋いっぱいに作ってたような・・・?
その晩、わたしは不思議な声を聞いた。
『――聞きなさい守護妖精よ。わたくしは女神です。あなたに使命を与えます』
えっ、女神様?
『その忌まわしき邪神の地を、滅ぼす力を授けます。明朝、聖女と共に愚か者たちに聖なる裁きを下すのです。それがあなたの役目です』
えええーーーー!?
どうしていきなりこんな事に。わたし、一体どうすればいいの?
◆ ◆ ◆
『まさか、聖女があんな所に隠れておったとはの』
聖王国の地下深くにある、人の身では訪れることのできない空洞神殿。
そこに佇むのは、白い貫頭衣を着た桃色の髪の女性――女神ヘレネだ。
彼女は敵対勢力の妨害を受けていたが、ようやく力を取り戻していた。
『あれの復活など絶対にさせぬ。この世界は、わらわの物よ!』
200年前、消滅させたはずの敵神ミケルに、ヘレネは復讐を誓う。
全世界の寵愛を受けるべき存在は、あんな物であってはならないのだ。
『あやつのせいで洗脳魔法も解けかかっておるな。時間がない。急がねば』
女神ヘレネは、最果ての砂漠、かつての神都の方角を紅い瞳で睨み付けた。
◆ ◆ ◆
まばゆい光に眠い目をこすって起きたら、いつのまにか朝だった。
ん? そもそもわたしって妖精だから眠らないはずなんだけど。おかしいな。
何か、大切なことを忘れてる気がする・・・
あ、そうだ。今日は女神様の命令で、この砂漠の国を滅ぼすんだった。
聖女をひどい目に合わせた奴なんて、すべて等しく死ねばいい。
この世界の人間はみんなクズばかりなのよ。
これからわたしがやるべき事は、ただひとつ。
聖女にかけた守護魔法を全解除して、聖力を攻撃術式に注ぎ込み、聖女の命を依代にした殺戮魔法を発動させて――――
「って、そんな事できるわけないでしょ!!」
思わず大声を上げて否定する。嫌よ・・・そんなの。
シアも、信徒の人たちも、猫ちゃんも、大神官も。
みんなわたしの大切な人たちなんだから。
ぼうっとした頭をはっきりさせようと、わたしは自分の頬を叩きまくった。
痛ったあ・・・……
うん。目は覚めたけど、あまりの痛さにうずくまってしまった。
我ながら加減がなさすぎたわ。
ちょっと、横になって休むわね…………。




