砂漠の国の収穫祭(2)
砂漠の国が徐々に復興していく中、今日は200年ぶりに収穫祭が行われる。
私は姉のステラにお願いして、お祭りに行けるように取り計らってもらった。
城の重要人物だからと、お忍びの用の衣装に変装することになる。
そんな準備までしてくれているとは、さすがはお姉ちゃんだ。
着替える服は、白地にピンクの薔薇の意匠をあしらった上品なワンピースだ。
ふわりと広がるすそ周りには繊細なレースが付けられている。
普段は巫女服以外を着る機会が少ないから、特別な日という感じがして嬉しい。
世話係のマイラさんが私の黒髪を編み込んでハーフアップにして、青いリボンをつけてくれた。
「ありがとうございます、マイラさん」
「いえいえ。仰って頂ければ、毎日でもおしゃれな装いにして差し上げますよ」
「そんな。お忙しいのにとんでもないです……」
それに巫女は神聖な職業なのだから、派手に着飾るわけにもいかないだろう。
大きな鏡で自分の姿を確認していると、明るいオレンジ色のポピーの花柄で彩られたワンピースが映り込む。後ろで見ている、姉のステラの衣装だ。
元気に揺れる赤いリボンのポニーテールがよく似合っている。
「すごいわ、シア。まるで物語に出てくるお姫様みたい!」
「ありがとう…お姉ちゃんもすごく綺麗だと思う。お花から生まれた妖精みたい」
「そりゃそうよ。ずっと守護妖精だったもんね?」
「もう! そんなつもりで言ったんじゃないのに……」
「まあまあ。シアは笑った方が可愛いわよ」
そう言って、私たちは微笑み合った。
姉妹でこんなにおめかしして出かけるような平和な日が来るなんて、半年前までは思いもしなかった。
猫神様やお姉ちゃんや大神官さまや沢山の人たちのおかげだと感謝するばかりだ。
しばらくすると、隣の部屋で着替えてきた大神官さまが姿を見せた。
灰色の髪を後ろで一つに括り、長い三つ編みにしている。
青い瞳と端正な相貌を隠すように頭にバンダナを巻き、黒縁の眼鏡をかけていた。
紺色の長衣の下に白っぽいズボンを履き、深緑色のマントを羽織っている。
何を着ても素敵だと思うと同時に、懐かしい気持ちになった。
6年前に出会った頃の彼の姿を彷彿とさせて、その時のことを思い出す。
猫の彫刻のペンダントをプレゼントしてくれて――今でも私の大切な宝物だ。
「やれやれ。何故私が今更こんな恰好を……」
「貴方は背が高いし、目立つんだから仕方ないでしょう。その変装なら、うさんくさい旅人って感じでごまかせるんじゃない?」
「胡散臭いは余計だ」
2人とも、険悪なような仲が良いような会話をしている。
最近、大神官さまへの対応がやけに厳しい気がする。
まさか、私の告白がお姉ちゃんにばれてしまっているとか?
そんな事ないと思いたいけど……。
考えごとをしているうちに、姉が紐付きのバッグを肩からかけながら、マイラさんと2人で楽しそうに会話をしていた。
その後ろ姿に、思わず目が釘付けになった。
――――白いバッグから、三毛猫のしっぽが出ている。
ぴこぴこと動くそれを凝視し、私も大神官さまもしばし黙り込んでしまった。
「シアよ。あれはもしや」
「…………気のせいです。幻覚です」
「そうか。ミケル様が心配なあまり、幻が見えているようだな。おとなしく祭りに行けという事か…」
小声で話しつつ、大神官さまは深く溜息をついていた。
どうやら見なかった事にして祭りに付き合ってくれるみたい。良かった。
あのしっぽは、猫神様が失踪した状態ではお祭りが楽しめないから、前もって無事を知らせるために見せてくれているのだろう。
姉とミケル様の心遣いには、頭が下がるばかりだ。
◇ ◇ ◇
城下街はとても賑やかだった。
夕方とはいえまだ明るく、通りにはたくさんの屋台や出店が並んでいる。
収穫を祝う祭りらしく、色とりどりの果物や新鮮な野菜が売られ、辺りは活気に満ちていた。
こういった大きな催しを見るのは初めてなので、何だかわくわくしてくる。
「わあ~人がいっぱいね。シア、はぐれたら危ないから手を繋ぎましょう」
「うん。わかった」
こんな人混みは慣れないから、迷子にでもなったら大変だ。
お姉ちゃんは私が守らないと!
後ろを見ると、大神官さまが周囲に注意を払いながら歩いていた。
護衛代わりに魔法で対処してくれているらしい。私もいざとなったら結界を張る用意をしておこう。
しばらく、3人で通りに沿って歩く。
綺麗な飴細工を売るお店があった。
溶かした飴を伸ばしたり切ったりして、器用に鳥や動物や花を作っている。
つい珍しくて見とれていると、
「美味しそうね。おじさん、これとそれとあれとこれをください!」
姉が代金を払って飴細工を買っていた。持ち帰り用に蝋紙で包んでもらっている。
「それ、おみやげにするの?」
「うふふ。秘密よ」
お店のおじさんが姉に商品を渡しつつ、威勢よく声をかけていた。
「お買い上げありがとさん! かわいいお嬢ちゃんだね。妹さんかい?」
「わたしの方が姉よ。これでも成人してるんだから」
「へ、へえ……。そりゃすまないねえ」
店員さんは気まずそうに謝り、今度は後ろに立っている大神官さまに話しかける。
「じゃあ、そっちがお父さんかな?」
「お兄さんだ」
「…………スミマセン」
お店の人が困ってる――!
口下手ながらも、私は何とか笑いをとって場の空気を和ませることにした。
「……わ、私がお母さんですっ」
「聞こえないわ、シア。もっと大きな声で言わなきゃ!」
面白いことを言うのって、すごく勇気がいる。やはり私には無理そうだ。
その後、姉は買った飴を白いバッグに入れようとしたが、入れずにフタを閉めた。
中にミケル様がおられるから、しまうのをやめたのかもしれない。
飴を片手にぎくしゃくと歩きながら、姉は大きな声を出した。
「そ、そうだわ。串焼きを食べに……じゃなくて城の出店を見に行きましょう!」
「えっ?」
「わたし、先に行ってるわね!」
そう言うと、姉は人混みをよけて一人で走り去ってしまった。速すぎる!
残された私たちは、呆然とするしかなかった。
「ステラ殿は、走らねばならぬほど空腹だったのか……」
「でもお昼ご飯もデザートも、きちんと食べたはず――――あっ」
「どうした、シア。何か心当たりでもあるのかね」
「な、なんでもないです!」
大神官さまに見つめられ、慌てて私は目をそらす。
おそらくこれは、姉が私のためにしてくれたことに違いない。
どうしよう。確かに彼と一緒にお祭りに行きたいとお願いしたが、2人きりというのは全く想定していなかった。
――お姉ちゃん、気を遣ってくれるのは嬉しいけれど私を置いていかないで!!




