13.女神ヘレネの正体
聖王国の神殿跡に、ぽっかりと空いた大穴。
その暗い空洞から、ピンク色の巨大な物体が這い出してくる。
「ヒヨコ!?」
可愛いニワトリのヒナだけど、お城の塔より背が高いとか大きすぎでしょ!
桃色のヒヨコが紅いくちばしを開くと、女神ヘレネの声が聞こえてきた。
『来たか、猫神。大人しく寝ておればいいものを。返り討ちにしてくれるわ』
「フーッ!」
猫神様が毛を逆立てて威嚇する。
乗ってるわたしはふわふわの毛に埋もれてしまった。尻尾もすごい。ぶわっと。
それにしても女神の正体が鳥だったとは。怖いのか可愛いのかわからないわ。
巨大ヒヨコと猫神様がにらみ合っている間に、わたしはシアの元へ駆け寄る。
二人が守ったお城の人たちは、安全な城外へ逃げてもらっているようね。
避難を誘導している兵士の中に偽聖女と王子の姿が見えた。気のせいかな。
「お姉ちゃん! どうしてここに」
「なんか勢いで来ちゃった。ごめん」
「凄い勢いだな……だが助かった。我々だけではあれに対処できぬからな」
今は猫神様が猫パンチで応戦してるけど、大きさが違いすぎる。
「猫神様、大丈夫かしら。あれってどうやったら倒せるの?」
「女神は万物の生命力を吸収して糧にしている。それを吐き出させるのが先決だ」
大神官の回答を聞き、わたしは名案を思い付いた。
「わかったわ。腹を殴りましょう」
「待て、ステラ殿。何を言っておるのだ」
「うん、わかった。やろう、お姉ちゃん!」
「聖女殿まで!?」
物理でも聖力でも、とにかく叩いて胃を圧迫すれば何とかなるでしょ。たぶん。
問題は、どうやってヒヨコのお腹まで行くかだわ。わたし飛べないし。
シアがじっと大神官を見つめている。なるほど、上目遣い作戦ね!
しばらくして、彼は諦めたように小さく息をつく。
「…………やるからには、万全を期して臨むぞ。私が魔法で援護しよう」
「ありがとうございます! 大神官さま」
おお。あっさり折れたわ。なんだかんだシアには甘いのよね。
こうして、わたしたち三人は大神官の移動魔法でヒヨコの足元からこっそりと近づくことになった。
せーの、で姉妹渾身の右ストレートを叩き込む。息ぴったりね!
柔らかいピンク色の羽毛に拳がめり込んでいったわ。ふかふか。
『ぐわあああっ』
ぴしりと音を立てて、ヒヨコの体に亀裂が入っていく。
次の瞬間、巨大な鳥の姿は消え、女神ヘレネが人の形に戻っていた。
桃色髪の女神は苦しげにお腹を押さえているわ。これは痛そうね。
おそらく、今の攻撃で生命力は吐き出したはず。枯れ木が緑色に戻っていくし。
地面に降り立ち、わたしたちと猫神様は離れた場所で女神の様子を伺った。
可哀想だけど仕方がない。国を滅ぼしたり、また滅ぼそうとしたり。
今まで色んな人たちに散々迷惑をかけてきたんだもの。
これ以上悪さをしないように、とっちめてやらないと!
すると女神がこちらをギロリと睨んで叫ぶ。
『大聖女セレステラめ。200年前だけではなく、再びわらわの邪魔をするかっ!』
「えっ?」
大聖女って、誰のことなの。まさかその生まれ変わりがシアだとか?
驚いていると、わたしたちを守るように猫神様が女神の前に飛び出してきた。
「ニャー!」
『わらわの魅力が分からぬクズどもは滅びるがいい。まず手始めに、聖女から始末してくれる!』
女神ヘレネは猫神様の攻撃をかわすと、思いもよらぬ速さで突っ込んでくる。
「シア、危ない!!」
わたしと大神官が叫びを上げる中、シアは女神に捕らえられたのだった。




