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14.追放聖女の恋と失望

※シア視点のお話です。




――気が付くと、私は独りだった。


両親を早くに亡くし、5つ上の姉ステラと二人で辺境の村で暮らしていた。

ご近所さんがいい人だったので、私たちの生活を助けてくれた。

恩返しなら出世払いでいいよ、って笑ってた。おばさんもおじさんも。


時折かんしゃくを起こす私に、姉は優しく言い聞かせる。

シアは泣いても怒っても可愛いけど、笑顔が一番よ、と。

自分だって辛いだろうに、涙は見せない人だった。


苦労は多いが、ささやかな幸せに満ちた日々。

でも、それは一瞬で消えた。聖王国の起こした戦争で、何もかも。


親切な教会に引き取られた私だが、他人と馴染めずいつも独りだった。

自分だけ生き残って何になるというのだろう。

泣き叫ぶ私を笑顔にしてくれる人は、もう誰もいないのに。


今年も誕生日がやって来たけれど、悲しみばかりが胸に押し寄せる。

そんな時に、あの人……ウォルター大神官に私は出会った。

6年前の彼はまだ大神官ではなく、普通の旅装姿の青年だった。


顔が邪悪だと怖がって泣く私を、彼は困惑しながらもあやしてくれた。

今思うと、怖かったのは大神官さまの魔力が強大すぎたのが原因かもしれない。

聖力と魔力は、互いに反発するものらしいから。


ペンダントを渡されたので、正直な感想を口にする。

……これ、豚かな。かわいい。

彼は必死に猫だと主張し、芸術についての説明を延々とした。

私は笑った。子供相手にむきになっている様子が面白かったのだ。


この誕生日の贈り物は、今日から私の宝物になった。


10歳で聖女の力なんてものが覚醒したが、正直いらないと思っていた。

あの時ペンダントをくれた人が来て、幼い私は考えを変える。

聖女の力があれば、ずっと一緒にいてくれるかもしれない。

また面白いことで笑ったり、できるかな……?


聖女としてお城に上がる直前までの期間は、とても楽しかった。

最低限の行儀や勉強を大神官さまがつきっきりで教えてくれたからだ。


「よし、今日はここまで。明日は復習を兼ねた試験を行うぞ、シア」

「ぶー」

「聖女はそんな顔をしない。常に凛とした態度で微笑んでいるものだ。返事は?」

「……うん」

「うんではなく、はいが返事だ。まあ、二人きりの時は別に構わぬが」


苦手な事を嫌がっても、出来るようになるまで気長に待ってくれた。


「シア、教典に落書きをしてはならぬ。この日記帳に書くといい。何だその絵は」

「ぶーた、ぶーた!」

「くっ、まだ言うか。見ておれ、いつか完璧な芸術品を披露してやる!」


つい構ってほしくて、わがままばかり言っていた気がする。

さぞかし迷惑だっただろうな。大変申し訳ない。



聖女だと認められ、城の神殿に入ると、何かが私の身体にまとわりついた。

決して不快な気配のものではなかったが、私は徐々に変化していくことになる。


感情が動かない。

分厚い壁を通してでしか、物事を感じ取れないのだ。

怒りも悲しみも薄れていくと同時に、笑うことも出来なくなった。


感情を失くした私に、大神官さまは根気よく話しかけた。

お菓子やお花を贈ってくれた。誕生日も絶対に忘れず祝ってくれた。

周りの人々が冷たく当たってくる中で、彼だけが陽光のように暖かかった。


「聖女殿、元気かね。今日は卵の特売日だ。お一人様1籠のところを3籠購入する秘策を考えたのだが、聞きたくはないかな?」

「…………」


すごく気になる話題なのに、何の相槌も打てないなんて悲しい。

私が黙っていると、彼は焼き菓子を置いて帰っていった。まさか手作り?

ちょっと焦げた部分もあったけれど、おいしい。次はお礼を言えたらいいな。


会えない時は、小箱に入れた大切な宝物を取り出して眺めたりした。


このペンダントを見ていると、笑い方を思い出せる気がする。

故郷も家族もなく、何ひとつ思い出の品を持っていなかった私に、あの人が初めてくれた物。胸が温かくなるような、この気持ちは一体何なのだろう……



――そんな過去の記憶を振り返りながら、ふと我に返った。


私、独りきりだ。この白い空間の中には誰もいない。

あれ、さっきまで皆と一緒に女神様と戦っていたはずなのに。


そう思った途端、周囲の風景がぱっと切り替わる。ここは、聖王国のお城?


裏庭を歩く大神官さまに、聖女ヴェロニカが気安い態度で話しかけている。


「また貢ぎ物? 随分と聖女様にご執心なのね、ウォルター」

「フン。利用価値のあるうちは、大事に扱わせてもらうさ。お前こそどうなのだ」

「うるさいわね。あんたに言われなくても王子の一人や二人ぐらい落とせるわよ」


ヴェロニカさんは実は教団の仲間だったと後で知らされたが、二人はこんなに仲が良かったのか。


利用価値……うん。わかってたけど実際に彼の口から聞くのは辛いな。


不意に、ぽろりと涙が落ちた。


そうだ。私の、初恋の人だったんだ。


胸がずきりと痛むのを自覚していると、女神ヘレネの声が頭に響いてくる。


『その男は、お前を聖女という肩書でしか見ておらぬ。ただの使い捨ての駒を、愛するとでも思うか?』


「やめて!」

これ以上聞きたくない。私は耳をふさぎたくなった。


『聖女シアよ。人として扱って欲しくば聖女の力を捨てよ。さすれば愛されよう』


本当に? 大神官さまが私を見てくれる……?


私、聖女の力なんて、もういらない――――。




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