ギルメン、いつの間にか休日を売り払ってしまう
「いくらなら譲ってくれるかの?」
「でん……、なりませんぞ!!」
従者が慌てて制止するが、聞く素振りもない。もともと目立っていたし、顔を見せるぐらいなら大差はないだろうが。
彼女はおそらくこの国の現国王の娘であるパイ第二王女殿下だ。この国の国民のほとんどは王族の顔など知らないだろうが、俺は一度だけ顔を見る機会があったのだ。あれも随分昔のことなので、よく似た姉妹と見間違えていることも十分あり得るが。
王族であればこんな馬車を持っていたとしても金銭的な意味での疑問はない。おそらく公用と私用を乗り分けていて、この派手な馬車は私用の方なのだろう。。
「これくらいならどうじゃ?」
少女は二本指を立てて見せた。2万マールか。ゴブリンソードをギルドに持ち込むと3千マールで買い取ってくれる。これを基準すると、十分な金額だが、鋼の剣でも3~4万はすることを考えると中古品とはいえ買い叩かれすぎである。
この剣も設計から完成まで休日3日を費やした作品だ。
「それは安すぎです。これくらいは貰わないと」
俺は彼女に掌を挙げて見せる。5万マールという意味だ。
「うぬー流石にそこまでは出せぬな。そうじゃ!言い値で買い取る代わりに同じものを10本作成し、納入せよ。合わせて11本じゃ。できるかの?」
俺はふと考える。同じものを作るだけなら設計はいらず、1日もあれば1本は作れるだろう。1日を費やして3千が5万になるなら本業よりも効率よく利益が出せそうだ。
「1ヶ月いただけるのであれば」
「わかった。取引成立じゃな」
「では、手始めにこの一振りをお納めください」
「ここで渡したら道中で困るかもしれないぞ。この辺りはゴブリンやオークが異常に多いからな」
剣を隊長に手渡そうとしたら、そう言って断られた。すいません、半分以上は我がギルドの責任ですと心の中で謝る。
「魔法だけでも十分ですから」
そう言って半ば強引に手渡した。
「1ヶ月後に妾の従者が取りに出向くのでよろしく頼むぞ」
王女殿下は、満足そうな顔をして去っていった。馬車の色といい、性格といいなんか軽い感じの王女だった。こんなど田舎まで王族が何の用で来たのかはやはり分からないままだったが。
さて、早速準備に取りかかるとするか。俺は帰りを急ぐことにした。しかし、帰り路でふと思いついて足を止めた。
あれ?この先1ヶ月休みなしになっていないか?
※ ※ ※ ※ ※
ラムダと別れた王女一行は、少し開けた場所で休憩をとっていた。
「ふんっ、ふんっ!」
「止めてください、殿下!ケガをしますよ!!」
ラムダから譲り受けた剣を振り回す王女を止めようとするが、全く聞き入れる様子はない。
「何を言っておる!妾も魔法学園を卒業して、王族でなければ職につく歳なのじゃ。何も心配はいらん!!」
貴女、魔法使いであって剣士ではないでしょうというツッコミは通用しない。言い出したら聞かないのがこの人なのだ。
「ふんっ!この剣は想像以上に良い物のようじゃ。鋭利化と追撃は聞いておったが……ふんっ!他にも色々と術が……ふんっ!今ここで明らかに分かるのは軽量化ぐらいのようじゃがの!!ふんっ」
その時、剣に組み込まれていた斬撃波の術式が発動し、馬車の天井の隅をすっぱりと切り裂いた。
「ひえー妾の馬車が!父上に必死におねだりしてやって買ってもらったのにぃ!これではユプに見せられないではないかーー!!」
やれやれ困ったものだと、親衛隊長は頭を抱えたのだった。




