ギルメン、非番の日も討伐に向かってしまう
今日は非番だ。非番の日は趣味に勤しむことにしている。いつも自室に引き篭もって出てこないのが通例なのだが、今俺はモンスター討伐に向かっているところだ。
普段、あれほどやりたくないと言い続けている討伐を休日にやろうとしているのは、隣の領内でデーモンボックスが出現したという話を聞いたからだ。
デーモンボックスは、金属製の箱のモンスターで貴重な金属が取れる。個人的に狩れば、取得物も個人で利用できるので、ギルドや他のハンターに狩られる前に剣を片手に出向くことにした。
途中、大きな馬車とすれ違った。挑戦的な赤色で近代的なフォルム。装飾は少ないのだが高級感が伝わってくる。馬車の後面には、荒ぶるペガサスの描かれたエンブレムが取り付けてあった。あれは家紋ではなく、かの超高級馬車メーカーのロゴだ。確か一番ランクの低い馬車でも3000万マールはするはずだ。
そんな高級馬車に乗れるのは大貴族か富豪だけである。この地で貴族というと領主のイナッカ男爵が思い浮かぶが、お世辞にも馬車にそんな金を使うほどの収入は無いような気がする。中にはどんなお偉方がのっているのか興味のあるところではあるが、それを知る術はないだろう。
※ ※ ※ ※ ※
デーモンボックスの討伐はあっさりと終わった。意外にも早く見つかったことが大きい。
あの箱に喰いつかれると腕や足が食いちぎられることもしばしばだが、先手を打って蝶番の部分を先に破壊してやった。そうなると飛び跳ねるだけの箱である。
有用な金属をその場で取り出すことはできないので、デーモンボックスの残骸体は自宅に持ち帰ることになる。金属でできているだけのことはあって重いが、目的を果たしたのであとはゆっくり帰宅すればよい。のんびり歩いていると、街道と合流した付近でモンスターに襲われている馬車に出くわした。
馬車にはあのペガサスのロゴが大きく目を引く。今度は夜でも目立ちそうな黄色で、行きに見た馬車と全く別のものだ。
「こんな片田舎で一日に2台も見るとは。イベントでもやってるのかな」
多数のオーガとゴブリンに取り囲まれているようだ。護衛と思われる鎧姿の剣士、五人がモンスターの排除を行っていた。太刀筋もしっかりしており、十分強いようなので、危機的な状況とはなっていないようだ。時間をかければなんとかなるだろうが、助けに入ることにした。
【サンダーアロー】を馬車の両サイドに1本ずつ走らせる。群がっているので相当数を排除することができた。残党を手持ちの剣で叩き切り、直にモンスターたちは掃討された。
「危ない所を助太刀いただき感謝する」
護衛のリーダーと思しき人物が話しかけてきた。
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
「本来であれば主からお礼をすべきところではありますが、主は高貴な身分でしかもこれはお忍びの旅。ご無礼をお許しください」
高貴そうなのは馬車でわかるが、忍ぶ気は全くないように思われる。むしろこの馬車でなければ襲われていないような気がするがそれは口に出さないことにした。
「かなりの使い手とお見受けする。オーガジェネラルを剣や鎧ごと斬るなんてそこらの人間ではできませんからな」
「ああ、それはたぶんこの剣のおかげですよ。この剣はいくつかの術式が組み込まれているんです。鋭利化、追撃効果を乗せてます」
「見たこともない剣ですが、どこで手に入れたのか教えていただけませんか?」
別の剣士が喰いつくように聞いてきた。
「これは自作ですからね。元の素材はこれですよ」
俺は足元に転がっているゴブリンソードを拾って示した。
「ゴブリンソード?まさか」
「ゴブリンソードはわずかにミスリルが含まれている鉄‐ミスリル合金なんですよ。元の切れ味が悪いのは、鍛え方と研ぎ方が悪いからで、もう一度鍛え直して研ぐだけでも、鋼の剣よりもよく斬れる剣になるんですよ。まあ、この剣は合金をさらに硬い状態に相転移させているので、もっと強力ですけどね」
おっと語り出すと長くなりそうなのでここでやめておこう。
「なるほど、錬金術師の方でしたか」
「ええ、細々とやっているだけですが」
久方ぶりに錬金術師と呼ばれ、思わず笑顔が綻んだ。
「その剣、妾に譲ってはくれぬか」
声のした方を向くと、馬車から緩いウェーブのかかった金髪の少女が顔を出していた。




