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二つの約束


 ギードは、使用人がすべて下がったことを確認し、お茶を一口啜る。


「お願いしたいことが二つございます」


義両親と義兄夫婦が少し緊張した顔になる。


「お世話になるのに大変恐縮ですが」と前置きをした上で、ギードは絶対に必要だと思うことを告げる。




「子供たちに何か、物でも、何かをする機会であっても、それを与える場合にー」


ギードは一つ指を立て、まずは一つ目のお願いをする。


「必ず本人たちの意思を確認して下さい」


それが自分たちに必要かどうかを判断する練習にしたいのだと話す。


「なるほど。欲しくもないものを与えても喜ばないからな」


ギードは義父の言葉に領主館にある大量の子供服とおもちゃを思い出しながら、少し黒い笑みを浮かべる。


「ええ、その通りです。まあ、本人たちが望めばそれでいいのですが」


多少高価なものでも、本人が納得しているのなら構わないと暗にほのめかしておく。




「もう一つは、こちらの都合で申し訳ないのですがー」


ギードは少し声を落とす。


「むやみに他者と接触させないでいただきたい」


使用人であっても、親戚やご近所さんであっても、むやみに双子に会わせることをしないで欲しいと頼んだ。


「どんなに魔道具を使っても、魔術をかけても、どうしようもないことはあります」


さっきの女性の反応を見ればそれは明らかだった。




 ギードはあまり王都に長く滞在することが出来ない。


それは人族の複雑な感情に、ギードの気配察知が過剰に反応するせいである。まるで酒に酔うように人の気配に酔い、気分が悪くなって体調を崩す。


双子もギードの血を引いている。他者の感情に敏感に反応するだろうと思われた。


「子供ですから感情がすぐ表に出ます」


双子はずっと、感情に素直な妖精や獣人たちと暮らしてきた。今まではそんな感情に対して、素直に返せば良かったのだ。


しかし、人族の感情は複雑だ。言葉と行動が一致しないことも多い。双子は今までこんなに多くの人族に囲まれて生活したことがない。


「子供たちも、相手も、不快にさせてしまう恐れがあると」


「はい」


ギードは義兄の言葉に頷く。




「レリガスさんには申し訳ないですが、他の子供たちとも極力会わせないようにして下さい」


子供は本当に危うい。思ってもいない言葉が出たり、思わぬ行動をしてしまったりする。


「先ほどの精霊は双子を守るためにいます。攻撃されたと判断したら、勝手に相手の排除に動きますよ」


 外に出れば出会ってしまうのは仕方がない。認識阻害の魔道具の力に頼るしかないだろう。


その上、双子は老舗商会の孫、実力者の子であるという事実は変わらない。どこで妬みや嫉妬を向けられるか分からないのだ。


「わかりました」


兄嫁がしっかりと頷く。




「しかし、それではこの家に引きこもりになってしまうのではないか?」


義父が心配そうに自分の妻に聞く。


「そこでわたくしたちの出番ですわ。家の中以外で静かなところ、心おきなく安心して過ごせる場所を探してあげましょう」


ギードは好意的なタミリアの家族に、心の底から感謝した。




 そして正直な気持ちを話す。


「自分は親に恵まれず、森の奥で精霊たちと生きてきました」


自分が親に育てられていないために、親としてどうやって子供に接していいか、わからない時がある。


「もしかしたら、この王都の常識とかけ離れているかも知れません」


この家の負担になることもあるかも知れない。それでも、子供たちの成長のために、と今回は試験的に王都へ出した。


「何かあればご連絡を。先ほどの精霊に話しかけてくれれば通じます」


そう言ってギードは立ち上がり、庭へ出る。


双子の気配がある二階の窓を見上げる。


そして、「それではよろしくお願いします」と妻の両親に軽く頭を下げ、移転魔法を発動した。




 


 商国の森の中の館に戻ると、珍しく妻のタミリアが出迎えてくれた。


「ギドちゃん、お疲れ様」


「うん」


タミリアは、ギードが子供たちを王都へ出すことは嫌だったと気づいている。タミリアにとっては多少の親孝行になるため、彼は強く反対しなかったのだ。


それに、このままでは王宮の事情にタミリアの実家が巻き込まれるのではないかと懸念した。


何も知らずに巻き込まれるよりも、きちんと対応した上で味方にすることにしたのだ。


「大丈夫よ、きっと」


「ああ」


ギードはまだ浮かない顔をしている。




「ナティが一緒にお風呂に入りたがって待っていたわ」


「そう」


言葉の少ないギードに、タミリアはぐいっと腕を掴んで身体を寄せる。


「私も一緒に入っていい?」


こてんと首を傾げてギードの顔を見ると、少し赤くなって「うん」と言った。


「でも狭いよ?」


風呂はギードの個人的な楽しみなので、石で作られた浴槽は一人用である。


魔力の少ない商国では、少し前までそんな個人的なことに魔力を使うのははばかられていた。



「ふっふっふ、今日、新しいお風呂が出来たのよ」


「へっ?」


ギードは何故か引き摺られながら、新しい風呂を見に行った。


「おとーちゃまー」


ギードの地下室の一画に、仕切られた部屋が出来ていた。そこに大人が4、5人は入れるような大きな浴槽が設置されている。


すでにナティがロキッドに付き添われてうれしそうに浸かっている。


「おかーちゃまもー、はいるのー」


無邪気な幼児の傍には服を着たままの若い執事がしっかりと監視している。あまり深くはないだろうが、これだけ広いとおぼれないかと不安になる。


「いや、これデカ過ぎじゃね?」


全くギードが知らなかったということは、今日一日で造らせたはずだ。


眷族たちは隠し事が出来ないので、ギードが王都で意識を集中出来なかった今日しかなかった。


ギードを慰めるためだったのだろう。


彼は以前訪れた剣王の屋敷の、広い風呂場を気に入っていた。それを覚えていたタミリアの気持ちはありがたいとギードは思った。


さっさと脱がされて頭から放り込まれるまでは。



        〜完〜


今回もお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

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