第11話 お泊りする家の主はヤマンバ(5)
「お、おしっこが……。おしっこが……。ガマンできない……」
柿五郎は便所の中に足を入れると、おしっこをしようとすぐにしゃがみ込もうとしました。すると、真っ暗闇で周りがほとんど見えないのに、柿五郎が便所に入ると同時にほのかに明るくなってきました。
そのとき、柿五郎は何かいやな予感を感じました。それは、柿五郎がいつも真夜中に便所へ入るときの光景と全く同じだからです。
「これって、もしかして……」
柿五郎は、目の前に妖怪や幽霊が現れるのではと身震いするほどの恐ろしさを感じています。それでも、柿五郎は思い切って自分の顔を上げることにしました。
すると、柿五郎の目の前には、予想をはるかに超える恐ろしい妖怪が現れました。
「フォフォフォフォ……。あたしの名前はヤマンバというんじゃ」
便所の中にいたのは、白髪で鬼のような形相をした老婆の姿であるヤマンバという名前の妖怪です。その妖怪は、同じヤマンバという名前であっても、柿五郎が見たやさしい女の人とは全く対照的な性格です。
「うわあっ、うわあああああっ!」
「フォフォフォフォ……。おめえが柿五郎というものか?」
「そ、そうだけど……。ど、どうして知ってるの……」
柿五郎は、ヤマンバの恐ろしい顔を見て思わず尻餅をついてしまいました。すると、ヤマンバはおびえている柿五郎の顔を見ながら不気味な笑みを浮かべています。
さらに、ヤマンバは柿五郎の名前を既に知っていると言い切りました。なぜなら、ヤマンバは柿五郎のこれまでの行動を見透かすかのような証拠があるからです。
「おめえはこの魔の山に入ってから、おねしょやおもらしの大失敗を何度も繰り返しているようだな。5歳になってもこんなに大失敗をしているようじゃねえ……」
「ぼ、ぼくだって……。お、お化けが恐くて……。ついついおねしょしちゃったり、おしっこやうんちのおもらしをしちゃったりするんだもん……」
柿五郎は魔の山には行ってからも、相変わらずおねしょやおもらしの大失敗をやってしまいます。ヤマンバは、いつまでたっても治らない柿五郎の大失敗の癖を不気味な声で次々と指摘しています。
これには、柿五郎も恐怖で腰を抜かしながらも、妖怪が恐くておねしょやおもらしの大失敗をしちゃうことを言い訳するように口にしました。
しかし、ヤマンバが指摘することは他にもあります。
「まだまだ言うことがあるぞ。おめえはこの年になっても、まだおっぱいを飲むのをやめられないようじゃな」
「だって……。ぼくはかあちゃのおっぱいをたくさん飲むのが大好きだもん……」
ヤマンバがいくら指摘しても、柿五郎はおっぱいを飲むのを卒業するのはなかなかできません。柿五郎にとっては、イモやスイカを食べるのと同じように、おっぱいをたくさん飲むことで元気にすくすくと成長しているからです。




