第10話 火の玉妖怪ヒダルマと柿五郎くん(6)
とりあえず、柿五郎は最大のピンチをひとまず乗り越えることができました。しかし、柿五郎にとってのピンチは、まだこれで終わったわけではありません。
それは、妖怪ヒダルマに再び出くわすことだけではありません。柿五郎自身にも、大ピンチに陥る事態がやってくるからです。
「ギュルギュルゴロゴロゴロッ! ギュルルギュルルゴロゴロッ!」
「うわっ、うんちがもれそう……。お、おしっこも……」
大きな木にしがみついたままの柿五郎は、急激な腹痛に見舞われると同時にうんちが出そうになってきました。柿五郎は、何とかうんちを必死にガマンしようとしますが、今度は急におしっこがもれそうになりました。
「も、もう……。ガマンができない……」
柿五郎は、おしっことうんちがガマンできなくなったので、あわてて大きな木から降りて山道のほうへ出ました。すると、火に包まれたあの妖怪が転がりながら坂道を上っています。
「ぐふふふふ! わざわざわしの前に出てやられにやってきたのか!」
「ガマンが、ガマンができない……。こうなったら、ヒダルマに思い切って行くぞ」
柿五郎の目の前には、ヒダルマが次第に迫ってきています。ヒダルマは全身が火に包まれているので、そのまま正面から行くと大やけどをしてしまいます。それでも、柿五郎が真正面から立ち向かって行ったのは、ある方法で攻撃することを思いついたためです。
ヒダルマは、柿五郎が自分からエジキになるためにやってきたものと思って不気味な笑い声を響かせています。しかし、その目論見は柿五郎によって見事に覆されます。
「ぐふふふふ! おめえは、これでわしにエジキになって焼き尽くされることに……」
「ジョパジョパジョパジョパ! ジョパジョパジョジョジョ~ッ! ジョパジョパジョジョ~ッ!」
柿五郎は腹掛けを左手でめくると、真正面にやってきたヒダルマに向かっておしっこを命中し始めました。そのおしっこの勢いで、ヒダルマは全身に包まれた火が次第に弱まってきました。
「ジョジョジョジョ~ッ! ジョパパジョパパッ! ジョパパジョジョ~ッ!」
「わわわっ! わわわっ! やめてくれ! わしは火が消えら一瞬で爆発するように砕け散る……」
柿五郎のおしっこが次々と命中されたヒダルマは、全身に包まれた火が完全に消えてしまいました。そして、火が消えたヒダルマの体は大きなヒビが入ると、柿五郎の前で突然砕け散ってしまいました。
「うわっ、うわわっ!」
柿五郎は、ヒダルマが突然砕け散った衝撃で、そのまま地面に尻餅をつくように倒れました。これを見た座敷童子は、心配になって柿五郎のところへやってきました。すると、柿五郎は照れた表情を見せながら、尻餅をついたままで座敷童子に何かを見せようとしています。
「えへへ、ヒダルマをやっつけたけど……。ヒダルマが砕け散ったはずみで、でっかいうんちとおしっこおもらしの大失敗をしちゃった」
「柿五郎くん、そんなことを気にしなくても大丈夫! どんなに大失敗しても、恐い妖怪をやっつけることができればそれでいいと思うよ」
柿五郎は、尻餅をついたときにでっかいうんちとおしっこのおもらしをしてしまいました。でも、座敷童子はヒダルマに立ち向かってやっつけた柿五郎の勇気を高く評価しました。




