第10話 火の玉妖怪ヒダルマと柿五郎くん(2)
「ところで、おめえの腹掛けだけど、どうしてこんなにぬれているのかな? ぐふふふふ!」
「こ、これは……。その……。水たまりにはまってしまって……」
ヒダルマは、さっそく柿五郎の腹掛けがぬれていることを不気味な笑い声で指摘しました。これを聞いた柿五郎は言葉を詰まらせながら、水たまりにはまってしまったとごまかすように言いました。しかし、そんな言い方がヒダルマに通用するはずがありません。
「そんな見え透いた言い訳なんか、このわしには通用しないぜ! もしかして、その腹掛けはおしっこでおもらししちゃったとか……」
「おもらしで大失敗することぐらい、小さい子供だったら当たり前のことだい!」
柿五郎の腹掛けがぬれているのは、おもらしで大失敗した証拠であることをヒダルマはすぐに見抜きました。すると、柿五郎はおもらしで大失敗することぐらい当たり前とヒダルマに向かって言い返しました。
「腹掛けがこんなにぬれていたらかわいそうだし、わしが乾かしてやろうか。このようにしてな!」
「うわっ、うわわわっ! いきなり何をするんだ!」
ヒダルマは文字通り火に包まれた状態で、柿五郎に向かって下り坂を転がり始めました。柿五郎はヒダルマがいきなり転がってきたので、あわてて下り坂を駆け足で逃げています。このままでは、柿五郎が火に包まれたヒダルマに巻き込まれてしまいます。
「このままでは、ヒダルマに巻き込まれて大やけどをしてしまうよ~」
「柿五郎くん、とりあえず合流点から別の坂道へ入ろうよ」
座敷童子は、この先にある合流点から妖怪トウマワリに出会った方向の坂道に入ることを柿五郎にアドバイスしました。これに耳を傾けた柿五郎は、座敷童子とともに合流点から別の坂道のほうへ入ることにしました。
「ほっ……。もうすぐヒダルマに巻き込まれるところだったよ」
「ヒダルマは巨大な丸っこい石だから、下り坂をずっと転がり続けるはず……」
ヒダルマは、下り坂をそのまま転がり続けながら合流点を通過しました。これを見た柿五郎は、ヒダルマから逃れることができたことにホッとしている様子です。座敷童子も、ヒダルマが元々丸っこい岩石ということを考えると、そのままずっと下へ転がっていくものだと考えていました。
そのときのことです。柿五郎たちは、いったん収まったはずの暑さが再び増してきました。そこには、下り坂で転がり続けていたはずのヒダルマが再び柿五郎たちの前に現れたのです。
「ぐふふふふ! わしがずっと下り坂を転がり続けると思ったら大間違いだぜ。上り坂であっても転がることができるのさ」
ヒダルマは不気味な笑いを浮かべながら、ここから逃げることは不可能であると言わんばかりの威圧感を柿五郎たちに与えようとしています。




