第8話 おついの愛情と赤ちゃん姿の柿五郎くん(5)
「大変だ! 家が火事になっているよ! 早く起きて、起きて!」
「何だって、火事だと?」「早く外へ出ないと」
柿五郎は寝間の引戸を開けると、急いでおついと伝吉を起こすために大声で叫びました。その声で起き上がった2人は、家の中に煙が充満していることに気づきました。そして、2人は柿五郎といっしょにそのまま急ぎ足で家から出ました。
桶に汲んでいる水は、すでに晩ご飯を作るときに全部使ってしまったので、火を消すための水は一滴もありません。ここから水を汲むためには、少し離れたところにある川まで行かなければなりません。しかし、出火した火の勢いはすさまじく、このままでは住んでいた家が全焼してしまいます。
「今まで住んでいた家がこんなことになるとは……」
伝吉は、おついといっしょに暮らした家が火事で全焼するのを避けたくても、それができない自分にもどかしさを感じています。
そのとき、柿五郎はおしっこがしたくて腹掛けの下を両手で押さえています。柿五郎のおしっこは、もうガマンの限界に近づいています。
すると、柿五郎はある方法を思いつきました。
「もしかしたら、これが使えるかも!」
柿五郎は、赤ちゃん姿であった自分を助けてくれたおついと伝吉に対して、今度は自分が恩返しをする番です。柿五郎は家のそばにある木に登ることにしました。
「おしっこがもれる……。でも、この木を登れば……」
柿五郎はまだ5歳児の男の子であり、まだ木登りが上手にできるわけではありません。しかし、家が焼け落ちるのを防ごうと、柿五郎は無我夢中で木を登っています。
「よいしょ、よいしょ……。ここからなら、火が出ているところがはっきりと見えるぞ」
柿五郎は木を登り続けると、少し高いところに太い枝があったのでそこへ移りました。そこは、家から出火している場所が目の前にあります。
「敬太くん、ここにいたら木に燃え移るぞ! 早くここから降りて!」
「ぼくがこの火事を消してあげるからね! よく見ててね!」
伝吉とおついは、木に登っている柿五郎が心配であることから早く降りてほしいと呼びかけました。しかし、柿五郎は自分でこの火事を消してあげると言うと、自分の腹掛けを右手でめくりました。
「それじゃあ、いくぞ! ジョジョジョジョジョ~ッ、ジョボジョボジョボジョジョ~ッ!」
柿五郎は、ずっとガマンしていたおしっこを出火場所にめがけて命中し始めました。柿五郎のおしっこの勢いは、出火していた火の勢いが次第に収まってきました。
「ジョボジョボジョジョジョジョ~ッ、ジョパジョパジョパジョジョジョジョ~ッ!」
柿五郎は、おついのおっぱいをたくさん飲んだこともあり、かなりの量のおしっこを次々と命中し続けています。そして、柿五郎がおしっこを出し切ってすっきりすると同時に、おついの家は完全に鎮火することになりました。
「柿五郎くんがおしっこで火を消したおかげで、焼けてしまったところが少なくて済んだぞ」
「柿五郎くん、火を消してくれて本当にありがとうね」
幸いなことに、おついたちの家は屋根と壁の一部が焼けただけで済みました。伝吉もおついも、一度はあきらめたこの家で引き続き住むことができるのが何よりもうれしそうです。




