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十七話

 闇忍に襲撃後、四人はひたすら東へと逃げ続けた。途中、やや北寄りに迂回する事で森の中に入り追っ手を撒こうとした。が、結果は芳しくなく、何度も追っ手に襲われる。


「すい‥‥ません。少し、休ませて、くれますか」


 息絶え絶えのエミリアが真っ青な顔つきで嘆願する。止むを得ず、四人は一度足を止め休憩に入った。


 もうエミリアの魔力は底をつきかけてる。本格的に休みたいところだけど‥‥


 ガサッ、ガサガサ


 本日、四回目の戦闘か‥‥


 草木の擦れる音で来栖らは臨戦態勢に移る。木の影から二体の闇忍が飛び出す。


「マジか、さっきより一体増えてやがる」


「くっ、フレイとクルスで一体は頼んだ」


 ルークは辛そうな声を上げると、一体の闇忍に向かって行く。


「クルス、いくよ」


「はいはい」


 あー、魔力が少なくなってきたし、体も重い。あんまり長くは戦えそうにないな。


刀剣現化ブレイド


 来栖は慣れた様子で魔力をククリナイフに込めるが、ナイフは何の反応も示さない。


 あ‥‥れ?


刀剣現化ブレイド


 魔力が固まる前に霧散して、消えてしまう。


 どういう事だ? ‥‥あ、最後に使ったのは‥‥三十分くらい前だ。制約条件でまだ使えねえ。どうする? 他のナイフを使うか? いや‥‥


「どうしたんだい、クルス。早く、手伝ってくれよ」


 フレイが杖で懸命に闇忍の攻撃を防ぎ続ける。魔導師であるフレイはやはり近接戦が苦手な様で体にどんどん傷を増やしていった。


 一発で決める!!


 来栖は脚に魔力を集中させると照準を闇忍に定める。


「羅刹一閃!!」


 来栖は自身の持つ最速の一撃を放ち、闇忍を一撃で仕留める。酷使された来栖の脚が悲鳴をあげる様に痛む。


「くっ‥‥フレイ。先にルークの援護に行っててくれ。俺も‥‥少ししたら行くから」


「わかった。クルス、無理はするなよ」


 フレイはそれだけ言って森の向こうへと消え去る。一人残された来栖は数少ない回復薬を飲み捨てると、その場に倒れ込む。


 きつい。まさか、ここまで追っ手が来るなんてな。安請け合いした護衛の仕事だけど、しっかり果たさないと。


「よっし、行くか」


 悲鳴をあげる脚を無理矢理動かして立ち上がると、フレイの向かった方へと走る。


 やっぱり、そうそう羅刹一閃は使うもんじゃないな。脚の負担がでかすぎる。次の敵が来た時‥‥この脚で、戦えるかどうか。


 来栖が二人の所に着いた時、闇忍は満身創痍だったが、それに比例しているかの様にルークも傷だらけになっていた。闇忍の一撃を見誤ったルークが脇腹を切り裂かれる。


「むぅ」


「ルーク!! くっそ、天より授かりし聖なる炎よ、邪気を焼き尽くし全てを浄化せよ‥‥蒼炎十字クロスフレイム


 フレイは右手から青く燃え上がる十字架を生み出すと、ルークにトドメを刺そうとする闇忍に投げる。フレイの魔法の威力を察した闇忍はすぐ様その場から飛び退き回避する。一瞬無防備になった闇忍を見逃さなかった来栖は手持ちのナイフを三本、投擲した。


 俺は今、動けそうにない。だから、これで決まってくれ。


 来栖の祈りが通じたのか、闇忍の体に二本ナイフが突き刺さり、そのまま息絶える。来栖はすぐに傷ついたルークの下に行くと最後の回復薬をルークに飲ませた。


「くっ、すまない。油断した」


 連戦で明らかに弱っているルーク。魔法を使い続けているフレイも魔力が底をつきかけているのか、辛そな表情をしていた。


 俺も限界だし、後一、二戦が限度だな。状況は最悪、どうにかして援軍を呼びたいもんだ。つってもそう簡単に呼べるたら‥‥


「あ」


 ある事を思い出した来栖は拍子の抜けた声を漏らす。


「クルス、どうした?」


 ルークが傷口を抑えながら声をかける。


 やっべ、思わず声を出しちまった。こいつらに言ってもしょうがないし、黙ってるかな。


「いや、何でもない。少し、近くを見回ってくるわ」


 苦しい嘘、と思いながらも他にいい言葉が見つからずそのまま離れた所まで移動する。近くに誰もいない事を確認するとスマホを取り出し、電話帳を開く。


 誰にかけるべきか‥‥ライは遠すぎるし、浅井さん? 確かに来てくれそうだけど‥‥あんまり、巻き込みたくない。なら、古部だ。あいつなら立場上来てくれるはず。


 すぐに電話帳の古部 俊の欄から電話をかけるが通じず、呼び出し音が鳴り続けるだけだった。


「あいつ、スマホの有用性に気づいてないな。いや、他の奴らで気づいている奴はいるのか?」


 異世界でスマホが使えるという事は普通は考えもしない。クラスの中で今も持っている人が何人いるかなど来栖には見当もつかなかった。


 もういいや〜、適当にかけてみるか。


 やけになった来栖が電話帳の載っている人に片っ端から電話すると、意外にも三人目で繋がった。


「もしもし〜、来栖? どうかしたのー?」


「朱莉? 朱莉か?」


「そうよ。って、来栖からかけてきたんでしょ?」


 マジか、朱莉なら助けに来てくれるかも‥‥


「悪い朱莉、お前今どこにいる?」


「えーっと、王都だけどそれがなーに?」


 王都‥‥くそっ!! 遠すぎる。王都から着く頃にはもう俺達はムラージュに着いてる頃だ。やっぱり、このまま行くしか‥‥


「ちょっとー、来栖? どうしたの?」


 もしかしたら‥‥俺、死ぬかもな。


 来栖はふと、そう思った。今までだって何度かは死にそうになった。でも、来栖は今回の死は、ゆっくりと迫りくる何か恐ろしいものの様に感じる。


「なぁ、朱莉‥‥」


 逃げようと思えばいつでも逃げれる。でも‥‥それは、それだけはしたくない。


「俺がもし、死んだらさ‥‥」


 俺が、死んだら‥‥か。


「浅井さんの事‥‥頼んだ」


 朱莉はしばらくの間、何かを考えているかの様に返事を返さなかった。数十秒後、朱莉はようやく口を開く。


「今、どこにいるの?」


 真剣になった朱莉の声。本気で心配しているんだとわかった来栖。だけど、どうしようも出来ない事に変わりわなかった。


「ブリュッセルとムラージュの間にある森の中だ。さっきから闇忍って言う、魔物が追いかけてきてな‥‥魔力も底がつきそうだし、限界なんだ。だから、浅井さんの事は頼んだ」


「来栖、すぐち──」


 朱莉の声が途中で途切れる。来栖がどうしたもんかと画面を見てみると、電池切れのサインが出ていた。


 あーあ、充電しないと。


 来栖は己の魔力をスマホに込めようとするが思い留まる。


 俺の魔力はあと僅か。スマホに回したら、次の戦いの分がなくなるな。何か朱莉が言おうとしていたけど‥‥魔力は無駄にできねえ。


 来栖はスマホを雑に袋に入れると、元の道を戻る。




 元の場所に戻った来栖は最初にルークの容体を見る。


 回復薬のおかげかだいぶ回復しているな。この分だと、次の戦闘には間に合いそうだ。問題は‥‥


 来栖は木にもたれかかり休憩しているエミリアに目を向ける。相変わらず魔力切れの様で苦しそうにしていた。


 エミリアが回復しない限り、俺らは動けない‥‥このまま悩んでいてもしょうがないか。一度、寝るとしよう。


 来栖はエミリアの近くに位置取ると、ゆっくりと瞼を閉じた。




 来栖が目を覚めました時、隣にはエミリアがいた。魔力切れは治まったようで、だいぶ楽そうな表情をしている。


 かなり、寝てたっぽいな。魔力は‥‥半分くらいまでは回復したか。


「クルス‥‥」


 エミリアが消えそうな声で来栖の名前を呼ぶ。


「ん? 何だ?」


「この間、教えてくれた事の続きを教えてくれませんか?」


 この間? あぁ、簡単な計算を教えたやつか。いい気晴らしになるかな。


「いいぞ。まずは軽い復習からやるか」


「はい」


 エミリアは地味に頭良いからな。ほとんど一発で理解しちゃうんだよね。それって、俺、いらなくね? とか、思っちゃうんだよなぁ。


「そうだな‥‥足し算からにするか。4+9は?」


 来栖が適当に頭に思い浮かんだ数字を言うと、エミリアが必死に両手の指を使い計算を始める。


 この世界って、学問遅れてるよな‥‥現代知識を使えば知識チートも出来るかもな。


「10と‥‥3? 13です!!」


 嬉しそうな顔をしたエミリアが来栖に答えを確認する。


「正解だ。本当は指を使わないのが一番なんだけどな」


「それは、どうやるんですか?」


 暗算をどうやるか、だと? 常識で、って言いたいけど‥‥いい説明が思い浮かばない。


「うーん、慣れが一番かな? 慣れてきたら二桁くらいでも余裕だよ。まっ、今は地道な勉強かな?」


「そう、ですか」


 急に落胆するエミリア。


 なんで、こんなに落ち込むんだよ。計算を何かに使いたかったのか?


「まぁ、切り替えていくか。8-3は?」


 あっち世界なら一秒で答えられるんだけどな。


「えーと、5、ですか?」


「あぁ、じゃあ‥‥17+6は?」


 二桁の数を混ぜたけど、解けるか?


「17、と6‥‥」


 頭を悩ませるエミリア。見兼ねた来栖が助け舟を出す。


「17を10と7に分けて考えてみろ」


 これで、いいよな?


「10と7と6‥‥13と10‥‥23!! 23ですね!!」


「おぉ、あってる」


「本当ですか!!」


 目を輝かせるエミリアを見ながら来栖は感心する。


 やっぱりエミリアは頭が良さそうだな。そろそろかけ算にでもいってみるか?


 そう考え始めた頃、フレイが声をあげる。


「敵だ。また、闇忍が来たね。真っ直ぐこっちに向かって来ている。しかも、今回は‥‥三体もいるようだ」


 三体!? 嘘だろ? 一体でもきつい状況なのに、勝てるわけが、ない。


 敗色の濃さをいち早く察したルークは座っていたエミリアを背負い東へと走り出す。来栖とフレイもその後に続くが依然として背後には闇忍の気配が感じられた。


「おい、ルーク。どうするんだ。このまま走って逃げられる相手じゃない。何か手を打たなきゃ、全滅するぞ」


「その手がないんだ!!」


 そう、何か‥‥手はないか? 現状を打開できるような、名案が。


 ルークはエミリアの重さ分負荷がかかっているにも関わらず来栖やフレイと同等の速さで走り続けた。


 確かにこの速さなら追いつかれる事はない。だけどこのままじゃ、ルークがどこまで耐えれるかどうか。ルークが力尽きた時、俺達の終わりだ。


「おい、ルーク。後、何分‥‥保つ?」


 ルークは魔力操作で身体強化をしながら走っていた。今までの戦闘による魔力消費から考えてもルークの魔力残量は多くない。


「これくらい、いくらでも‥‥」


「強がりはいい!! 本当の事を言え」


 うまくいけば、エミリアは確実に助かる。


「くっ、せいぜい、十分程度、だろう」


 十分‥‥いける、いけるぞ!!


 ルークに抱きかかえられているエミリアの顔が泣きそうになっている事に気がつく。


「エミリア、大丈夫だ。俺が、全部‥‥何とかしてやるよ。ルーク、俺が残って闇忍の気を引きつける。距離が取れたらうまく巻いてくれ」


「クルス、正気かい? 闇忍三体を相手に、生き残れると思う? 答えはノーだ。全快時ならまだしも今のクルスのコンディションじゃ、死ぬだけさ」


 フレイは普段より強い口調で言う。


「このまま何もしなくても、全滅するのは明白だ。なら、俺は‥‥少しでも可能性のある方に賭けたい」


 別に倒さなくてもいいんだ。俺はただ、逃げればいい。


「クルス、本当にいいのか? そこまでする通りはないんだぞ?」


 確かにな。ナイフ一本のためにどんだけ命はってんだよ、って感じだわな。でも、まぁ‥‥約束を守らないのは、嫌なんだよ。


「あぁ。大丈夫だ、俺は逃げ切れる。じゃあ、後で合流な」


 ルークとフレイは無言のまま走り続ける。


 別れの言葉はいらない、ってか。かっこいいな。


「クルス‥‥死なない、ですよね?」


 エミリアは涙を流しながら来栖の目を見る。


「あぁ、あの程度の敵から逃げるくらい、なんて事ないさ」


 エミリアは来栖の明らかな強がりに気づいているのか涙を流し続ける。


 泣かせたかった‥‥わけじゃないんだけどなぁ。まぁ、しょうがないか。


「じゃあな。また‥‥後で」


「あっ‥‥」


 来栖はエミリアの呟きを聞こえないフリをし、その場て反転するとその場に留まった。そして、迫り来る闇忍に備えてナイフを構える。


 エミリア‥‥何て言おうとしてたのかな? 後で、訊いてみよう、っと。


 来栖はけっして得意ではない魔力感知を最大限に使って闇忍に備える。


「来た‥‥」


 距離は、百メートルってとこか。


 三つの影が来栖に迫り、辺りに生い茂る草木がざわめき始める。


 五十‥‥三十‥‥十


 来栖はカウントダウンの様に闇忍との距離を測り続けていたが、遂に数字が十を切る。


 ザッ、ガサガサガサ、タッ


 僅かな物音と共に三体の闇忍が来栖の目の前に現れる。三方向から来栖を囲んだ闇忍はどこからかクナイを出し、構えた。


「さぁ、来やがれ」


 来栖の挑発を合図に三体の闇忍が一斉に飛びかかる。


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