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三章十二話:大変なようだね

 

 

 ふっさふさであった。

 色の抜けた頭は、ふっさふさであった。

「……どうしたかな? アスター君」

「あ、えっと、何でもありません」

 アスターの言葉に、彼は不審な表情を浮かべる。深い緑のジャケットにベージュのレーダーホーゼン(肩紐付き革半ズボン)。すらっとした全身は老齢ながらどこかきりっと締まっており、整えられたちょび鬚と、天然パーマ気味な白髪が印象的な老人。

 フード付きマントを装備していれば、二章終盤で見覚えのある姿になる。

 彼の名は、エリーク。

 セラスト国王が異国より呼び寄せた、聖鎖に選ばれた“縛鎖の勇者”その人である。

 ただ、アスターの視線はそんな彼の頭上に集中していた。

 フードを脱いだ姿を初めて見た彼である。何だかんだで今は冬場。「寒い」という理由から一切その不審者感爆発気味な格好を解除することのなかったエリークであったが、流石に三度、不審者として騎士団に通報されては、彼も折れる他なかった。

 そんな訳で現れたその姿に、アスターは驚いていた。

 声の感じから、結構な年齢を想像していたのだ。

 実際その予想は正しかったわけだが、それにしても、案外とエリークは(年の割に)若かった。

「……まあ、良いでしょう」

 なんとなくエリークも、アスターのその結構失礼な視線に気付いては居るようだが、とりあえずそれは無視することにしたらしい。

 はてさて、アスターがマーチと決闘をした翌日。

 機能確認がてらレオウルと簡単な組み手をした後朝食をとり、アスターはエリークの元へ出向いていた。

 流石に当日は色々身体を無理に使ったので、大事を取って半日の休養が強制されたわけだが、アスターとしてはむしろ助かったくらいだ。あれがなかったら下手をすると未だにレッスンに移れない可能性すらあったので、エリザベートにしてはかなり譲歩した結果であろう。

 その裏側にあるだろう感情を、両者は両者ともに読み違えているのであるが、その辺りはさておいて。

「そうだね。では、まず何から話したものか……」

 城の空き部屋に、机と椅子二つという簡易教室仕様で、エリークはアスターに何を話すべきか考えているところであった。二人きりで授業しているのは、無論、あまり外部に漏らしたくない話もするからである。

 ちなみにだが、エリークがとりあえずアスターを見て「まあ、後継者として検討しても良い」と言ったからこそ、今こうして授業をしているのである。

「そうだね。聖武器の成り立ちというものについて、君はどれくらい知ってるかな?」

「聖女エスメラ様が作り出した、始祖の魔王に対抗する武器ってくらいしか……」

「ふむ。まあ、おおむね間違ってはいない。“黒の勇者”は、何か言っていなかったかな?」

「え、えっと……その系統では特には。あ、ただ『扱い難い』って言っていました」

「ふむ。二、三年でそれくらい言えたのなら、上々だった方だろう。……さて、では全体的な話からしていこう。

 まず少しフォル聖書、勇聖神殿に伝わる話を紐解こうか」

 エリークは、左手に巻き付いている銀の鎖を見せる。「元より世界には、“邪悪なる竜”が跋扈していた。今の竜族(ドラゴノイド)とは違い、文字通り世界に邪悪を振りまき、混沌と崩壊を齎せるような存在。古い言葉で“邪竜(ヤスナトラ)”と呼ばれる存在だ。この国の歴史書にも、存在が語られているのではないかな?」

「えっと、そうですね。マグノリア一世が故郷から逃げ、初代国王に救われたお話がそれです」

「ふむ。そして、聖武器とは、元はこれに対抗するために生み出された武装なのではないか、と私は考えて居る」

 ――恵よ、あれ。

 エリークの呟きに呼応するかのように、手元の鎖は姿を消した。

「無論、最初の勇者が聖剣を使って魔王を討伐した以上、どちら共に共通するシステムが存在するということなのかもしれないがね。しかし、私はそれを確信する」

「というのは?」

「はっきり言えば、この武器は本来魔王を相手取るのに分が悪い」

「ひゃっ!」

 じゃらん! と、エリークの背後から突如鎖が現れ、アスターの右耳のすぐ傍をかすめた。

 思わず飛び退くアスター。エリークは、ふふっと微笑んだ。

「実戦だったらば、アスター君は今のでおそらくやられて居ただろうね。邪竜相手でも、通用する気はする。しかし、魔王相手の場合、完全に相性によるのだよ。かつて“最強の魔王”と戦った時には、相当手ひどくやられたものでね」

「相性?」

「究極的に言えば、聖武器は平等に魔王や邪竜たちの天敵なのだが、それでも魔王相手にはやり難さがある。これが解せない。私自身、というよりこの鎖“プラム”は勇聖神殿所有だったものなのだけれども、相対する宗教からでさえ、聖女エスメラは聡明な人物とされている。実際、彼女の死後相当な年数が経った今でも、異世界人たちによる文化の進歩すら、聖女の威光を忘れさせることはない。それほど卓越した想像力、予測力を持つ人間が、わざわざこんなやり辛さ、つまりエラーを残したままの武器を完成品として残すだろうか」

 反語による否定はなかなかに真実を付いたもののように聞こえるが、残念ながら十四歳の思考回路を高く見積もりすぎである。聖女エスメラの分析にすら入ったエリーク氏に、ちんぷんかんぷんだと言わんばかりの「ぽけっ」とした表情を向けるアスター。

「おっと、済まなかったね。さて……、そう考えるならば、聖武器は邪竜討伐のためのもの。魔王との敵対は副次的な要素であると考えてしかるべきだろうという話だ」

「えっと……」

「まあ、本題はここからだ」

 鎖が再び消える。アスターはきょろきょろとし、周囲を警戒した。

「この聖武器、実は聖女エスメラによる解説が書かれたものがあるというのを、君は知っているかい?」

「……初耳、です」

「あるのだよ。その名を聖板。聖武器の一種……だと言われている、聖銀で出来た板だね。そこに、おそらく聖女の直筆と思われる字が掘り込まれて居るのだよ」

 困惑していた少年は、徐々に瞳に好奇心を浮かべる。

 話しの要領は見えないが、アスターは純粋に興味引かれはじめていた。

「まあ、それでもあまり多くは書かれていないのだがね。しかし、窺い知れる情報も多かった。例えば、“聖銀(ミスリル)”と類似の属性を持つ金属に“邪金(オリハルコン)”と呼ばれるものがあるとかね」

「えっと、字面が……」

「まあ、それぞれの金属が齎す特性がそのまま現れているのだろうね。その話しはまた今度ということにしてだ。

 なんでもそれによれば、聖女は金属に、“時の魔法”と“選択の知性”を与えたのだそうだ」

 素直に、エリークの話しを聞くアスター。

 と、そんな彼の両腕が、手錠のように拘束された。

 天井から射出されたそれが両手に絡まり、床に突き刺さった。

「あ、しまった――」

「ふふ、今度は逃げられなかったかな? さて。後者についてはともかく、前者については実際に体験してもらった方が分かりやすいだろう。良いかい?」

「え? いえ、一体何を……」

 困惑するアスターを無視して、エリークは彼の頭上を見る。

 否、正確には彼の頭上にある「何か」を見ているようだ。

「ふむ……。なかなかに大変なようだね、あの王女も」

「へ?」

「君は目の前で見たんだろう? といよりも、君自身が色々あって、見せつけられたのだろう。これを王女も見たら、流石に――」

「え、え、え? あの、えっと、えっと、え?」

 一切核心部分を語らないエリークであるが、アスターは何やら自分の中の、決して思い出してはいけない領域にある虎と馬が睨めっこした黒歴史を閲覧されているような恐怖にかられた。

 いや、かられたではない。

 さきほどから、エリークの言葉の端々に、妙な生暖かさを感じる。

 それが、聖武器によって齎されているというのは会話の流れから察し、同時に血の気が引いた。

「うむ、しかしこの両者は――うむ、ん、んん、うぅむ……」

「あの、えっと、ひょっとして、エースさんとカノンさんですか?」

「だろうね。“黒の勇者”と……こっちの怖い娘が、カノンというのかね?」

「……えっと、エリザベート様には黙っていてください」

「うむ。君も王女もなかなかに大変なようだ」

 一体どんな映像を見たのかは割愛しておくとして。

 アスターの拘束が解除されると同時に、光と共に鎖はエリークの左腕に戻った。

「ともかく、こういった能力だ」

「……人の記憶を覗く、みたいなものですか?」

「厳密には少々違う。これは、『人の過去の会話をさかのぼって閲覧できる』だね。正式な魔法名は知らないが、この“プラム”に関してはそういった能力なのだよ」

 アスターは、恐怖と共に引きつった笑みを浮かべるほかなかった。

 

 

アスターのトラウマについては番外編で触れるやもしれません


新作「ラブレイブハート」投稿しました。現代異能力変身ヒーローもの? を目指す感じの作品です。よかったらぜひ一読を。

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