二章四十一話: 波紋は撒き散らすもの
セノ「きゅんきゅんのお仲間が出たきゅん☆」
そもそも部族の説明自体、ほとんどされていないという罠
竜王がかつて作り出したダンジョンの中で、最も大きなものは果たして何であろうか。
竜王城? いや、それは違う。あの城の大きさそのものは、全くと言って良いほど変わっていない。内部の空間を歪めて拡張して、サイズ感を調整したりこそするものの、竜王城そのもののサイズは全くといって良いほど変わっていない。
かつてエースたちが攻めたとき、外観自体もそれなりに大きかったためあまり気にしては居なかったが、ゆうにその内部は膨大なほど拡張されていた。それを維持できた竜王がいかに規格外であるかということもあるが、エースが竜王城の主となった今、内部が拡張されず使われているというのは、サイズあわせ意外の理由もあったのだ。
ならば、果たしてどんなダンジョンが、竜王の作り出したダンジョンの中で最も広い場所だといえるだろうか。
エースですら最近まで知らなかったその場所の名は――“天元の城”。
かつて王国の創立に関わりのある“邪悪なる竜”、それに近しいものが再来した際に隔離し封印するため、竜王が作り上げた天空に浮かぶ巨大な城である。
早い話、ラ○ュタだ。
そしてこの城は、とあるダンジョンから部族長の魔族のみが行き来することが可能なように出来ている。それとは別にエミリーやら、竜王の関係者も来れるように出来上がっているが、問題はそういうことではない。
今回の部族長会議の開催場所が、ここなのである。
この城の上部は、竜王城よりは殺伐としているが一応、城である。本来の機能は要塞に近いのだが、しかしそこは竜王なりのこだわりなのか、色々と城っぽさを併せ持っている。その上で要塞として使えるようになっているので、作戦会議室、のようなものが当然存在する。
“獣王”――獣人族の部族長は、そこを利用するつもりで手紙を出した。
そして今日び、彼らはそこの作戦会議室に集っている。
白い壁面に囲まれた部屋の中で、大半が沈黙を貫いていた。
「……それで、何故まだはじめないのか?」
獣王に、力鬼族の部族長“雷帝”は、少しいらだたしげに尋ねた。
パンチパーマに太い角一本、上裸で虎ガラの袴姿と、なんとも微妙な格好である。
獣王とハトコである彼は、ハトコだからこそ表面上の礼儀とかをとっぱらって接していた
「焦るな。まだ全員集合していない」
獣王は、周囲を見回しながら答える。 ちなみに獣王、アスターとの戦闘からほとんど完治である。体の所々に包帯を巻いている以外は、既に巨体の白い虎男だ。
さて、この場に集っているのは、“雷帝”も見知った顔ばかり。
“鬼長”――鬼族の部族長。法衣のような格好をした、スキンヘッドの痩せ男。角は二つで、不可思議そうな顔をしながら手元の本に目を落としている。
“空族長”――空族の部族長。相変わらずの赤ら顔に、額から鼻にかけて伸びる魔角が、飛行状態でもないのに鼻を覆っている。
“深海王”――半漁族たちの部族長。人間のような姿に化けているため、鱗のような魔角紋が頬に浮かび上がっている。相変わらず逞しくも凛々しく、周囲には何人かヒトガタに化けている美人魚たちをはべらせている。
“森姫”――亜人族たちの部族長。長らく部族長を行っているハイエルフの女性は、たおやかで、かつどこか力強さを感じさせる美女である。プラチナブロンドの髪は、相変わらず蠱惑的だ。周囲をうかがいつつ、浮かべる苦笑いでさえおそろしい。
“妖精王”――妖精族たちの部族長。ヒトの半分ほどの全長であり、少し顔の大きな老人の姿をしている。背には半透明の羽。その周囲には多くの妖精族たちが空中を浮かび。彼を扇いだりお世話したりして傅いていた。
“幽鬼官”――半霊族たちの部族長。黒いローブをまとっており、腕を組んでいる。そこから覗く両手は半透明の装甲と、骨のような鎧に覆われていた。
そして、本来“竜王”が座っていた上座は空席のまま――。
否、そのすぐ隣に、もう一つ席がもうけられている。
座っているのは、生命力を感じさせる赤毛の少女。金色の魔角は魔力の強さの証。無表情に周囲を見回す彼女の佇まいは、恐ろしく落ち着いていた。真紅のドレスをまとう白い肌は、決して露出が多いわけでもないが何故か本能をかきたてられる。
言わずもがな、我等がメイドテレポーター。エミリーこと“竜王の娘”である。
王国の竜族は、とある事情から死滅するか逃走するかして殆どおらず、また本来の竜族が部族長である竜王が死去している今、代役としてエミリーが座っているのはひどく当たり前のように思われた。
だが、ならば何故彼女は、竜王の席に座っていないか。
そんな疑問を、部族長たち誰しも抱いているところだが、しかし先ほどの獣王の言葉がそれを裏付ける。しかし裏付けたところで、逆に疑問が深まった。
「……どういうことだ? ゾート。これで全員ではないか」
「もう一人居るだろう。軍団長の義勇軍が回った際、耳にしているはずだ」
「……あの、謎のダンジョンのか」
当然それは“りゅーおーらんど”のことである。
セィーブ元軍団長が、各部族の集落やら何やらを訪れた際、ちらりと“りゅーおーらんど”のことについて話していたのだ。場所がシャルパンとガンドレイと限定されていたので、それに関する情報がかなり少ない部族長が多い。
この中では、かのアミューズダンジョンについて多少情報を持っている“森姫”が口を開く。
「そうですね。……なかなか斬新なダンジョンきゅ……、ダンジョンですね。ある意味、竜王が提示した『農場』というような使い方の、発展系のようなもので――きゅん☆」
「無理に語尾を抑える必要もないでしょう。きゅん☆ きゅん☆ が止められないのは、皆判っていますし。……出るべくして出てきた、ということか。噂に聞く、かの――シハイニン殿は」
やせ細った“鬼長”が、気難しそうな顔で意見を述べる。
“雷帝”は、歯軋りをして彼女たちを睨んだ。
「何か勘違いしていないか? この王国において、ダンジョンを作り出せる存在はかの“竜王”のみだ。その跡を継げるとするのならば、やはり同じく破壊神様の加護を得ているオエ――」
だん、とエミリーが机を膝で蹴り上げた。
無表情ながら、怒気に満ちているその雰囲気。
“雷帝”は言葉を失ったものの、気を取り直して続けた。
「……あのお方のみのはずだ。とするならば、その功績は彼女に帰結するものではないか? そもそも、そのシハイニンという男からして、得体が知れない噂だ」
「ん~、僕は別にどうでも良いけどね。というか、早いところ王様決めない?」
軽い調子で言うのは、周囲の人魚たちに愛を囁く“深海王”。
見た目の逞しさからは想像も付かないほど軟派な男である。
既に見慣れた光景だが、頭を抱える“雷帝”。隣の席の“森姫”に「ねーねー、だから前から言ってるけど今晩どうよ?」とか言ってるのを無視されている様は、例え他の部族長であっても「こいつ大丈夫か?」と思わせるものであった。
“鬼長”が、エミリーに質問を投げかける。
「……私も、シハイニン殿については気になっております。ダンジョンを創造するのは、竜王様のみの特権であり――固有の能力であったはず。とするならば、ダンジョンはオエリ――」
だんっ。
蹴り上げ再来である。
「……貴女様の作り出したものと考えて、無問題なのでしょうか?」
エミリーは、肩を竦めた。
「単純な話、でございます。私はダンジョンを作れない、このことは今まで一度も変わっていないでございます」
その一言に、周囲が息を呑む。
つまり、ダンジョンを創造できる存在――竜王の後継者になりうる存在が、今この王国に居るということに他ならない。
竜王の後に自分たちを統べうる存在が。
しかし、“雷帝”は納得がいっていないようだった。
「見も知らず、知らしめもせず、断りもなく淡々とダンジョンを作り出してあっけらかんとしている男なのでしょう? その、シハイニンとかいう男は。そんな者に、勤まるというのですか? 統率者が」
エミリーは、簡潔に答えた。
「統率者――ではなく、『魔王』様でございます。少なくともお父様はそのつもりで、かの者を選び、己が力を分け与えたでございます」
彼女の言葉が齎した威力は、果たしてどれほどのものであったか。
絶句する室内において――獣王の近衛の一人が、静かに舌打ちをした。
ゴブリン→スタイリッシュ鬼、トロール→やや低めの巨人、ロングノース→鳥人(天狗やカラス天狗含む)、フィッシュメン→人魚(and 半漁人)、亜人→エルフやドワーフなど、ピクシーはほぼそのままでバックノック→実態を持たない系と考えると、多少イメージがつくかもです。
そして竜と書いてドラゴノイド(竜人)なのは、決して誤字ではなく意味あってです。が、明かされるとしたらたぶんホワナイです。
次も一週間以内を目指す、でございます。




