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二章四十話:やってみるまで勝ち戦か負け戦かわからないのは致命的

二話にわけるつもりでしたが、ちゅーとはんぱなのでカット&カットしてむりきし接続しました。

しかし、まさか四十話いくとは思ってませんでした・・・ ば、番外編もまだ投稿できてないし(震え声)




「なるほど、戦争か……。それは宜しくないねぇ。まさかそこまで、後先考えていないのだったとは。法務大臣主導の計画っぽくないね、そうなると」

「……」

 リリートリヒは、デュオニソスの反応に意外なものを見たような目をした。

 ついで、さきほど自分たちの前に現れた「謎の男たち」に視線を向ける。

「そそ。アンタほど利益主義に傾いてるんなら、そう言うと思ったよ」

『そう なの ?』

 片やその場に立っているのは、全身黒い礼服に身を包んだ青年。

 顔立ちは少しなよなよとしているが、態度が無駄に大きい。

 半透明のサングラスにオールバックな髪型というのも、無駄にいらつかせるところに拍車をかける。少なくとも、本人が自称したところの「支配人」という立場が、その態度を保障させるのかもしれない。

 しかし問題は、むしろこの青年が先ほどした蛮行の方だろうか。

 そして現れたもう一人……、一人? は、巨体である。

 大きさは成人男性くらいの身長なのだが、四頭身のキグルミ姿で、少しゆるいその造形は明らかに場違いに思える。

 しかし、多少なりとも魔術の道に関わっていれば、その存在の本当の意味での異様さに気付くことができるだろう。

 そう、まるで――まるで精霊のような、自立的に動く「元素と魔力の塊」など。

 もっとも、それをリリートリヒが知覚できたのは、多かれ少なかれ彼女自身が「精霊魔法」の研究に携わっていたことも理由の一つであるが。

 いずれにしても、両者ともに何らかの異常性を持ち合わせている。

 教会の、自分たちのホームに現れた彼らは、本人達の意思はともかく、ひどく剣呑なものに彼女には思えた。

「ん~……、はぁ」

 胡散臭げな青年の言葉を吟味し、デュオニソスは深いため息をついた。

「仕方ないね。そう言われちゃ、こちらが折れるしかない。少なくとも君の方の『計画』っていうのも、だいぶ面白そうだ。どっちかって言ったら、そっちに乗るほうがまだ建設的かもね」

「そーゆーこと。分かってもらえて光栄ですねぇ。……まぁ、でも少なからず、俺自身が()()に比べて相当アレだっていう自覚くらいはあるよ」

「当たり前だよ。脅迫しようとして、まさかあの魔王よりも性質の悪い脅迫をされ返すなんて、普通思わないから」

 何とも言えない苦い笑いを浮かべあう両者。

 不思議そうに頭をかしげるキグルミ。

 リリートリヒは、どうしてこんなことになっているのか、ついさきほどの己の身に起こった事柄を思い浮かべることにした。



※   ※    ※    ※



 オルバルにある聖女教会、その王国支部。

 場所は……、何だろう、執務室とでも言えば良いか。大聖堂の屋根裏にある、司祭デュオニソスと助手少女リリートリヒが、職務にあけくれる場所である。

 職務、といっても、いわゆる普通の「支部」としての職務だけに留まらない。

 例によって土地転がしやら、商会連相手にケンカふっかけたりだの、色々な()()も含まれる。

 そして本日の雑務のために、リリートリヒはデスクに座って、映像通信結晶から連絡が入るのを待っていた。

「こないねぇ」

「まだ開始予定時間から半刻もたっていませんよ?」

 椅子の背もたれに体重をかけてうつらうつらしているデュオの言葉に、リリートリヒは真顔でツッコミを入れた。

 実行予定時刻とは、カイネの聖騎士団が“りゅーおーらんど”への襲撃を開始する予定時刻であり、カイネが竜王城へ向かい始める予定時刻のことである。

 実は既に騎士団は熱烈な歓迎(?)を喰らい、カイネがいろいろあって戦闘不能状態に陥っていることなど、流石に彼らも予想はできなかった。

 そして、更に予想外の現象が彼らを襲う。


『==スキャン・リンク問題なし! これより、フィールドはダンジョン扱いになりま~す!==』


 突然のそのアナウンスに、いち早く立ち上がって杖を取り出したのはリリートリヒである。

 見た目はちょっと地味な少女に他ならないものの、実際のところは文科系より体育会系よりの機敏さを発揮し、彼女は周囲の警戒にあたった。

 そして、室内が突如として拡大される。

 やや手狭な執務室といったこの場所が、とたんに大広間くらいの広さへと変化したのだ。

 流石に二人も「は?」という風に呆気に取られた表情となったが、しかしデュオはいち早く正気を取り戻し、「へぇ~」と感心した。

「なるほど、これ空間ゆがめてるのかな? それとも亜空間とかつくりだしてるのか……。どっちにしても、半精霊技だねぇ」

「し、司祭……? これは――」

「とか言ってるうちに、お客さんみたいだよ」

 デュオの言葉通り、執務室の扉が一回のみノックされた。

「一回って、どういう意図なんだろうねぇ……」

「しっ、黙ってて……」

 すぐさま魔法石をいくつか取り出し、術式を編むリリートリヒ。無言で術を形成させるにもそれなりに集中力を要するのだが、一瞬でここまで戦闘モードに切り替えられる彼女は、玄人ほどではないにしても決してアマチュアとは言いがたい実力だった。

 それはともかく。

 扉の向こうから、「入っていいですか~?」という間延びした質問が届く。

「(……お、お父様)」

「いいですよー」

「(!?)」

 小声で相談しようとした義娘の意図をかるーく無視し、デュオニソスは来訪者を室内へ招き入れるようなことを口走った。

 本来なら彼女はデュオの頭をぶん殴っていそうなところだが、今は緊急事態。行為の是非を問う前に、この異常事態を引き起こした()の滅殺に集中することにした。


 果たして扉を開けたのは……、まぁ本作の主人公なのだが。


 相変わらずの支配人装備。

 出で立ちの胡散臭さを、全く改善するつもりのないエースである。

「やー、どうもこんにち――わ」

 そして、リリートリヒの放った殺人光線級の魔術を、軽く()()()()()()()、彼は室内に上がりこんだ。これに驚愕するリリートリヒ。

「や、おひさー」

「……?」

「……あ、そうか、出で立ちコレだから気付かれてないか。ならプランBでいこ」

 エースは彼女に苦笑いしながら一瞥するのみで、すぐさまデュオニソスへと顔を向けた。


「はじめましてになるのかな? 君は、所謂“魔王”だね」

「一応。個人的には“りゅーおーらんど”の支配人というところなんだけどね」


 両者は、どちらも表に感情を出さない、薄い笑みを浮かべる。

 似たようなその表情のまま、エースとデュオニソスとの会談がはじまった。



※   ※    ※    ※



「まさか、なんだかんだで勝てると思っていた勝負が、実は始める前から負け戦だとは思ってもみなかったよ……」

 エースが去った後の室内にて、デュオニソスは肩を竦めてぼやいた。

 何が負け戦なのかといえば、エースが持っていた情報そのものである。

 我等の主人公がデュオに齎した情報は二つ。王城内でのエース暗殺に関連する計画――蛇人間たちが調べ上げた、「開戦」のための計画。

 そして、エースがそれをどうやって止めるかという、「対決」のための計画。

 双方共に詳細は次章を待たれよというところだが、とにかくそれらを踏まえると、デュオは今回の姦計を、諦めざるを得なかったのだ。

 ちなみに、ご丁寧に紙の資料を作ってデュオとリリートリヒに手渡しながら、陽気に、かつ生真面目にプレゼンするエースの姿は、なんともいえないシュールさをまとっていた。

「はぁ。確かに、こちらでどうのこうのすることは出来ないよねぇ。僕の動きが下手につついて、おなべをひっくり返すような切欠になりかねないし。そして、あくまでこちらの立場は部外者だし。部外者なりに出来ることもあるんだけど、流石に『戦争』に加担する形での参加になろうとしていたのは、まずかったなぁ。まだまだ経験不足かね?」

「……お父様、一つ聞きたいんですが……、戦争参加の何がいけないのですか?」

 リリートリヒとしては、戦争が軍事産業、流通他諸々の発展に貢献するという面を理解しているので、むしろそれに嫌悪感を示しているらしいデュオに、彼女は疑問を抱く。

 デュオの回答は、シンプルなものであった。

「軍事産業ってさ、究極的につきつめると先がないんだよね。あと戦争突入っていうのは、僕らお得意の土地転がしと致命的に相性が悪い」

 前者はともかく、後者は彼女にも理解できる。「資産の国有化、というところでしょうか」

「国家は戦時中、国民にそれを強いるからね。そうなると、外資で動いてる僕らみたいなのは格好の国賊にされちゃうわけ。そもそも国民ですらないし」

 隣の芝は青く見えるではないが――誰だって、自分のところよりも裕福な場所があれば、それをうらやむ気持ちも出てくるだろう。

 究極的な殲滅戦に至った場合――王国の現在の戦力と魔族の戦力とで考えた場合、ほぼ確実にそうなってしまうのだが、そうなると必然的に、デュオたち外部のものは、戦争で疲弊している国家内においての裕福者に他ならない。国に従属していないからこその、その富は、明日の生活すら妖しくなってしまった人々にとって毒だ。

 モラルだの道徳だの秩序だのといったものは、人間に余裕がある時にしみつくものである。

 だとするならば、切迫した人間にとってのそれらは、何ら足かせにもならない。

「王様はその状況を良しとしなかったから、クーデター後に先王のものをほとんど踏襲しなかったんだよね。色々新しい概念を持ち込んできたり、僕ら教会を外部からまねいたりしさ。そのやり方には好感が持てるし、人間個人としても良い人だから、ぼかぁ彼のこと結構好きなんだけど」

 そしてセラストにとってのデュオと違い、デュオにとってのセラストは結構好印象な人物であるらしかった。セラスト本人が聞いたら眉間に皺よせそうなことを言っているが、それはさておき。

「軍事に未来がない、とはどういうことでしょうか?」

「程度によるってことだよ。例えば百人の村があったとする。その村で、村のルールに対して違反者が出たとしよう。それを、例えば即刻処刑したとする。確殺した方が、村としてのリスクは少ないだろうからね。

 そして、どんどん村における犯罪者を殺していくわけだけど……。そうなると、だんだんと村人も疑心暗鬼に陥ってくる。他の奴が自分を嵌めようとしてるのではないか。はめられるくらいなら先に殺してしまえ。

 また、権力者は自分たちに都合の良いように色々と細部を作り変えたりするわけだけど……。さて、問題です。最後に残るのは一体何人でしょうか?」

「……」

「そういうことだよ。人が居なければ、剣も只の鉄くずさ。まぁ実際、縦も横も繋がりを薄く考えると、武力とか権力っていうのは、共同体においてこうして、自分も含めて全部『絶滅』させるだけの力を持っている、というのを理解しなきゃいけない。知名度とか、お金だってそうだよね。大半の国家元首とか政党とかはいまいち理解していないと思うんだけど、んー……、最近だとステイツはまだマシな方だったかな?」

 リリートリヒは、デュオの例えが「実在したとある村」で起こった悲劇に即した話であると理解していた。当然ここまで突き詰めた事態はおこっていなかったものの、それに近いだけの被害が、村を崩壊させかねない状態だったのは無論である。

「実際は横とか縦の繋がりも色々あるわけだから、もっと複雑怪奇な様相をていするわけだけど……、とにかく、程度の問題だってこと。

 だけどさ、感情が許さないときってあるでしょ。

 だから、僕の土地転がしだって、必ず周囲に還元する。悪感情を抱かれ……ないってことはないけど、だからこそ少しでも味方を増やそうとするわけだね。当然、嘘ついて味方増やすというような馬鹿はしないけど」

「……だから、手を引くと? 今回の行動が、全滅の引き金になりかねないと」

「戦争起きたら仕方ないけど、積極的にそれを引き起こすってのは、ちょっと意味わかんないからね。せいぜい無関係なところでやってくれって感じだよ。ぼかぁ僕で勝手に利益あげてるさ」

 ずいぶんとドライで、自己中心な意見であった。しかし、これもまた「生存」を前提に考えた時、もっともリスクリターンのバランスが良い考え方でもある。利益主義者デュオニソスをしてみれば、この結論が導き出されるのは自明の理であった。

「ま、幸い協力するなら『三割』とはいかないまでも、利益をくれるみたいだし。それに商会連の”総帥”に情報回してたのが、結構良い方向に作用しそうで嬉しい限りだよ」

「……あれ、三割? そんなにこっちの利益低かったですっけ?」

「無論、あんな暴利が通るとは思ってないさ。最終的に色々交渉して、三、四割前後に落ち着けるのが目的さ。ケンカってのは、ハッタリも武器だからね。逆にこっちが良心的だ、と思わせることも出来るかもしれないし」

「……とりあえず、ぶん殴らせて下さい」

 リリートリヒの鉄拳がデュオの顔に飛んだ。

 軽くそれによって宙を舞いながら、彼はつぶやく。


「ただまぁ――僕がそういう結論を下すってのを、一体相手のうちの()が予想していたかということについては、ちょっと謎かな?」


 そんな微妙な謎を残しながらも、とにかく、教会関係の騒動は、一つの幕を下ろした。


 しかし、第二章のイベントはまだ少し残っている。

 まさか二章に四十話以上近くつかうと思っていなかった筆者は、軽く涙目であった。

 

 

リリートリヒとエースは面識ありますが、雰囲気だいぶ違うのでまず気付かれていないというアレ


かつてのセラストの状況は、やる夫スレのタイトル風に言うなら「やらない夫がナポラを健全にしていくようです」って感じです。

・・・あれ、こっちの方が逆に読みたくなってきたぞ(オイ


次回も一週間以内をめざします。

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