二章二十話: おえっくしょい大魔王
ちょいちょい過去話のような何かを匂わせる割に、詳細を語らない不親切仕様(土下座)
「……さて、時期としてはそろそろでしょうかな?」
それは、バルドスキーのこんな一言からはじまった。
龍王城での夕食。上座から並べてエース、ディア(口元のみ鎧を外している)、エミリー、バルドスキー、マダラ、ケティに何故かリザサ。長いテーブルを囲む人々は、それぞれがそれぞれに適当な会話をしたり、食事やらに興味を向けていたのだが、豪奢な部屋全体に響くその声に、一同の注目が伯爵めいた男に集まった。
「……何のだ?」
「何といわれれば、部族長会議でございます」
訝しげなディアの反応に、バルドスキーは微笑んで返した。
エミリーやケティも「あーそんな時期かぁ」みたいな相槌を打ったが、残念ながらこの場で理解できたのはその二人のみであったようだ。マダラは「あん?」という感じで眉間に皺を寄せ、エースも「何?」という感じに眉間のあたりをつまんでいる。間違いなく場違いなリザサに至っては、周囲をきょろきょろと見回して間違いなく困惑していた。涙目である。
そんな彼女の鼻先を、己の小さいこうもりで突いたりして遊びつつ、バルドスキーは続ける。
「我ら王国の魔族が盟主、竜王が亡くなってから半年過ぎ。既に暦も残すところ三月となりました。部族長たちの努力もあってか、現時点では大きな動きもありませぬ。魔王様が締結なさったセィーブたち、軍との不干渉条約も、破られたという情報も確認されてはおりません。もっとも、それらをとりまとめるのに一役かった私の功績も大きいですがなッ!」
「自分で言うなし」
エースの突っ込みに、むしろドヤ顔をするバルドスキー。
なんとなくしまらないやり取りに、空気がだいぶ弛緩する。
能力だけではなく、こういう性格なあたりが竜王の重宝した理由かもしれない。
「それはともかくとして。しかし、エミリーさまや情報部隊から上げられてくるものを踏まえて、我々の種族間における力の高ぶりも、このままでは危険であると結論付けました。無論、内部側の問題だけではなく、外部の問題という意味でも」
半年の時間経過により、人間側、魔族側の緊張状態の高ぶりも右肩上がりである。
人間側は「新たなる勇者」による、まだ少なくも大きな偉業やら、マッドデーモン大量討伐やらで勢い付いている。ガス抜きの勢い余ってる状態だ。国王がセラストのような超・慎重派でなければ、国家転覆など考えずとっとと侵攻を開始しておかしくないような状態だった。
一方で、魔族側としても看過できない事柄が有る。竜王による停戦の意思にあえて反対し、その敵たる王国と戦う義勇軍をつのっている矢先、「新たなる勇者」による獣人の砦襲撃だ。エースたちの方でも事実の確認が難しいほど情報が隠されており、しかしその上で事実だけが一人歩きしているのだ。各氏族、各部族、それぞれに思い思いのところがあるだろう。竜王は統治者として、それほど公平であり、慕われていたということでもある。
端的に行ってしまえば、双方の陣営ともに危なっかしい状態ということである。
それでも現状はまだ、二大勢力ともに情報戦も含めて拮抗状態にあるのだ。
何か一つ、不確定要素が絡んでこなければまだ大丈夫だろう。
しかし――。
「しかし、このまま放置しておいて何かあってからでは、対応が後手に回ります。それゆえ、まもなく部族長会議が開かれることでしょう」
「どこ情報?」
「……魔王様は、一度、きちっと私の収拾してきた瓦版やら情報やらに目を通せ、でございます」
怒気を放ち始めたエミリーから目をそらしつつ、エースはバルドスキーの目を見る。
「そこで、正式に――」
「あー、と、とりあえず、食事終わった後でいい? その話、こんな場所でするようなものじゃないだろうし」
視界の端におさめていたリザサの混乱が極まって泣き出しそうになっているのを確認し、エースは一旦話を中断させることにした。そのリザサはと言えば、頭の上にコウモリがとまって、それをケティが「よーしょしょしょしょしょ……」とあやしているという状態である。エースの視線を受けたからか、ケティが余計なことを口走った。
「とかいって魔王さま、食べ終わったら『じぇっとこーすたああああ!』とか叫んでジャンプしながら自室篭ったりしません?」
「いやいや、流石にTPOは弁えるよ? これでも俺、真面目にやるときは真面目にやってるから」
どの口が言うんだ、どの口が。
セィーブとの茶番戦闘をなかったことには出来ないぞ、この主人公めが。
『……こちらで連れて行こう』
「お願いでございます」
結局肩を竦めるディアに、エミリーが頭を下げる形でこの会話は終了した。
なおその間、もっともしゃべっていなかったマダラだが、
「あー、なるほどなぁ……」
実はエースたちがこれから話されることに、なんとなく察しが着いて居たりした。
伊達に歴史学者の側面もある、錬金術師が本職ではないというところか。
もっともそんな彼のつぶやきは、バルドスキー以外に気付かれることはなかったのだが。
大人な男二人は、そろって苦笑いを浮かべた。
※ ※ ※ ※
『連れてきた』
「ご苦労様、でございます」
月夜。満月というにはいささか霞がかった夜空。
ぐったりしているエースを担いで、ディアが白の窓から屋上に上る。その屋上では、エミリーがティーとお茶請け片手に、既に待機していた。
「そういえば、何故にリザサが夕食の際に居たのでございます?」
「は、ははは……。ナードだから」
「大体把握した、でございます。……いい加減、実験をやめれば良いのに」
雇い主の夕食会に招かれても仕事熱心さを優先させる魔法剣士に、エミリーは呆れる怒るを通り越して諦観していた。今頃おそらく友人に「行かなきゃ普通首にされるだろッ!」とか叫ばれているはずだが「あの方ならば、何も言わないだろう」と無駄に自信満々に断言するイケメンの姿が幻視される。
スケープゴートにされたリザサ、いとあわれ。
もっともリザサもリザサでナードやらイニやらが「筋はいい」と口をそろえて言われえているので、ひょっとすると脳筋への道は遠くないのかもしれない。バトル馬鹿であるためか、実力やら才能やら以外の人物評価軸を持っていないので、仲良くなるのに時間もかかるまい。
もしそうなったらケティあたりからすると、自分の仕事が増えるので由々しき事態だろう。
今後の動向に注目である。
さて、そんな本編で丸まるカットされているイベントはともかく。
「あー、月が綺麗ダナー……」
『濁ってるな』
「雲がかかってるでございます」
現実逃避して空を見上げるエースに、辛辣なダブル突っ込みである。エミリーのチョップが炸裂していないのは、既にディアによって折檻済みだからだろうか。
「で、肝心のバルドスキーは?」
「ここに居ます」
「にぎゃッ!」
突如闇と共に背後から現れるバルドスキー。以前は演出失敗したが、今回は綺麗に決まったのでなかなかホラーチックな登場シーンであった。映画ならばここで首に噛み付かれてジエンドだろうが、バルドスキーはリアクションを見て胸を張った。
「……で、えっと、何だっけ?」
とりあえずエースが話を促す。
すると、彼は真顔でこう答えた。
「貴方様を――正式な王国の“魔王”として、知らしめようと考えています」
その言葉に、頭をかしげる三人。揃って四十五度、左にかたむけた。
そんな三者の反応に、バルドスキーは苦笑いを浮かべる。
「確かにここ数百年は、多くの魔王が安定した時代でしたからなぁ。認知度が低いのも仕方ないでしょうが……」
「あー、ごめん。話が見えないんだけど。手短にお願いできる?」
バルドスキーは、しばし顎鬚を指で撫でた。「始祖の魔王と最初の勇者――この場合、始祖の魔王の方が重要ですが、その物語は?」
「残念ながら、エスメラ聖書でちらっと触れられたくらいかなぁ」
「でしたら、かいつまんで。かの魔王と呼ばれる存在は、三つの条件を満たした時に初めて己をそう自称したそうです」
“始祖の魔王と最初の勇者”。
こちらもあまり本筋には関わってこない話であるが、ざっくり説明するのならば「ある日平和な世界で、魔族たち邪悪な種族を率いる“魔王”を名乗る青年が現れた。それを超人的な力と聖剣で討伐した勇者と呼ばれた少年がいた」という感じである。はじめて幼少期のエースがこれにふれた時は「オーソドックスすぎてあんまりつまらないなぁ……」という印象しか抱いていなかった。
彼はその後、あんまり面白くなさそうだったので調べていなかったのだが、もし調べようとしても、王国では難しかったりした。聖女教のエスメラ聖書よりも、勇聖教のフォル聖書の方が詳しく載っており、そちらは聖女教会から一応輸入制限が掛かっているので、知らなくて当然と言えるかもしれない。
もちろんバルドスキーはそんな事情を知らないが、それでも面倒そうなリアクションをするエースを見て、手早く話を終わらせようと考えた。
「まず一つが、破壊神様の加護を得ていること。これは、もともと破壊神様の加護を得ている我等魔族の中でも、最も秀でた加護を受けているものということになりますか。
次に、ダンジョンを作り出すこと。混沌迷宮とはもともとこの始祖の魔王が言った名前に由来するそうですが、ともかく混沌迷宮を作り出すことです。ああ、ちなみに余談ですが、竜王様が作られたダンジョンスイッチとは、この始祖の魔王がダンジョン作りの際に使っていた道具の伝承を元に設計されたものだそうです」
「へぇ……」
言われて、白黒ストライプのダンジョンスイッチを取り出すエース。ハイテク端末のような見た目、想像を絶するオーバーテクノロジーの数々から何かを察したようだったが、あえてエースは何も言わず、バルドスキーの発言を促した。
「そして三つ目こそが、今回の話に由来するところです。つまり、複数の部族をとりまとめる。多種族の上に君臨する、あるいは統治を認められること。
以上三点をふまえた、そのものをこの世界においては“魔王”と呼びます」
「「へぇ~」」
エースとエミリーは、同時に合点がいったようだった。そしてその「いかにも今はじめて知りました」みたいな反応をしたメイドテレポーターの方を見るエース。考えても見れば、詳しい説明を求めても何も言わなかった彼女である。竜王もあの性格だったのだし、案外言い忘れていたというオチではなかろうかと考えた。
言い忘れていたとかいうレベルの事柄じゃない、という突っ込みは野暮である。実際のところは、エミリーが異大陸に修行へ出向いてしまったため教えるタイミングがなかったというのが直接の原因でもあるが、そこは竜王の家の教育方針だ。筆者が口を出すのも筋違いだろう。
「でも、竜王は“魔王”って名乗らなかったよね?」
「私も以前聞いたことがあるのですが、はぐらかされました。……今思えば、なにか過去にあったのかもしれませんね」
「……ふぅん」
竜王に対して一定の理解が有るエースは、バルドスキーの一言に胡乱な返事しか返せなかった。
バルドスキーは、そんなエースに頭を深々と下げる。
「ですから、我が新たなる盟主よ――理想に、食い殺されぬよう。知は私が力を貸しましょう。住はエミリー様が。守護はそこに居るディア殿が。でもだからこそ、貴方様は竜王様のようになってはいけません」
バルドスキーには悔恨が残る。
竜王の命を助けそこない――結局、彼の臣下として助け切れなかったということだ。
統率者として力があれど、彼の思い描いた理想からは程遠く、絶望するに余りある生だった。
そして、自分が庇いきれなかった竜王の何かを、エースが引き継いだのだとしたら、エースには竜王のように絶望を背負って欲しくない。
これは、バルドスキーの抱える王佐の嗜みだ。
くしくもこれは、王国で法務大臣を務めるハボックが抱いているそれと近しいものである。
ただ、そんなことなど全く知らず、エースはバルドスキーに向かって微笑んだ。
「理想とは、追い求めるものにあらず。追い続けるものなり。少なくとも、俺はそう教わったよ」
その言葉がはぐらかしか、それとも別な何かであったか。
それは、近い未来に発覚することとなるだろう。
ただそんな二人の姿を、どこか羨ましげに見守るエミリー。
その隣で、何を考えているか分からない鎧姿のディア。
そんな彼らのもとに、後日ある紙が届くことになる。
差出人は、獣王。
そこに書かれていたのはバルドスキーの予想通り――部族長会議の通達であった。
次回、ついにあんちくしょうが登場。
プロットだとここで二章折り返しなんですが、なんか予定の倍は掛かったなぁ・・・。大体セィーブたちのせいかな(責任転嫁)
次回も一週間以内を目指します。
あと、番外編4も更新しましたです。




