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二章十九話:経済的英雄列伝事情

マダラ「遊園地って言ったら、やっぱアレだろ?」


「で、えっと、第三者的な立ち位置からして、ディアは“りゅーおーらんど”をどう見る?」

 エースのその問に、ディアはテラスから噴水広場方面を見やった。

 しばらく沈黙し、肩を竦めて答える。

『そうだな、まず――』


「「「「「「「「きゃあああああああああああッ!」」」」」」」」


『……』

 何かを言おうとしたディアは、ジェットコースターからの絶叫に出足を挫かれた。

 思わずそちらを見やるディア。「獣角(じゅうかく)の鎧」を通してみるその視界は、素の視力を数倍に跳ね上げる。それによって超高速で円を描く軌道のコースターに乗っているヒトビトの姿をきちんと確認することが出来るのだった。

『……子供が多いな』

「……まあね」

 出足を挫かれてもそのまま話し続けようとする眼前の剣士に、エースはなんとも言えない笑いを浮かべた。

『……こちらからしたら、あんな乗り物に乗りたいとも思わないのに、よく乗るな』

「んー、小さい子って、ああいうの好きだからねぇ。ディアも経験ない? ほら、猫でも煙でもないのに高いところに上りたがったり、そこから意味なくジャンプしてみたり、それで足挫いたり、その勢いでスイカ割ったり」

『最後の例えは何だ……?』

「まあまあまあ。でも、小さいからこそ慣れやすいってのは、あるんじゃないかな?」

 エースの言葉に納得できるところがあったディアは、ジェットコースターの入場まちを見た。

 親子連れも多いが、親の袖を引いてわくわくしていたり、友達どうしてきゃっきゃと待ちわびたりしている、リピーターと思わしき子供達の姿が多く見られた。声こそ距離があって聞こえはしないが、遠目で見ても、アトラクションの入場者数はそれなりに高いことが伺えた。

 大人たちのほとんどが慣れるより恐怖が先行するのに対して、子供達の多くが楽しんで乗っている。この状態を何故かと問えば、やはり「大人」と「子供」という違いが大きいかもしれない。

「体格も小さいし、学習能力とかも高いし、何より下手に先入観ないからねぇ」

 子供の利点はエースが挙げた三つだ。大人ならば大柄な体格である分、遠心力によって振り回される力も大きい。だからこそ加重が軽めにかかるならば、より安易に楽しむことが出来る。また、何度か乗って理解される「実はそんなに大したことない」という部分の理解も、大人よりはすんなり受け入れられる。

 そして最後の部分こそが重要である。極端に言えば、そう、人生経験が薄いからこそ、乗り込む際の抵抗が少ないのだ。まだこの世界における常識の形成が甘いからこそ、拡張の余地が広いともいえる。

 たいそうご満悦な笑顔でジェットコースターを眺めるエースであった。

「……って、そんな話じゃなくて」

『ああ。そうだったか。……お前の言っていた、第一段階は達成できたんじゃないか?』

 再び、二人は眼下の光景を見る。


 そこには果たして――。

 人間と魔族とが、共生する一つの形があった。


 例えば、人間のメイド服少女が、ちょいと手前で転んだフィッシュメンのちびっ子の手当てをして母親に感謝されていたり。

 例えば人間とゴブリンのちびっ子たちが、玉当てをしていたり、その母親同士が種族の違いを超越して井戸端会議していたり。

 トロールやら獣人やら人間の男達 (風体的に冒険者のようである)が、激辛フードの大食い大海めいたことを自主的に開催していたり、その周囲で歓声を上げたり、応援合戦をしていたり。

 りゅーおーくんが老若男女問わず引っ張りだこだったり。

 少なくとも、険悪なムードが流れているということはないと見てよいだろう。

「まあ、人間の冒険者とか一部の商人とかは予想外だったけどねぇ。家族連れで遊びにきても、案外馴染んでるというか、みんなルール守ってくれてるというか。下手に“りゅーおーくん”使うのも体のいい調教? というかねぇ……。あんまり人道的じゃないことしたくないからさ」

『信賞必罰か?』

「うちのメイドテレポーターみたいな一言で片付けるのは止めてもらえないかなぁ……」

『外国からも来てるのではないか?』

「まー、このランド内だけってのが残念だけどね。でも最初の一歩としてはギリギリかな……?」

『……そうかもしれないな』

 あくまでも限定的ではあるが。

 一つの形として、魔族と人間とが共存できるというのを示したことになる。

 ある一面では、お客と店員という関係で。また別の一面では、ある種の仲間同士として。

 強力なルールこそあれど、それでもなお理屈で感情を押さえつけきれない相手は、襲い掛かってしまう。それは“竜王の娘”であるエミリーがエースに追従してるといえど、彼に刃を向けたセィーブたちが物語っていた。もっとも彼らとも現在は不戦条約めいたものを締結しているので、襲い掛かってきたりはしない。結局のところ、エースが彼に「竜王に連なる者」であると認められたからこその結果ではあるが、多少のご都合主義は主人公補正である。

 と、エースがにわかにそわそわしだした。

『……どうした?』

「んー、ちょっと声聞こえる?」

 言われてディアは、エースの視線の先を見る。フリップを立ててる“りゅーおーくん”の周囲にいる子供達の会話に、ディアは意識を向けた。「獣角の鎧」の補正によって耳に届いたそれは、エースの雰囲気を納得させるものであった。

「『ドラレン』はじまるよ、ドラレン」

「いこいこ! 劇場だっけ?」

「劇場どっちだっけ?」

「あっちあっち」

 そう言いながら見当違いな方向に行こうとするのを“りゅーおーくん”がフリップをもちつつ誘導したりしたわけだ。

 中にはローブに身を包んだ老人、とうかなり怪しいのが居たりもしたが、子供達は全然気にしていない様だ。

 ああ、と、ディアは肩を竦めた。

『……あれは、メイクト氏の発案だったか』

「おっとさ……、おっちゃんのね」

『……?』

「さ、というわけで俺達も行こうか」

『……子供向けの催しなのだろう?』

「大人が見ちゃいけないって決まりはないし、それに、たぶんこの世界の中でもトップクラスに珍妙なもののはずだから、たぶん楽しめるよ。観客席はディアも初めてだろうし、一緒に行こうか!」

 不思議そうにしているディア。そんな剣士を立たせて、エースは噴水を挟んだ対角線上にある、小さいドーム状の建物を目指して手を引いた。



※   ※    ※    ※



 竜を模した怪人が子供達に襲いかかろうとすると、そこに五人の戦士たちが現れた。


『赤き炎牙――レッドファング!』

 どん!

『緑の風翼――グリーンウィング!!』

 どどんっ!

『青の氷尾――ブルーテイル!!!』

 どどどんっ!

『金の地爪――ゴールデンクロー!!!!』

 どどどどんっ!

『眩き閃光――ホワイトブレス!』

 どどどどどんっ!


 ざっ。

『我等……』


『『『『『魔神戦団――ドラレンセブンッ!』』』』』


 ちびっこたちが、その掛け声とポージング姿に歓喜の声を上げた。

 そんな様を後ろの席から堪能するエースとディア。前者は意気揚々と、後者はなんともいえない感じで。おそらく鎧の下は無表情なことだろう。実戦経験豊富なこの剣士からすれば、茶番のように繰り広げられる目の前の劇に、どういった感想を抱くことだろうか。

「いやー、どうよ?」

『……感想を求めないでくれ』

 両者の視線は、壇上に固定されている。

 今まさに、正義の力(リンチ)をもってして悪の魔人を倒そうと戦っている五人の戦士たち。異次元からきた未知の敵と戦う、これまた未知の世界から力を貰った戦士達だ。設定上は人間と魔族との混合部隊であり、実際も人間と魔族との混合部隊である。

 というか、うち三人は魔族の冒険者パーティー「オーガタンク」の三人だ。エース的に「声が良くて動ける」という理由から、三人引っ張ってきた感じである。

 残りの二人については、エース個人の知り合いではない。ただし、とあるダンジョンにてエースに命を助けられたため、その恩義に報いるため彼に追従しているのだ。まあ、恩義という名の無限大借金ではあるが。

 こと金勘定に関して、バルドスキーのプレッシャーに勝てるものは少なかった。

 さて、そんなショーが開催されているこの場である。

 王都に有る大型歌劇場 (珍しくつくりが豪華)のように広々とした円形ではなく、だからといって見世物のように小さすぎるわけでもない。観客席と舞台とが分けられる構造は、中サイズのホールといっても良いくらいだろうか。ただし色味が全体的に原色も多く、大人には目に痛いところであった。

 そんな場所で戦う五人のスーツ姿については……、あえて名言は避けよう。

 ただし、それぞれが竜のパーツを模した能力を持っているらしいことは見て取れた。

『……結構人気だな』

「まあね。企画協力にはなんとびっくり! 『王子珍道中』の作者さんが名を連ねてます!」

『どういう繋がりだ……』

「なりゆきもあるけど、駁目(まだらめ)さん経由かな。あと、あんちくしょうに前書いてもらった書状が役に立った」

 現在“りゅーおーらんど”では、“りゅーおーくん”たちマスコットのグッズ販売のほかに、彼らドラレンセブンの絵本が売られている。活版印刷技術がないので基本は写本の延長上なのだが、それでも案外綺麗にまとまったものが売られているのは、トライ&エラーの結果か、半年の間に増えた人員たちの腕によるところか。

「サイズ的にロボとかは出せないんだけど、そのかわりに“りゅーおーくん”に出張ってもらったりしてるから、そこも人気の秘訣かな?」

『……さっぱりだ』

「ま、色々言ってるけど俺も確実にそうだって言えるわけじゃないんだけどね。でもディア的に、これはどうだい?」

 少し押し黙るディア。

 エースは、そんな鎧の横顔をみつつ周囲に耳を済ませる。

「いけー! レッド!」「“りゅーおーくん”まだ? おねえちゃん」「まだよ。とりあえずブルーさんを見ておきましょ」「今日はブラック様居ないのか……」「「「ゴールド! ゴールド!」」」

 親に注意されても、結構無軌道に歓声を上げていた。

 自由な子供達ならば、まあそんなものであろう。

 ただ、その楽しさと安心感に満ちた声は、彼の頬を弛緩させるだけの力があった。

 鎧で表情こそ見えないが、それはディアも同じであるらしい。

『……まあ、悪くはないんじゃないか?』

 多少ではあったが、その声はいつもより柔らかなものであった。



個人的にこれはお約束です。ちなみにドラレンの方も、「王子珍道中」作者さんが脚本書いて居たりという設定があったり・・・。


次回も一週間以内投稿を目指したいです。

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