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二章十八話:フィードバックと脱線



 “りゅーおーらん”どの施設は、なにも親子需要のみならず。

 例えば“りゅーおーらんど”シャルパンにおいては、敷地の隅には古風な遺跡を模した塔が立っている。

 この塔では、今まで見たことの聞いたこともないモンスターが現れるという触れこみだ。

 腕のたつ冒険者、未知のモンスターと戦ってみたい戦人、あるいはそんな彼らを肴にちょっとした賭けを行ったりする人々が、この場所に集る。

 それは一般の冒険者だったり、大戦士を目指す若き勇士たちであったり、あるいは子供に振り回され疲れたお父さんが見物に来て居たりと、まあそういった具合だ。

 その中では、新手の冒険者たちがイニの管理の下、謎のモンスターに挑んでいた。

『いあ、いあ! いあ、いあ!』

「こ、このぉ、イヤーッ!」

 見るだけで正気度が削られそうな両生類的生物から放たれる触手を、殴り飛ばす半霊族(バックノック)の青年。鎧らしい鎧は装着しておらず、和風な格好をしている。輝くガントレットが、モンスターの触手を砕いた!

 全身の魔力を腕に集中させているためか、全体的に姿が透けている。その代わり両腕にはこれでもかというほどの魔力が渦巻いており、その力で、本来なら殴りつけるのが難しい触手をはじきとばすことに成功していた。

「頑張ってるなぁ、あれ」

『……酷い外見だな』

「あー、まー、一応言っておくと俺の趣味じゃないよ?」

『何故趣味でもないものを作り出した?』

「いや、普通にやったらむしろ出来ちゃうというか……」

 ちなみに察するまでもなく、ここで戦えるモンスターは“りゅーおーくん”による調整の一切なされていないダンジョンスイッチで、エースが作り出したモンスターたちだ。全体的に「配色ヤバイ」「造形イっちゃってる」「無駄に強い」という共通項がある。エミリーやエースなどといったクラスにもなれば片手間で倒すことも可能だろうが、一般人相手にはそこそこ脅威を振るうモンスターたちであった。外界に出れば間違いなく生態系を駆逐するレベルのものだろうが、幸いか不幸かダンジョンモンスターに「支配からの卒業」という行為は不可能であった。

 そんな光景を眼下におさめつつ、エースは上の階で唸っているイニに声をかけた。

「や、大丈夫?」

「あ、シハイニンさん……。なんでこのタイミングで……」

 頭をかかえて唸っているイニは、多少疲れが出ているようだ。デスクワーク中でも肌身離さず持っている曲刀であるが、その手入れも中途半端で投げ出されていた。

 おや、と思ってエースは尋ねる。

「含みがある言い方だね。何かあった?」

 エースの言葉に、端的に説明するイニ。

 まとめるとそれは、何人かの保護者からの苦情であった。

「前回の苦情は対処しましたけど……。モンスターがいるってのが危ないって言うのでしたね」

「あー、それは難しいなぁ……」

 この“りゅーおーらんど”の主な顧客層が家族連れであることを前提に考えると、このサイケデリックタワーの顧客層は、そこから溢れた層となる。以前入った苦情としては、そういったところに来た荒くれが問題を起したり、という事柄だった。それに対する対処はシステム面(入場禁止)や“りゅーおーくん”による制裁、監視体制の強化およびバルドスキーによる全体注意などで結構改善されたのだが、今回はまた違ったタイプの苦情である。

「ぶっちゃけ、塔の中に子供が紛れ込まないか心配っていう話ですねぇ」

 つまるところ、子供達に無用なトラウマを植えつけかねないだろうという、大人の意見だった。

 こればっかりはどうしようもなく、エースも唸る。

 もとよりお父さん方が、暇つぶしで子供を同伴した場合とかでも、精神に大打撃を受けかねないのがあるのだ。人生トラウマも多いエースとしては、色々考えてしかるべきだ。

「んー、でも施設廃除はちょっとまずいしなぁ……」

「いっそのこと、何か区切るのがあればいいのかもしれませんね」

「区切るというと?」

「まだ見た目がマシな……って、八割以上駄目ですけど、それでも大丈夫なのと駄目なのにわけて、戦わせる場所を分けたりとか」

「建築面はともかく、予算がどうなるかだなぁ……。一応、バルドスキーの方にも打診しておくよ」

 こういう対応が早いのが、エースの良い面であるといえた。

 そう話していると、ディアが口を開く。『……そういえば、結晶の話は?』

「あ、そうだった。後でケティかエミリーかが、『再生結晶』の試作品持って来るだろうから、ナードと一緒に頑張って」

「りょ、了解です」

 下の施設を除きながら、イニは呟く。

「……それで人員少しは減らせますかねぇ」

「けどその前に、地獄の斬り捨て御免が多発するだろうから、ほとほどにするよう頑張って」

「少しは現実から目を逸らせてくだせぇ……」

「現実とは見るものに有らず。勝手に襲い掛かってくるものなり。降りかかる火の粉を払うのも水をかけるのも自由だとは思うけど、放置しておいて自分に引火させちゃうのはまずいと思うよー」

「誰の言葉ですかい、それ……」

 微妙に適当なもののいい様であるにもかかわらず、なんだかそれっぽく聞こえるエースの言葉だ。

 しかも、微妙に的を射ている部分もあるからより性質が悪かった。



※   ※    ※    ※



『そういえば、リリアンの姿が見えないけど?』

『一昨日あたりに里帰りですよ。なんか、呼び出しあったとかで』

『へぇ……。ふぅん』

 ということは、つまりケティが報告書を持ってくるまでの間に最低二日の空白期間が存在したわけだ。その間のことに、客観的かつ論理的な納得をもたらす説得を出来なければ、彼女がメイドテレポーターからかされるペナルティは……。軽く合掌するエースであった。

「ま、でも仲はいいから大丈夫かな?」

 しかし、なんだかんだ言ってケティも仕事をやめることはない。

 当初は「竜王の娘」というネームバリューに負けたということもあったろうが、基本的にエースの雇用方針は「来るもの拒まず去るもの追わず」「そのかわり、要望があったら出来る限り応対する」とうものである。なんだかんだ忙しいと言っても給料払うし休日とれるし、サボっていると言ってもエースたちが提示したノルマの範囲でミスを犯したことはない。サビ残もなければパワハラも少なく(何かあったら言い返しても、殴り合いにならなければ大丈夫な職場環境だった)、圧倒的にセクハラとかもない。

 意外とそこのところ、彼女としても現状は悪くないのかもしれなかった。

「という話なんだけど、どう思う?」

「……まあ、本人同士がいいなら、悪くないのではないか?」

 そう話しているエースとディアは、カフェテリアにてお茶をしていた。“りゅーおーくん”の描かれたカップに入ってる液体は炙りポーション(品質粗悪)である。味はコーヒーを少しすっぱくしたような感じであり、マダラあたりに非常に好評な品であった。エースは砂糖を溶かさないと飲めないのだが、ディアは特に何も言わず飲んでいた。鎧の口元だけを外しているディア。線は細く、顎元はほっそりとしていた。

「いや、まあ確かにケティは理由もあるし、それでいいかもしれないんだけどさ。でもそうなるとねぇ……」

『まあ、言いたことは分かる』

 エースが言わんとしているのは、エミリーのことだ。

「エミリーが俺に従うのって、本当にあの娘にとって悪くない環境なのかなぁと」

 あの娘、とは言っても彼女の方がエースより百か二百か年上なのは、この際スルーしておく。

 エミリーはかつて言った。「自分は竜王の願いに連なる者」であると。そこには自己が存在せず、ただ使命を遂行するための従者たる肉体があるのみであると。

 だが、そこで思考停止するのが、我等が主人公ではない。

「なかなか本心話さないからわからないけど、やっぱり少しでも楽しい職場の方がいいじゃん?」

 労働環境の改善、というよりも、彼女が内側にかかえる問題の解消ができればということであるらしかった。そして主人公補正でも働いているのか、多かれ少なかれそのエースの予想は外れていない。一見余計なイベントに見えるかもしれないが、逆に溜め込みすぎるとパンクしてまた別な面倒ごとを引き起こしかねないので、できるかぎり早めに叩き折っておくべきフラグであるのだ。

 こういうフラグクサーチっぷりは、安定している主人公である。

 ディアはマスクを閉じて、エースに意見をする。

『それを考えるのは、君の仕事だ。私は、あくまで護衛だ』

「んー、まぁそうなんだけどねぇ……。カノンなら、本人に聞けって言いそうなんだけどなぁ」

『……なら、聞けば良いじゃないか』

「それで聞いて、恨みつらみ延々と語られたらちょっと、心折れる自信が有る」

『それは自信と言うのか……?』

「こちらの力及ばず、ではヘルプしようもないじゃん?」

『……それを考えるのは、君だけではない気もするが』

 そして変なところで気を使ってるというか、ヘタレるあたりが我等が主人公であった。

 


りゅーおーらんど散歩はあと一話で終わりなので、もうしばし・・・。


次回は一週間以内投稿をできればよいとおもいます。

番外編製作中につき、ちょっと更新遅れ気味ですがご了承を・・・。ちなみにその4では、ケティが火を噴きます。ひゃっはー。

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