奪われた命
翌朝。三人は宇宙航空ステーションの中にあるカフェで朝食をとっていた。そして、会話は昨日の話になる。
「にしても、人造生命体を造ったのはどこの誰なんだ?」
フランが疑問をぶつける。
「おそらく…バージルーズの仕業だと思うわ。」
レイドも頷く。
「フランはバージルーズについて何か知らないか?」
「バージルーズか…。確かに良い噂は聞かないが、何をしているかは全く知らん。恐らく、ジェルラードでさえ、何も掴めてないだろうな。」
フランはお手上げ、というポーズする。それにレイドも肩を落とした。
「だよな。その辺の一般人はその存在すら知らないぐらいだ。どこにいるのかも解らない。」
「本部かどうかは知らないけど、バージルーズのいる惑星なら知ってるわ。」
「本当か!?」
シリアの意外な言葉に、フランの声も大きくなる。レイドも今まで気になっていた事を尋ねる。
「シリア。そろそろ教えてくれないかな。バージルーズの何を知っているのか、なぜバージルーズを追っているのかを…。」
しばらく俯いていたシリアだったが、そうね。と言って話し始める。
「私の父がバージルーズの研究員だったのよ。」
「だった…?」
「ええ。私は小さい時から母がいなくて、18まで父に育てられたわ。忙しい仕事みたいだったけど、父は必ず帰ってきてくれた。私はそれだけで嬉しかった。…でも、突然父が私に言った。[バージルーズは最低の組織だった。父さんは明日で仕事を辞めようと思う。帰ってきたら別の場所で暮らそう]って。……次の日から父は帰って来なかったわ。私は絶対バージルーズに殺されたと直感できた。」
「それで…、その場所は?」
「私がその時住んでいたのは、水の惑星、グザリス。」
「グザリスか…。確かにグザリスは9割が海の平和な星だ。そんなところにバージルーズがいるとは誰も思わない。」
フランが腕組みをして言った。
「ええ。でも私もそれなりに調べたけどグザリスのどこに有るのかは分からなかった。」
「それで、一緒に調べて、尚且つ奴らを潰してくれる仲間を探していた、ということか。」
「ごめんなさい。最初に言っとけばよかったわね。」
「いや、いいさ。でもこれで決まったな。次の目的地はグザリスだ。」
「俺も手伝おう!乗りかかった船だ。最後まで付き合おう!」
フランの言葉に、レイドとシリアは笑顔で頷く。
グザリスへ行くために受付のあるフロアーまで来たレイド達であったが、何やら騒々しい雰囲気に包まれていた。
「なんかあったのか?」
「受付で聞いてみましょう。」
三人は受付へ行き、何が起こっているのかを聞いた。
「只今、ジェルラード戦艦が戦闘中です。危険ですので一般の宇宙船は運航を停止しています。」
「ジェルラードが戦闘中だって!?」
フランが驚きの声を上げた。ジェルラード部隊ができたのは20年前。その間に一度もこんな事は起こらなかった。
「君らは、あの時の!」
突然後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには最初に襲われた宇宙船の艦長、アルバートが立っていた。
「たしか…アルバートさん、でしたよね。もしかして襲われているジェルラードの戦艦には…」
「ああそうだ。メテオカノンを積んでいる。今、ここの警備部隊と対策を練っているんだ!君達も来てくれないか?」
「勿論です。」
レイド達は別室へ移動し、警備部隊に加わり、モニターに映る戦闘を見ながら今の現状を聞いた。
「今ジェルラード戦艦、グリンピアが戦闘している場所は、ここエルリールから少し離れたこの位置だ。」
警備部隊員がモニターに、6つの惑星の場所を示したマップを映し出し指を指した。
「その位置だと、エルリールのすぐ近くね。ジェルラードの援護部隊が来れるのはどのくらい後なの?」
「普通に来れば3時間ちょっと…。次元ワープを限界まで使い続けても2時間後でしょう。」
「それじゃあ手遅れになる!」
「フランの言う通りだ。今は何機に攻撃を受けているんですか?」
レイドがアルバートに聞く。
「攻撃をしているのは現在3機。もう1機いるんだが、それは後を付けているだけだ。」
「転送目的、ってことね。」
「そうだろうな。現に何人かが入り込んでいる。攻撃をしている3機は、ジェルラード戦艦にしてみれば脅威ではない。しかし、入り込んだ奴らが強敵らしい。それに苦戦しているということだ。」
「なら話は簡単だ!俺達が行けばいい。」
「!!」
フランの言葉に、警備部隊の人間も驚く。
「ジェルラード部隊の人間でさえ苦戦しているんだ!危険過ぎる!」
「いや、それしかない。奴らは多分バージルーズの連中だ。俺達はそいつらに用があるから丁度良い。」
「アルバートさん。宇宙船を出して貰えるかしら?転送出来るギリギリの距離まででいいから。」
レイドとシリアも行く気満々であった為、警備部隊は何も言えなかった。
「……分かった。準備はいいか?」
三人は頷く。
「こっちだ!来てくれ。」
レイド、シリア、フラン、アルバートは別室を飛び出し、宇宙船へ乗り込んだ。
「もし奴らにメテオカノンを盗られたら厄介よ。」
転送装置のある場所へ向かっている時に、シリアが口を開いた。
「しかも入り込んでいるのは人造生命体かもしれない。十分注意しないとな。」
三人が転送部屋へ辿り着いた時に、アルバートから放送が入る。
《間も無く転送出来る。準備をしてくれ!》
三人はタイムゲートと同じ機械の上に乗ると、光に包まれ、ジェルラード戦艦、グリンピアへと移った。
「ここがグリンピアか。相当厄介だな。」
グリンピアは一般の宇宙船より複雑に出来ている為、簡単に場所を把握出来ないでいた。
「俺はコントロールルームの方へ行ってみる!」
「私はメテオカノンがある地下倉庫へ行くわ。」
「俺は適当に散策してみる。まだどこかで戦っているだろうからな!」
三人は武器を持ち、それぞれの場所へ散って行った。
レイドが船の先方にあるコントロールルームの方向へ走っていると、横に並んでいる部屋の一つから、人の声が聞こえてくる。その扉を開けると、二人の男が五体の敵と戦っていた。見たところ人造生命体の雑魚、といったとこだろうが、二人の男は苦戦していたので、レイドも参加し、その状況を打破した。した。
「助かったよ。君は…?」
「俺はレイド。二人の仲間と共に助けに来たんだが、状況はどうなっているんだ?」
「俺達はバージルーズ第五部隊の一員なんだが…ほぼ壊滅状態だ。詳しいことは船長から話を聞いたほうがいいだろう。」
「そうするよ。お前達はどうするんだ?」
「俺達は怪我人の救助に向かう。」
「そうか。用心しろよ。」
レイドは二人と別れ、コントロールルームへ走る。それらしき扉が目に入ったのでレイドは開けてみる。その瞬間、2つの槍で道を塞がれた。
「何者だ!?」
「オイオイ、俺はレイド。ハンターだ。あんた達の敵じゃない。」
レイドは槍を持った二人の男を宥める。そこへ一人の男が近づく。服装からしてグリンピアの船長だろう。
「二人とも、この男は大丈夫だ。」
二人はレイドから槍を外す。
「すまんかったなレイド君。敵の中に一人、人間と区別の付かん奴がいてな。」
「いえ、あなたが船長ですよね?」
「そうだ。私がこのグリンピアの船長、マッドだ。」
マッドはレイドを奥へと迎えた。
「マッドさん。戦闘機はどうなってますか?」
「攻撃していたものは全て撃ち落とした。しかし、後ろを付いてきている戦艦はこのグリンピアと同等の力を持っている。撃ち落とすことが難しいのだが、向こうも攻撃をしてこない。一体どういう事か……。」
「恐らく奴らは転送の為にいるだけだ。今の状況を考えれば、メテオカノンは既に奪われている可能性が高いな。」
「恐らくな……。第五部隊の話では、さっき言った人のような奴が地下倉庫から出てくるのを見たらしいからな。」
「そいつは人じゃないんですか?」
「正確には分からんが、人としての感情や雰囲気が全く無かったと言っていた。そいつは今治療中だがかなり脅えて逃げ帰ってきた。」
「まさか…人造生命体か?」
「そうだとしたら、かなりの危機だ。それほど完璧な奴を造れるんだからな。」
二人の間に少しの沈黙が訪れた。
「……嫌な予感がするな。マッドさん。俺は少し船内を捜索してみます。」
「頼む。気をつけてな!」
レイドはコントロールルームを出ると、元来た道を戻り、船内を調べていった。そこへシリアが合流してきた。
「シリア!メテオカノンはどうだった?」
レイドの問い掛けに、シリアは首を振る。
「既に無かったわ。代わりに死体はあったけどね。」
「やはりな。シリア。この中には完璧な人造生命体がいるかもしれない。」
「完璧な…!?」
「死体は恐らくそいつの仕業だろう。急いでフランと合流しよう。」
「そうね。」
二人はフランを捜して、船内を走り回った。そこへ、船内の中央から男の悲鳴が聞こえた。
「!?…行ってみよう。」
船内の中央部分で二人の男が倒れていた。
「こいつらは、あの時の二人か。」
「もう死んでるわね。」
シリアが脈を調べるが、既に無い。
「ぐぁぁぁ!!」
再び男の悲鳴が聞こえた。今度は二人も知っている声だった。
「あの声は、フラン!?」
「シリア、行くぞ!」
二人はフランの声のした方へ走った。
少し広いガラスの張ってある休憩場所へ行くと、フランが血を流し倒れている。その横には血の付いた剣を持つ無表情の人物が立っていた。シリアは透かさず銃を放つが、簡単に横へ移動され避けられる。その人物がフランから離れたのを見ると、二人はフランへ近づく。
「フラン!しっかりしろ!」
「レイド…。奴には……気をつけろ………。」
そこでフランは力尽きた。レイドは唇を噛むと、その人物に顔を向けた。
「お前は何者だ?」
「私はラーグだ。」
表情を変えずに、ただその質問に答えた。
「何故フランを殺したの?」
「その男がいたからだ。それに、お前達に力の差を見せつけろと命令をされている。」
「見せて貰おうか!」
レイドは剣を向ける。
「既に帰還の命令が出ている。」
ラーグの身体が光に包まれる。
「逃がさないわよ!」
シリアが銃を撃つが、それも僅かに届かず消えていった。
「クソッ!」
レイドが壁を叩く。
「コントロールルームへ戻りましょう。」
「……ああ。」
二人はコントロールルームへ戻り、メテオカノンが奪われた事、ラーグにフランを殺された事をマッドに話した。
「やはり、人造生命体だったか…。」
「多分な。じゃなきゃフランが易々と殺られる筈ない。」
苦々しくレイドが答える。
「船長!ジェルラードの援軍が到着しました。」
オペレーターの一人がそう言うと、武器を持って部屋の中へ入ってきた。
「マッド船長、大丈夫ですか?」
「ああ。第五部隊はほぼ全滅だがな。」
「そうですか…。」
マッドと話していた男は、レイドとシリアの方を向いた。
「初めまして。私はジェルラード第三部隊長のスティーブと言います。あなた方の事は、アルバートさんから聞いています。」
「俺はレイドだ。」
「シリアよ。」
「もう一人いると聞いていたんですが…?」
レイドとシリアは顔を伏せる。
「死んだよ。」
「……そうですか。
レイドさんにシリアさん。これからジェルラードへ来てもらえませんか?五聖官の方々がお二人にバージルーズについて話を聞きたいらしいです。」
「そうね。この先の事を考えると、五聖官に会っておいた方がいいわ。」
「メテオカノンも奪われた訳だからな。」
二人は、思わぬ出来事もあり、目的地をジェルラードへと変えた。




