襲われた宇宙船
エルリールへ行くため、宇宙船へ乗り込んだレイド、シリア、フラン。
乗客は思ったより少なく、15人程度だろうか。その為、巨大な宇宙船の内部はガラガラだった。三人は外が見えるように作られた大きなガラス張りの休憩フロアへ来ていた。
『皆さん、私がこの宇宙船の艦長、アルバートです。間もなく、エルリールへ向けて離陸します。』
船内放送が終わると、すぐに宇宙船は動き出した。さっきまで何もなかった景色も、一瞬にして銀河の風景へと変わっていた。
「何度見ても、幻想的な場所ね。」
ガラス越しに見る宇宙の様子に、うっとりしながらシリアが呟いた。
「意外とロマンチストなんだな。」
「悪かったわね。」
少し怒ったようなシリアの表情を見て、レイドが更に付け加える。
「いや、普段滅多に見ることは出来ないだろうなぁ、と思ってな。」
「でも、確かにこの風景は何度見ても飽きることはない。」
フランもそう言うが、レイドはどうでもいいかのように大あくびをした。
「着くまで2時間だよな。少し寝るわ。」
そう言ってレイドは客室へ消えて行った。
「ハァ、相変わらずだな…、レイドは。」
「本当にマイペースなのね。」
「ここぞって時は頼りになるんだがな…。」
「そこで頼りにならなかったら、レイドの取り柄が無くなるわよ。」
「ハッハッハッ!その通りだな!」
乗客数十人を乗せた宇宙船は、順調にエルリールへ近付いて行った。
だが、到着まであと30分と言う時に、大きな揺れによってレイドは目を覚ました。
「……なんだ?この揺れは?」
「レイド!大変よ!」
口調は慌ただしいが、態度は冷静なシリアが部屋に入って来た。
「何かあったのか?」
「モンスターが2体入り込んだわ。近くに謎の戦艦も後を着けてるって。」
「モンスター…?参ったね…こりゃあ。フランは?」
あくびをしながらベッドから降りるレイド。
「今モンスターと戦ってるわ。乗客も非難させたし、船長にも戦艦が攻撃をしてきたら次元ワープで逃げるように言っといたから、後はモンスターだけよ。レイドもさっさと来てよ!」
それだけ一気に言うと、シリアは部屋を去っていった。
「……あいつ、リーダーの素質あるなぁ。」
シリアの迅速な判断に感心した後、ゆっくりと部屋を出ていった。
休憩フロアへ行くと、シリアとフランがモンスターと戦っていた。
「レイド!お前も何とかしろ!!」
モンスターに苦戦しながらもフランが叫ぶ。そのモンスターをしばらく見ていたレイドは、
「なんとかって言われてもなぁ…。俺、武器持ってないし。ここは二人で何とかしてくれ。俺は原因を探るわ。」
そう言って、奥の通路へ歩いて行った。
「フラン!レイドはこのモンスターが何なのか気付いてるの?」
「ああ、恐らくな!あいつの見る目はかなりのモノだ。戦わなくても気付いただろう!」
「……やっぱり、頼りになるわね。」
「だから言ったろ。役に立つって!」
二人はレイドを信じて戦い続けた。
一方、レイドは1つ1つ客室を覗いていた。その行動に慌てた様子は無く、丁寧に調べていった。奥の部屋の扉を開けたとき、レイドの動きが止まった。そして、静かに中へ入る。
「こんな時にモニターを見てお勉強かな?」
レイドの声に驚き、急いで振り返る一人の少年。まだ15歳前後だろうか。
少年の手元に映し出されるモニターには、シリアとフランが懸命に戦っている映像が流れている。
「へぇ、お兄さん、二人の仲間だよね。いいの?このままにしといて!」
「だから君の元に来たんだよ。あのモンスター、仮想物体だよね!どこで手に入れたのかな?」
「お兄さんには関係ないよ。それより、なんでわかったの?」
少年の顔は、真剣な表情に変わっていた。
「簡単な事だよ。あらかじめ宇宙船の内部にモンスターを入れておくことは実質不可能。それに、あの二人があの程度のモンスターに苦戦するはずがない。実体ならね。となるとあれは幻影しか有り得ない。仮想物体を出すにはそれなりの近距離じゃないと無理。そして、転送機械もね。あの戦艦は君の仲間達か…。」
笑顔で話すレイドに、少年の顔が歪む。
「全部正解だよ!だけどね、僕はあまりなめられるのは好きじゃない!!」
その言葉と同時に、少年はナイフを投げつける。しかし、レイドも的確に飛んでくるナイフを顔の前で掴み取る。
「いい腕だな。だけど、俺もなめられるのは好きじゃない。」
レイドは、ナイフを投げ返す。そのナイフは、少年の手に握られていた小型の機械に命中し、床に転がった。
「それが幻影装置だよね。これでモンスターはもう消えたな。」
「……流石だね。」
少年は、別の機械を手に持つと、光に包まれ、その場から消えていった。
「転送…か。」
レイドは部屋を出ると、二人のいるフロアへと戻った。
「それで?あの仮想物体を出していたのは誰だったの?」
シリアは戻ってきたばかりのレイドに尋ねた。
「何者かはわからない。モンスターを操っていたのは、15歳前後の少年だった。最後は転送で逃げられた。」
「簡易転送となると範囲内が限られる。後を付けてきていた戦艦の仲間だな。」
フランがレイドの言葉を聞き、自分なりに答えを出した。それにレイドも頷く。
「だろうな。問題はなぜ一般の宇宙船を襲う必要があったかだ。」
そこへ、タイミングよく、船長のアルバートが向かってきた。
「謎の戦艦は逃げて行きました!乗客も全員無事です!あなた方のおかげです。」
アルバートはそう言って、丁寧に頭を下げた。
「アルバートさん。この宇宙船が襲われた理由について、なにか心当たりはありませんか?」
レイドが尋ねる。アルバートは少し間を取り、口を開いた。
「これは極秘事項なんだが…、この宇宙船を守ってくれた君達なら大丈夫だろう。
実は、この宇宙船はエルリールに行った後、ジェルラードへ向かう予定だったんだ。」
「この一般専用の宇宙船が、なぜジェルラードへ行くの?」
普通、一般の宇宙船はジェルラードに行く事はない。ジェルラードには観光名所なんて所は無いため、行き来するのは部隊の船艦だけである。
「この宇宙船には、テトランスで開発された最強戦闘機砲、メテオカノンを積んでいる。テトランスでは大量生産が難しかった為、完成品と製造技術データをジェルラードへ持っていくつもりだった。」
「なる程…。つまり、ジェルラード戦艦で行くと、明らかに目立つから、カモフラージュとしてこの宇宙船で運んでいたのね。」
シリアは、納得したようにアルバートを見る。アルバートもそれに頷く。
「だが、これはテトランスの一部とジェルラードの幹部しか知らない事だ。なぜバレたのかが解らない!」
「……どっちかに裏切り者がいるんじゃないか?」
不意に言ったレイドの言葉は確実に的を得ていた。4人の間には、少しばかり静寂が訪れる。
『船長、間もなくエルリールです。コントロールルームへお越し下さい。』
船内放送が流れ、アルバートが顔を上げる。
「なにはともあれ、君達のお陰で無事にエルリールへ着くことが出来た。」
コントロールルームへ向かおうとするアルバートにシリアが声をかける。
「それよりアルバートさん。エルリールからはジェルラード戦艦に来てもらった方がいいわ。情報が漏れているなら、また襲われないとも限らないから。」
「ああ。そうしよう!君達の事もジェルラード部隊に言っとくよ。」
そう言って、アルバートはその場を去っていった。
レイドは少し寛ぐ為に、休憩用の椅子に腰掛けた。
「にしても、厄介な事に巻き込まれたな。」
レイドはそうボヤいた。
「あら!厄介事は嫌いじゃないんでしょ?」
シリアもレイドの隣に座る。
「撤回するよ…。」
複雑な表情に変わるレイド。それを見ていたフランは声を上げ笑う。
「なんだか、二人の相性は良さそうだな!これからも上手くやって行けそうだな!」
「何、フラン?その意味ありげな発言は?」
「俺とシリアが付き合うって事じゃないか?」
人事のように笑顔で言うレイドに対し、シリアは表情を変えることはなかった。
「そんなこと…有り得ると思う?」
「さあ…どうかな。」
そんな会話をしつつ、宇宙船はゆっくりとエルリールに着陸し始めた。




