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銀河戦国記ノヴァルナ 最終章:ゆめ幻の如くなり  作者: 潮崎 晶
第1話:銀河無双のポジトロンランス
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#04-01-16

 

 その後、ターダル達はティガカーツだけを、イェルサスのもとに残して去った。イェルサスの方から、少しティガカーツと話がしたいと希望したからだ。


 戦艦『マウラー』の半球状の展望室に、ぽつねんと立つイェルサスとティガカーツ。前方の桜林のようなガス星雲とはまだかなりの距離があって、ターダル達とひと悶着あった先程と大きさは変わらない。イェルサスのやや斜め後ろでティガカーツも、ガス星雲を見上げた。


 話がしたいと言いながらイェルサスは黙ったままで、二人の間にしばらく気まずい時間が続く。些か痺れを切らしたティガカーツは、指先で自分の頭髪を掻き撫でると、イェルサスの背中に声を掛けた。


「あのさ、わかったでしょ?…僕は、若殿様の役には立てない奴だって」


 これを聞いて、意外そうな顔で振り返ったのはイェルサスだ。ティガカーツは、さらに訴える。


「シズハルダに着いたら、そのまま僕をヴァルネーダに、送り返してくれたらいいから」


 ティガカーツの言葉を聞いたイェルサスは、戸惑った表情になって問うた。


「じ…じゃあきみは、自分がヴァルネーダに帰りたいと考えたから、僕にあんな事を言ったの?」


 あんな事とは主君のイェルサスに面と向かって、“パイロットの才能はゼロだから諦めろ”と告げたことである。


「違うよ。あれは本当の事を言った」と、真顔のティガカーツ。


 それはそれで…と苦笑いのイェルサス。ただパイロットの才能については、自分でも向いていない事を理解していた。「きみの言う通りだよ、ティガカーツ。僕には才能は無い」と応じると、前方に向き直って二、三歩進んで言葉を続ける。


「ただ…もしかしたら僕も、あの人のようになれるかも知れない、と思ったんだ」


「あの人?」


 ティガカーツの問いに、イェルサスはほんの数日前に別れた相手の事を、どこかもう懐かしそうな顔をして答える。


「その人は、自分で何でも出来る人なんだ。僕と二つしか歳は違わないのに。誰にも理解されなくても、批判されても、全部を笑い飛ばして、ひたすら前を向いて歩いて…いや駆けてゆく。僕には血縁の兄弟はいないけど、兄上のような人だった」


 そこで再びティガカーツに振り向いたイェルサスは、ニコリと笑顔を見せ、ティガカーツに告げた。


「そしてティガカーツ。きみは根っこの部分でその人に似ていると、僕は思っている。初めて逢ったとき僕に、ぶっきらぼうに声を掛けて来た時から…ずっとね。だからイマーガラ家に行く仲間に、君を加えたんだ―――」




 つごう四十三機目の獲物となる、騎兵団仕様『シラヌイ』を仕留めたところで、ティガカーツの思考は過去の記憶の世界から、今現在の戦場へと戻って来た。別の事を考えていても、戦闘に支障をきたさない辺りは流石だろう。全周囲モニターの後方で爆発する、敵機の閃光をそのままに、上下左右に視線を遣る。敵の来襲は途切れたようで、サイバーリンクにも反応は無い。


“だけど…違うよね”


 ティガカーツはそう自分に問い掛ける。敵の反応が消えたのは、こちらに恐れをなして撤退したのではなく、戦力の逐次投入となっていた状況の立て直しのため、一旦後退しただけに違いない。すぐに多数の敵機が纏まって、一斉に襲い掛かって来るだろう。通信回線を開いたティガカーツは、形式上自分の指揮下にあるBSI第二部隊に、撤収命令に従って今のうちに、母艦部隊の第8艦隊へ向かうように命じた。


「“ジェリーフィッシュ第二部隊”のみんな。敵は引いてる。今のうちに第8艦隊へ向かおう。ここで死ぬ必要なんて、全く無いんだからね!」


 そう言いながらもティガカーツ自身は、密かに覚悟を決めていた。敵BSI部隊の狙いが、自分一人に切り替わったのを、感じ取っていたからである。

 するとそこに二機の僚機が、背後から『カヅノーVC』に近付いて来た。どちらも親衛隊仕様『リュウビRC』だ。乗っているのはいずれも、ティガカーツにとって先輩パイロットである。「おい、ホーンダート」と、片方の『リュウビRC』が呼び掛けて来る。


「なんですか?」


 敵の再攻勢まであまり時間は無いはずで、ティガカーツにしては珍しく、真剣な口調である。これに対し、もう片方の『リュウビRC』の先輩パイロットが、「これが要るだろう…使え」と返答し、二機がそれぞれ両手に持っているものを、掲げて示した。


「え? これって…」


 ティガカーツが眼にしたものは、『リュウビRC』の一機が両手に一本ずつ持った、対消滅反応炉用のエネルギーシリンダー。そしてもう一機が両手で抱えた、超電磁ライフルの弾倉の小山である。二人の先輩パイロットはそれぞれ、真顔でティガカーツに告げた。


「おまえの考えは分かっている。自分だけ、ここに残るつもりだろう?」


「早くエネルギーシリンダーのロックを外せ。今ここで取り換えてやる!」


 ティガカーツと同じ隊のパイロット達も戦いながら、敵BSI部隊の狙いがティガカーツを討ち取る事へ、切り替わっているのに気付いており、同時に『カヅノーVC』のエネルギーが、尽きかけている事も知っていた。そこでこの二人は同じ隊の中で、エネルギーシリンダーと弾倉にまだ余裕がある者から、掻き集めて来てくれたのである。





▶#17につづく

 

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