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世界は誰の夢か  作者: 光幽 擬名
第一部 第三章 理解は救いにならない
115/122

答え:無知の知は踏んでいる

大まかに進めながら細かいことで追加していったりと

後からあれもこれもとなる事もありそうで

実際そんな事もないかもしれない。

そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので

あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。

体にあった小説をお選び下さい。

×××・××××


それが、あの男の名前だった。

今では誰にも認知されず、記録にも残らない名。


基本世界に生まれ、基本世界で普通に生きていた人間のはずだった。

出会ったのは確か昭和初期、第二次世界大戦前。


同時期、魔法世界でも紛争が続いていて、最初の交渉に失敗して生まれ変わった私は、まだ幼かった。

貧困の中で生き延び、魔法世界へ行く機をうかがっていた頃、その男は現れた。


いたって普通。

特に目立った容姿でもなかったが、笑顔の絶えない男だった。

男は話すのが上手く、周りを明るくさせていた。


その後も、魔法世界を行き来する合間に、時々その男は現れた。

あの男は、私にとって何だったのだろうか。


家族でもない。

主でもない。

まして同族でもない。


だが、あの頃の私が“ただ生き延びる”以上の形を持つきっかけをくれたのは、多分あの男だった。

特別だったのかと聞かれれば、分からない。

だが、今もこうして思い出す時点で、その他大勢ではなかったのだろう。

あの男が付けた名前を、未だに名乗っている私は何なのだろうか。


『どうでしょうか?』


ミーティングの話に意識を戻す。

どこか気になってしまっている。

二度と魂ですら、巡り合うことのなくなった人間。


死は受け入れてきた。

生まれ変わりも、喪失も、そういうものだと思っていた。


だが、“どこにもいない”は、少し違う。


こういうことは、和や日向達に聞けば、また違う意見が出るかもしれないが、どこか話しづらい気がしている。

それに話したところで何かに繋がる情報でもない。

私がただ気になっているだけ。

止めておこう。


私個人の感情だけなら、放置しても構わない。

だが、あれが意図的な選別なら話は別。


ブラッド・オルティースの意図は分からないが、フォーラスの方向性は何となく見えてきた。

だが、三人目の消失がただの事故ではなく、何らかの意図を持った選別だったのなら、

フォーラス側もその価値を理解して動いている可能性はある。


次男ブライアンや長女シャロンには別の目的があるかもしれない。

だが、少なくとも家としては、アディール・クラーレンの意向に沿いながら、

そこから切り離された独立した移動経路を探していると見ていいだろう。


クラーレンに依存したままでは、

実証も、

回収も、

逃走も、

主導権を握れない。


だからこそ、疑似通路の解析と自前化は優先度が高い。


二番目のアディール・クラーレンになる可能性はあるが、こちら側の優先順位は、あくまでアリス・フォーラスと山本梓。

何かの機会に、魔法使いとして確保できればそれが一番いいが、こちらから能動的に捕まえに行くには今の状況ではリスクが大きい。

そして、向こうがwalkerの通路に関する情報を得ようと動くなら、いずれ勝手に現れるだろう。


感情が揺さぶられている感覚がある。


観察対象として扱われることには慣れている。

今さら、それ自体に揺さぶられるつもりはない。


今さら・・・


とにかく今の問題は、山本梓の魂の場所。

どちらかがそのまま持っているのかもしれないし、アリス・フォーラスの肉体の様にどこかに保管しているのかもしれない。

すでにあっちがそれを得ている今、アリス・フォーラスは確実に保護。

ミランダが迎え入れてくれるのなら、魔法世界で保護する形でもいい。

その保護先については、本人に確認するべきだろう。


死神からの情報はない。

あれから一週間経つ。

そろそろ顔を出すべきか。

ガーディが関与している以上、あの方針は通らないと期待しているが、それなら何か他に滞る要因がある可能性。


前回の会議の様子を見る限り、若い層が責任者として入れ替わっていたことが、停滞の要因なのだろうか。

内的要因はバレン達に任せるしかない。

外的要因だとすれば、再びブラッド・オルティースや逃走したアリス・フォーラスの回収担当である、レイ・チェジール等の裏切り側。


エルの調査ではアリス・フォーラスが山本梓として生きていた肉体は、普通の死神では簡単に作れないという。

エルフの肉体に、魔法使いの魔力になじませることは非常に難しい作業だと。

霊力が流れて、肉体を維持していた事からも怪異側の協力。

死神と怪異の中に、協力者がいると仮定するなら、今接触した範囲外と考えた方がいいだろう。


ブラッド・オルティースとアディール・クラーレンの関係がどこから始まったのか。

ブラッドの他にも、アディール・クラーレンと繋がる死神がいるのか。


アディール・クラーレンに聞ければ、もしかしたら早いのかもしれないな。

先日の接触から日が経つ。

会いに来いと言っていた以上、もしかしたら、あの家にいれば会えるかもしれないが、どうするか。


–ブブブ


アンジェラからの日程連絡。

やっと来週なら、依頼していた梓の実家がある場所へ行けそうだ。

それなら、山本梓の魂回収に向けて、今週は動ける。


アディール・クラーレンに接触するとしたら、先日の小屋だろうか。


知りたいのは大きく三つ。

一つは移動経路。あの男がどうやって世界を跨いでいるのか。

二つ目は干渉手段。先日の“呪い”や精神的な揺さぶりが、どういう理屈で成立しているのか。

三つ目は侵入方法。アルフの家の結界を、どうやって破ったのか。


正直、分からない事が多すぎる。


ある意味、悪魔よりも対応しづらい。

だが、あの男はwalkerという性質を含め、魂や世界についての観測が目的。

昔からの目的を考えても、その軸はあまりブレていない印象。

ブルース同様にwalkerである私を観測対象としている内は、ある程度の交渉には乗ってくるとは予想できる。

そして観測対象である以上は、下手に攻撃的な行動はしないと期待したい。

だが、精神的な干渉は前回の時点で、私にとっては十分に効果があったので、物理的な攻撃がなくとも、何をしてくるか予測がつかない以上、対抗方法は考えるべきだろう。


一つは時間制限。

そして、前回の状況から見ると接触は必要そうなので、それは回避するべきだろう。

あとは、認識や記憶に欠落が出た場合は、私では自覚しづらい場合もある。

和には伝えておくか・・・反対される可能性があるが。


「は?もう一度言ってくれ。」


和の表情は、嫌そうなのがそのまま出ていた。

前回、魔法使いの変態に会いに行く時と同じ顔をしている。


「アディール・クラーレンに、会いに行こうかと思う。」

「なんで?」


ひとまずチャットを送ると、数分も経たないうちに地下に和が降りてきた。

メッセージで伝えた事を再度伝える。


「現状、山本梓の魂の場所についての情報が全くない。

あの男なら、フォーラスよりも交渉に乗ってくる可能性が高いし、場所の特定までできなくても何か材料が出ればいい。」


「…他の案はないのか?」


和は、地下へ降りる途中の階段にそのまま座り、こちらを睨む。


嫌がっているのは、危険だからというだけじゃないだろう。

相手が読みにくい上に、前回すでに精神的な干渉を受けているからだ。


「私は思いつかない。フィーのいた庭園には、既に山本梓の魂が無いと思う。

そしてそれには、フォーラスかアディール・クラーレンはほぼ確実に関わってる。

妖精でも感知できなかった以上、私は今のところ他に情報を得る手段が見つかっていない。」


「・・・・・・・・・」


沈黙が長い。


和を納得させる材料・・・


「アリス・フォーラスの現状維持を死神に交渉を通す上で、山本梓の魂の回収と返還は強い条件になる。」


「…バレンさんの案だな。」


そう。

上層部のバレンの案。

山本梓の魂を先に生まれ変わりに進め、アリス・フォーラスの生まれ変わりのタイミングをずらす。

それが、現状維持の為にバレンが提案した内容。

アリス・フォーラスの現状維持だけ通してくれというには、ここまで正式な回答が遅れている様子から、厳しい状況だということは予想ができる。


山本梓の魂がもしも死神側で無事確保できれば運が良い。

だが、いつまで経っても回収できないとなると、どこまで不安定な状況が続くのか予想できない。


「もしも、本当にフォーラスやアディール・クラーレンが魂を保管していた場合、それを奪うのは更に問題だ。

その場合、更に情報収集は必須。そして、結局どちらかと交渉する可能性は高い。」


「…その場合でも、アディール・クラーレンの方が交渉しやすいと?」

「あの男は研究者のような考え方をする。

もしも、まだ魂の結合方法が未確定なら、より実証しやすい提案や合理性が合えば乗りやすい。」


「…それは、誰か連れて行けるのか?」

「連れて行くつもりはない。あくまで交渉をしにいく。下手な刺激をすれば、元も子もなくなる。」


「・・・」


和が頭をかきむしる。


「は?じゃあなんで、俺にこの説明をしたんだ?怒るから?」

「それもある。だが、あの男が何をしてくるか予想ができない事や、精神的な干渉が入っている場合、戻ってきた後の認識のずれを確認する必要がある。」


「あー・・・なるほどね。会う目処は立ってるのか?」

「それも前回会った場所に、行ってみないと分からない。会いに来いと言っている以上、方法はあるはず。」


「…これから行くって事か?」

「そうだな。」


このまま時間が過ぎていけば、向こうの都合で閉じられる可能性もある。

会いに来いと言って日が浅い今は、条件が比較的揃っている。


和の返答次第だが。


「その場所は、時間の経過速度はここと違うのか?」

「同じ。」

「分かった。なら、1時間で帰ってこい。交渉だけなら、それで戻れるだろ?」

「分かった。」


ちょうどいい。

時間制限は、交渉条件にもなるし、こちらの安全策にもなる。


和が立ち上がる。


「1時間後に、俺もまたここに来るからな。いなかったら覚えてろ。」

「助かる。」


ひとまず、和の了承は得られた。

だが、1時間ですぐにアディール・クラーレンが、あの場所に現れるかは分からない。

まぁ今回もし会えなくても、何度か行ってみるしかない。


昨日会った天狗の反応からも、神の加護はあるようだし、ひとまずこのまま向かおうか。


和が地上に戻るのを確認して、いつもの奥の扉に進む。


あの小屋。

アディール・クラーレンにとっては、何の意味のない場所だと思うが、何故あそこなのだろう。

あの男にとっても交流のあったイヴに対しては、観察対象とは違う感情でも持ち合わせているのだろうか。


白い通路の先にある目的地の扉を開く。


–カチャ


「失礼。」


何事もなかったみたいに、そこにいた。

通路の扉は開いたままで、扉を完全にくぐらずに立ち止まる。


「おや。やっと会いに来てくれたのかい?」


まるで自分の家のように、本を読みながら前と同じ席に座っている。


「そうだね。先日はアルフのところに行ったと聞いたよ。」

「そうそう。久しぶりに会いたくなってね。」


その際、体の半分を焼かれたと聞いたが、その痕跡は残っていない様子。


「わざわざ危険を冒してまで、魔法世界に行くとはあなたらしくない。」

「そうだろうね。だがチャンスを逃すのも勿体ない気がしたんだ。」


フィーとの接触で、アリスの場所が分かったからこそ、わざわざ動いたという事だろうか。

それならやはり、既に山本梓の魂は彼の所有範囲にある?


「魂は時間経過によっては、霧散するリスクがあると聞く。」

「そのようだね。……惜しいことだ。」


だからこそ、急いでいるという仮説。


「つまり、今はその可能性はないと?」

「君が聞きたいことは分かるよ。全て答える訳にはいかないけれど――もう一度、私に“チャンス”をくれないかい?」


再び交換条件か。


「まずは聞く。」

「ありがとう。お前には、私の知らない逃げ道があるようだからね。このまま逃げられるのは困るんだ。」

「つまり?」


クラーレンは本を閉じ、机に置く。


「また、ここに来て欲しい。」

「いつ?」

「いつでもいい。――ただし、“今みたいに突然”がいい。」


今後の交渉が必要な可能性が残る以上は、悪い条件ではない。


「…ひとまず次は来る。その後は状況次第で。」

「ふふ。お前らしいな。いいだろう。」


目が合う。


「それで、“二番目”の片割れについてだな」

「……」


クラーレンは、少しだけ言葉を選ぶ。


「少なくとも、消えたと断じる段階ではない。私の知る限りではね。」

「――知る限り、ね。」

「言葉の綾だよ。場所を教える気はない。だが君なら、教えなくても嗅ぎ当てかねない。」


何かしら、干渉できる場所にある可能性が高い。


「魂の結合は可能なのか?」


クラーレンの目が細くなる。


「君はどう思う?」

「可能性はあるだろうな。」


魂というものが人間にはできない範疇とはいえ、分割できている以上、結合が可能な可能性は残る。

この男が、まだ魔力という範囲でしか記憶引継ぎができていないとしても、それを成し遂げている。

そして、walkerの疑似通路についても……正直私の知らない何かを、この男は知識として持ち合わせている。


「仮に結合により、魂が一つとなったとしても、walkerとしての性質が再現されるのかは分からないはず。」

「……そう。分からない。だから私は、“答え”より“条件”が欲しい。」


クラーレンは笑う。


「それでも、可能性があれば試してみたいだろう?」

「リスクは?」

「もちろん承知している。――君が一番よく知っているはずだ。」


実証の為への執念が残る。

山本梓の魂をやすやすと手放す気もないだろうし、これ以上情報はでなさそうだ。


「フォーラスとの奪い合いにならない事を祈るよ。」

「奪い合い?……彼らは“奪う側”になれるほど自由じゃない。」


依存性は、お互いに理解しているというところか。


「お前は、魂の数に上限があると思うかい?」


クラーレンの方から話を変えてきた。


魂の数の上限?


「数えた事もない。」

「私はあると考えている。」


ここだけ、声の温度が変わる。


「上限があるなら――増やせば、どこかが削れる。削れた分は、どこへ行く?」

「……」


違和感がある。

だが違和感の理由が分からない。


「お前の答えをひとまず信じて、気が向いた時にでもまた顔を出す。」

「楽しみにしているよ。」


こちらに微笑んだままのクラーレンに見送られながら、半歩後ろへ下がり扉を閉める。


「・・・・」


真っ白な景色の中で、どこに足を進めるべきか――迷った?


……いや、違う。


通路は最初から一本だ。


歩き出す。


収穫がなかった訳ではない。


少なくとも、山本梓の魂はすぐに失われる状態ではなさそうだという事。

クラーレンは未だに条件の実証を優先しており、答えが出る前に材料を壊す気は薄いということ。

そして、魂を扱う以上、死神側の協力線は切れないという事。


ならば次に調べるのは、ブラッド・オルティースだろうな。

もしもお時間があるようでしたら

一文二文、はたまた評価頂けたら

ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。

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