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愛が重い?again


 さて、実に穏やかな? 昼休みも終わり、お互いの持ち場に戻るためロビーに帰ってきた祐一と麗奈。



「そうだ。今日移動になったばかりで帰りの時間がどうなるかがハッキリしないんだよ」



 ちょっとだけ考えて言葉を続ける祐一。



「帰る時間が分かったら連絡するよ。一緒に帰れるかどうかわかんないから」



 眼鏡の上の眉頭を寄せる。



「そうですね。まだどっちの担当になるかも決まってないですもんね・・・」



 ちょっと残念そうな麗奈を見て、



「合鍵、持ってるよね?」



 と、サラサラの髪をそっと撫でる祐一。



「いつでも俺んちに来られるから。大丈夫だよ」



 更に内部糖度が上がったようで麗奈の顔面と耳が赤くなる、という化学変化が起こったようである。


 もちろん麗奈は赤ベコ並みにウンウンと頭を縦に振って頷いている・・・



「封筒にまだ入れっぱなしで鞄の中です」



 赤い顔のまま嬉しそうに麗奈は笑った。





×××




 エレベーターのドアが閉まるまで祐一を見送って、受付に戻る彼女を手ぐすね引いて待っていたのは田淵である。



「おっ帰り〜♡ 麗奈ちゃん、課長とのランチデート楽しかった? 社内恋愛初心者さんだもんね〜、初々しくっていいわぁ〜。どうどう? 感想は?」



 因みに田淵女子は、社内恋愛ベテランでぁ・・・ゲフン。



「すごく、何もかもが楽しくって幸せです! お弁当も完食してくれて美味しいって言ってもらえましたっ! 朝4時から頑張って作った甲斐がありました!!」



 目を輝かせうっとりする彼女を見て、若干引き気味になる田淵・・・


 コレはコレで愛が重い気がする・・・・



「そ、そう楽しくて良かったわね」


「ハイッ!! あ、でもちょっとだけ残念なことがあって・・・」



 急に綺麗な顔の眉を寄せる麗奈。



「何かあったの〜?」



 受付カウンターの裏でしゃがんだまま、グロスを口紅の上に重ね塗りしていた田淵がコンパクトから顔を上げる。



「どうしたのよ? 変な顔してさ」


「祐一さんが、経理課じゃなくなったんです」



 首を傾げながら考える田淵。



「へー。3月半ばで移動って珍しいわね。普通は4月に入ってからよこの会社。まあ、行き先次第だけどさ、どこよ移動先は?」


専属(プライベート)秘書室だそうです。あんまり会えなくなるかも・・・」


本当(マジ)か? 栄転じゃん・・・」



 思わず手にしていたコンパクトを落として、カラーン! と音をさせてしまい焦る田淵を余所に、悲しそうな麗奈は、



「定時に帰れなくなったら一緒に歩いて帰れなくなっちゃいます・・・」



 しょぼ〜ん、とする。


 祐一の栄転なんぞより、彼と一緒に歩いて帰る楽しみを社長と会長に奪われたのが悔しい麗奈なのであった。


 まあ、社長、会長と言っても、自分の父や祖父なんだが・・・



「まあまあ、麗奈ちゃん。神谷課長の給料もグッと上がるしさ、幹部に気に入られたらそれだけ査定だって良くなるしさ〜。専属秘書なんて、なりたくてもなれない花形役職なのよ〜。婚約者が社長秘書なんてカッコいいじゃん!」


「え〜。裕一さんはそのままでカッコいいから、花形職なんか要らないです〜」



 この子はこの子で、祐一(ラブ)が重いのね、と麗奈を見ながら更に苦笑いをする田淵。


 まあ、そもそも彼女の場合は父と祖父に、長時間祐一を占有されるのが嫌なだけなのかも知れないのだが・・・


 田淵はその事実は知らないので、しょうがない。




「そうよね〜 黒縁眼鏡をはずした素顔がアイドルみたいなイケメンだもん、心配だよねえ」



 コンパクトを拾って立ち上がると、洒落た化粧ポーチに放り込みながら、



「でもさ、何であーんなダサい眼鏡掛けてるのかしらね? ブルーライトカットでも今はもっと洒落たのあると思うわよ」



 そう言いつつ、首を捻り、



「ああ。ひょっとしたら女避けかしら? あのイケメン具合いを隠すには、アレくらいで丁度いいのかも知れないわね。でもま、大丈夫。秘書室はウワバミ様が、縄張りをガッツリ締めてるからさ、変な女絡みだけは心配ないわよ」



 そう笑いながら田淵は麗奈と入れ替わりで休憩に入る準備を整え、タイムカードを押すとショルダーバッグを肩から掛けた。



「じゃあ、休憩に行ってくるわ〜。後、宜しくね!」



 受付カウンターから、エレベーターに向かって元気に歩いていく、田淵を見送りながら



「女避け・・・? ウワバミ?」



 首を傾げて、何やら複雑な表情の麗奈である。





×××





 その頃の祐一は経理課のデスク周りの掃除中であった。


 私物をすべてダンボールに突っ込むと、大塚の所に挨拶にやって来た。


 微妙な顔の大塚が、



「まあ、頑張れ。俺もお前の穴を塞ぐ為に当分は残業だ」



 そう言いながら祐一の肩をポンポンと叩いた。


 考えてみれば部下としては働きやすい上司だったのかも、と祐一は脳内で過去の業務内容をシミュレーションをしてみる。


 祐一の確認書類の多さや決済の修整、部下に対する指示書。そして大塚が不在でも上げられていく書類達・・・



「じゃあ、長いことお世話になりました!」



 うん。俺が居ないほうが部長の為になる。



 祐一の気分は実に晴れやかであった。




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