デザイナーズドレス
「猫語はわかんないですけどね、ドレスの相談に行くんですよ。で、クロちゃんを1人にするのがなんだか悪い気がしてですね・・・それで一緒に行って頂こうかと思いまして・・・」
何故かクロを抱いて必死で敬語で説明する麗奈に、とうとう笑いを堪え切れなくなって、ブッ! と変な音をさせる祐一。
「祐一さんは笑わずにクロちゃんに説明して下さい!」
つい、赤くなる麗奈。
「わかった、クックッ・・・クロ、お前麗奈さんのドレス、一緒に見に行くか? それとも里に帰っとく?」
「ニャア」
答えたクロは麗奈の膝の上で丸くなる。
「行くってさ。美奈ちゃんに猫がついて行ってもいいか聞いといて」
「・・・ハイ」
アトリエは閑静な住宅街の一角にあった。大きな家4件分以上の広い敷地面積のド真ん中にナニコレ、お城? みたいな建物があり、そこのバルコニーで美奈が手を振っていた。
「おねーちゃん、祐一さんこっち〜、車は適当に置いといてだってさ〜!」
言われた通りに、門を潜った所の脇に停めて車を降り、玄関に向かう。
クロは祐一の肩に又もやでろ~んと伸びて欠伸をしている。
手を繋いで歩いていると、あちこちに小鳥の石のオブジェが飾ってあったり、小鳥の水飲み場が置いてある。
庭の木は立派で大きいものが多く、風に揺れサワサワと音がする。
「街中じゃないみたいですね。静かで落ち着いてて、ここだけ森の中みたいです」
木々の間を雀や名前を知らない小さな野鳥が、囀りながらぴょんぴょんと枝から枝へ飛び移っているのが見えた。
「小鳥が好きなんだろうか? 結構な数のオブジェがあるね」
小さめの池の傍にはアヒルの親子のオブジェもあったが・・・
そして玄関にはデカいカラフルなスーツを着たガマカエルの置物があった。
「メルヘンチックですね」
麗奈は本気でそう言った。
×××
玄関チャイムを鳴らそうとすると、ドアが自動ドアのように勝手に開いて、美奈が
「いらっしゃ~い!」
と愛想よくお迎えしてくれる。
「先生2階のアトリエに居るんだよ」
玄関横からすぐ上に続く階段があった。
今立っている場所から正面、美奈の後ろ側にはアンティークな感じのステンドグラスの窓がはまった重厚な木のドアが見える。
「この後ろの部屋は、アシスタントさん達の作業場で、今日はお休みなんだ。コレクション終わったばかりだし」
そう言いながら階段を登っていく美奈。
土足のままで良いらしくそのまま2階へと登る。
「センセー! お姉ちゃん来たよ〜それとおムコさんも一緒に来たよ〜」
そう言いながらドアを開けると、丸メガネをかけた髪の長い男性が、メジャーを手に微笑みながら立っていた。
年の頃は50歳以上だろうか、髪の毛には白いものが混じっていて、顎髭にも白いものがチラホラ見える。
身体つきはどちらかというと辰夫のような細身で、色白、眼鏡の奥の目は優しそうに見えた。
「やあ、麗奈ちゃんお久しぶり。婚約おめでとう! で、その横がお婿さんかい? コレはまた物凄くイケメン君だねえ〜」
はははっと楽しそうに笑う姿は、何だか異世界に行ったときの辰夫を彷彿とさせる。
「はじめまして、神谷祐一です」
そう言って頭を下げる祐一に向かい、ポカンと口を開け
「君、ソレ? 猫?」
何故か肩のクロに注目していた。
「いやあ、猫がお供に来るとは聞いてたけどケージか何かに入ってると思っててさ、まさか襟巻きになって来るとは思ってなくてさあ」
ケラケラ笑う男性は木田と名乗る。
「ホントに馴れてるっていうか、魔女の使い魔みたいだね」
一丁前に椅子に座るクロを見ながら、麗奈の身体のサイズを細かく測っている。
「麗奈ちゃん、体型が1年前と全然変わってないんじゃない? 彼氏出来たのに・・・」
呆れ顔で祐一を見ると、
「大事にしてると言えばいいのか・・・それとも奥手なのか・・・」
何だか、モヤッとする言い方だなと祐一は一瞬思ったが、
「センセ〜、祐一さんは、お姉ちゃんをマジで女神扱いだからね。籍入れるまでは何にもしないと思うよ」
クロの隣の椅子に座り脚をぶらぶらさせる美奈。
その言葉に、麗奈と祐一の2人の顔に朱が走る。
「そりゃあ凄いな! まあドレスを作る側としてはさあ、体型変わんないほうが良いんだけどね~」
ゲラゲラ笑う木田。
「あんまり女神様扱いすると逃げられちゃうよ」
「えっ!」
慌てる祐一に
「祐一さんからお姉ちゃんが逃げるなんて、地球が明日爆発したとしてもありえないから〜」
ぎゃははははと美奈が足をバタバタして笑い転げる。
「ひえ〜、凄いね! そりゃあ」
木田がスケッチブックをパラパラと捲りながら、布見本を抱えて、照れる麗奈と一緒に戻ってくる。
「もうね、見ててさあ、溺愛ってこういうのだねっていうのウチの両親見てて知ってたと思ってたけどさ~、もっとすごいもん。もう私のほうがカルチャーショックだよ」
ケタケタ笑う美奈の膝を何故かクロが抑えて、顔を見上げた。
「ん? このニャンコ、お父さんの言ってた、祐一さんチのコ? だよね。どーしたの君?」
ジッと金色の目で美奈の顔を見つめた後で、我が物顔で膝に乗った・・・
「「?」」
「人懐っこいね〜聞いた通りだねえ。いいなあ、お父さんが猫が飼いたいって言ってんの分かる〜!」
美奈はケラケラ笑いながらクロの背中を撫でた。
『『美奈が猫又に気に入られた・・・?』』
祐一と麗奈は驚いて顔を見合わせた。
「デザインはさ、祐一君と麗奈ちゃんがいいって思うの選ぶといいと思ってね〜、何種類か前もって描いたのよ、でさ、」
ニコニコ笑顔で笑いながら
「聞いたところ変わった指輪持ってるんだって美奈が言うからさ、真っ白っていうのもいいけど、裾とか袖周りに同じ色感のピンクとかでアクセント入れようかと思ってるんだよね~」
と、言いながら麗奈の薬指を覗き込む。
「・・・うん、美奈が言ってる通りの溺愛っぷりだね。こりゃあ絶対に逃げらんないね、麗奈ちゃん、頑張って仲良くしてね〜」
妙な間があったが、麗奈は気にしないことに決めている。
「そういえば、結婚指輪もできてんだよね」
美奈が、両手をポンッと打つ。
「うん。見る?」
「デザインは知ってるけどさ? 婚約指輪と重ねてつけてるとこ見たい〜」
じゃあ、と言ってゴソゴソと指輪をブルーのケースから取り出すレナ。
「へーえ、刻印こうやって入るんだね~・・・へ?」
「どうしたの?」
「裏側にいつの間にか石が入ってるじゃん・・・? アタシが一緒に行ったときは普通のデザインのやつだったよね・・・?」
よく見れば小さいが裏側に小さなブルーの宝石らしきモノが嵌っている・・・
「あ、ソレね祐一さんがサムシングブルーにやっぱりしようって言いだして、私のだけ特注になっちゃったの・・・」
またか、この男・・・という顔に一瞬なった美奈だったが、
「良かったじゃん! 幸せな花嫁さんだね!」
もう馴れたようだ。
宝石がどういう種類のモノかは、気にしないことに決めた美奈である。
美奈と麗奈のやり取りを聞きながら、スケッチブックを捲る祐一。
「へーえ、全部麗奈さんのイメージピッタリですね」
「でしょ? この姉妹はね、僕にとってはなんていうのかな〜、ミューズなんだよね。見てたら創作意欲が出てきちゃうんだよね、ほらコレなんかいいでしょ? 百合の妖精みたいでさ〜、こう前から見ると可憐で清楚な感じだけど背中が腰近く迄グッと切れ込んでて、花婿としては唆るでしょ?」
祐一はつい赤くなった。




