ウェディングバンドリング
可愛いかな? と姿見の前でクルリと回り、全身をチェックする麗奈。
無事に下着の交換を終えて、週末のデート用に構えてあったブランド物のワンピースに着替えた所だ。
真っ白に色とりどりの華やかな花のプリントがされているもので、
『着る人を、選ぶんだよねコレ』
と、妹の美奈がショーの後で持って帰って、プレゼントしてくれたものでデザイナーさんのイチオシらしい。
プレゼントされた日に、
『絶対にお出かけの時は指輪に負けない様に気合を入れるのよ、分かった!?』
と血走った目で美奈に詰め寄られてしまい、思わずコクコクと赤ベコもかくやという位頷いてしまったので着ないわけにも・・・
『でもこれ・・・結構派手なんだよね・・・』
とても似合っていると自分でも思うのだが、こういう綺麗なお姉さん系は自分では絶対に選ばないだろうな、と思うのだ。
麗奈の服はどっちかというといつぞや流行った森ガール系やお嬢様系が多い。
しかし、一度は着ておかないと美奈に噛み付かれるな、と、遠い目になりながらお出かけ用の小さなハンドバッグを手にしてマンションの玄関でパンプスを履いた。
マンションのロータリーで待っている祐一は車から降りてドアにもたれて何やらスマホを見ているようだ。
ただの白いコットンシャツにブラックデニム、編上げブーツという出で立ちなのに何故か輝いて見えるのは麗奈の欲目なのだろうか? いや違う、道を通るおばちゃん達が祐一の姿を、ニコニコしながら顔を若干赤くしてチラチラ見ている。間違いない。
「お待たせ、祐一さん!」
と、声をかけるとスマホから顔を上げ柔らかく微笑む祐一が掛けているのは西条がくれたというノンフレームの眼鏡である。
「眼鏡、いつものじゃないんですか?」
「うん。実は昨日麗子に押し倒された時に、アイツ眼鏡を放り投げてさ」
祐一が、胸ポケットからいつもの黒縁眼鏡を出してきた。
見事にフレームがひしゃげており、レンズには大きな傷が。
「これは・・・無理ですね。それで運転中眼鏡を外してたんですね・・・」
「うん、眼鏡も見に行こうかと思ってる。最悪100均かな〜」
「・・・」
「でも、今日はどうしても行きたい所が出来たからさ」
「?」
「結婚指輪が出来たって今メールが届いたから、店に行って指にちゃんとサイズが合うか確認しなくちゃね」
そう言いながら、破顔した祐一のフニャッとした顔に、又もや赤くなった麗奈は通常運転だ。
しかし、婚約者には高級アクセサリーをポンポン買う癖に自分は100均の伊達眼鏡かよ、という突っ込みを入れたくなるのは自分だけではないだろうなと目が泳ぐ麗奈である。
×××
結婚指輪のデザインはV字を描くセッティングタイプの物をペアで作った。
麗奈の婚約指輪を重ね付けした時に綺麗に見えたというのが選んだ理由だ。
ショップの従業員は麗奈の薬指を見たときに即座にコレを勧めてくれた。
『是非ともそのエンゲージメントリングと合わせてお使いください!』
と下にも置かぬ丁寧さであった。
若干顔が引き攣り笑いだったのは言うまでもないが・・・
祐一はダイヤが付いたのとかリボンみたいなデザインのタイプも気になったようだが、その時冷やかしついでに付いて来ていた美奈、麗奈、従業員の3人に押し切られた。
決まった後で、義妹予定の美奈に買い物に付き合ってくれたお礼と言って一粒ダイヤのベゼルセッティングタイプのネックレスを、レナとお揃いで買った時に周りの従業員が更なる引き攣り笑いになったのもお約束であろう。
この時に麗奈と祐一は、美奈という強力な後方支援を確保したと言っても過言ではない・・・
宝飾店で麗奈が嬉しそうな顔で刻印やサイズの確認をしているのを祐一が心ゆく迄堪能した後、ティファニーブルーの袋を持って店を出た2人。
重いガラスのドアを従業員が開けてくれて、店のフロアに全員が並んで見送ってくれたのには苦笑いを隠せなかった2人である。
「結婚式でお互いの指に嵌めるっていうのが定番なんだよね」
「そうらしいですね」
・・・もうどこまで行っても疎いというか、呑気な2人である。
美奈が一緒にいたら噛みつかれるのは確実だ。
「あ、LINE。美奈だ」
立ち止まって確認をする麗奈。
「何かデザイナーさんのアトリエに、今日の午後来ませんかってお誘いがあったって言ってます」
「へえ~、何かタイミングいいな」
麗奈と出会ってから何かしらタイミングが良いのだ。
彼女が女神の血を引いてるからなのかな、と首を傾げる祐一。
「指輪も出来たって美奈に送ったら、ドレスのデザインも見に行こうって返事が来ました」
じゃあ、行こうかということになり愛車をパーキングから出すことにした。
「あ、でもクロちゃんがお家で留守番してるんですよね、どうしましょうか?」
「あ~、アイツは勝手に飽きたら神谷の家に帰ると思うけど? お気に入りのチュールを朝食べてたから平気だろうけどさ、麗奈さんが気になるなら呼んでみて」
「へ?」
「試しに、こっちに来て! って呼んでみなよ。機嫌が良ければちゃんと来るから」
祐一がクスクス笑う。
「えーと・・・」
そうか、お母さんと一緒なんだっけと、考えながら、クロちゃん来て下さい、と頭の中でお願いすると、
「・・・ニギャ?」
後部座席に黒猫が行儀よくお座りをしていた・・・
「ホントに来た・・・」




