第20話
あれから、のんびりした時間を過ごした。
相変わらず、クランド様にからかわれては恥ずかしくなる日々だったけど。
それはそれで、楽しかった。
あっという間の一週間だった。
だから、明日でその日も終わりかと思うと、どこか寂しい気がする。
昨晩は、
寂しくて、
部屋に戻りたくなくて、
遅くまでクランド様と一緒に過ごしていた。
お茶して、お話して……。
でも。
途中から、記憶がない。
記憶が、ないはずだ。
だって私、いつの間にか寝てたのだからっ!
パチっ
と、目が覚めて、視界に飛び込んできたクランド様の顔に驚いて慌ててしまい、私はベッドからずり落ちた。
「……」
「大丈夫?」
天井を見ていた私の視界に、クランド様が覗き込む。
驚きすぎて、すぐには言葉が出なかった。
え? なんで?
なんで同じベッドに、クランド様と寝てるの? 私?
「……」
口をパクパクしてる私を、クランド様は頬杖をついて眺めている。
「そんなに驚かなくても……。何もしてないから大丈夫だよ」
「な、なんで同じベッドに居るんでしょうか……っ?!」
「んー、いつの間にか寝てたから、ベッドに運んだだけかな」
「……」
「俺も隣で一緒に寝たけどね」
「……すみません。傷口、開きませんでしたか?」
「うん、大丈夫」
手を差し伸べられて、私は起き上がり、その手を掴む。
ベッドの上に引き戻されて、私はクランド様の前に座り込んだ。
「……朝ですね」
「うん、朝だね」
戸惑う私に、クランド様は笑う。
「ごめん、ショックだった?」
「イエ! そうじゃなくて……」
なんか、もったいないことした気分?
と、いうのか……。
クランド様の顔、眺めていたかったな。
「……一週間、終わっちゃいました」
しゅんとする私に、クランド様は苦笑する。
「うん、一週間早かったね」
「……はい」
フフっと微笑むクランド様は、私の頬に手を当てながら尋ねる。
「キスには、慣れた?」
「……は、激しくないものなら」
「そう?」
「……」
「恥ずかしそうにするユリナ、ホント、可愛い」
クランド様は微笑むと、私に近づき、そっとキスをする。
その時だった。
トントン
と、軽いノック音がしたかと思ったら。
「兄さん、入るよ」
って、キールが部屋に入ってきたのだ。
「……っ!」
焦る私を、クランド様は離そうとはしなかった。
まるで、キールに私たちのキスを見せつけるかのように、唇を重ねている。
見られてる?!
見られてますよ! クランド様っ!
逃げられない私は、恥ずかしくて目も開けられない。
キールの顔を見る勇気がない。
しかも、ベッドの上だし!
朝だしっ!
どうしよう……っ?!
「……」
クランド様は私の唇から離れると、顔を真っ赤にする私を抱きしめた。
そして、不機嫌そうにキールを見る。
「返事も聞かずに入るなよ」
「……いや、まさか、こんなところに出くわすなんて思ってなくて」
「……」
明らかに動揺しているキールの声が気になって、私は自分の顔を覆ってしまった指の隙間からキールを盗み見た。
顔が、真っ赤だった。
どうやら、キールも私たちを直視できないようだ……。
私に負けず劣らず、赤い……。
「……医者が来たから、呼びに……来た……だけです」
目のやり場に困ったように顔をそむけるキールに、クランド様は私を強く抱きしめた。
「続きは後でね」
と、私の耳元で囁いて……。
「まさか、相手が兄さんだったとは」
キールが驚いたように告げる。
「お恥ずかしいところを……」
お互い顔を合わせずらいし、クランド様のお部屋に居ることが気まずくて、二人して庭に出てきていた。
一応でも婚約者の私と、自分の兄のキスシーンなんて、目撃したくなかったはず。
「……」
ってゆうか、いわゆる浮気現場みたいなもんじゃん。
ため息をつく私に、
「……いつから」
と、キールは私を見た。
「え……?」
「兄さんとは、いつからそんな関係に?」
「……」
んん? なんか、怒ってる?
「えっと、つい、最近……?」
「さいきん?」
「えーっと、ティーパーティーのときだから。二、三か月ぐらい前かな?」
「……そっか」
あれ? 今度は何? そのあっけにとられた顔。
「……まだ、三か月?」
「……」
期間がなにか?
「……俺たちの婚約破棄、うまくいくだろうか」
「……」
話が、飛んだ……?
「俺はともかく、ユリナは王族だから、国王陛下が絡んでくるよな?」
「……」
心配そうなキールには申し訳ないけど、ふっと、私は声に出して笑ってしまう。
「え? 何?」
「……いや、口調が昔に戻ってると思って」
あははと、笑う私に、キールは驚いたあと、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お互い、反省して謝ったんだから、いいだろっ」
「うん。うれしいっ!」
「うれ……っ?!」
「そういえば、リナとはどうなりました?」
「……。キャンベル侯爵は、この前の事件で責任を感じて、リナ嬢を皇太子妃候補から辞退させた」
「え?」
「まあ、俺がリナ嬢を引き受けるって言ったこともあったけど」
「……じゃあっ!」
「ああ……」
「本当に?! やったぁーっ!」
思わず強くキールの背を叩いてしまった。
「……痛いだろっ!」
照れ隠しに大きな声を上げたキールとはしゃぐ私たちの元に。
「二人で楽しくおしゃべりとは……。ずいぶん仲が良くなったんですね」
その場の雰囲気に不釣り合いな低い声がして、私もキールも振り返る。
そこには、不機嫌そうなクランド様が立っていた。
怒ってる?
でも、そんなクランド様も素敵ですが。
「クランド様っ! 抜糸は終わりました? 大丈夫ですか?」
キールそっちのけでクランド様に駆け寄る私を見て、クランド様は少しびっくりしたような表情になる。
「ああ、もう大丈夫。どうしたの? ご機嫌だね」
「クランド様の怪我が治って、よかったです」
私の頭を撫でるクランド様を見ながら、キールが尋ねた。
「……兄さん。この状況、どうする気?」
「どうって? お前とリナ嬢もうまくいったんだろ? さっき、父さんの所にキャンベル侯爵から手紙が届いていたよ」
「え?」
「さすが、対応が早いよな……」
驚くキールに、クランド様はからかうようにキールに目をやる。
「でも、俺はともかくっ! ユリナは王族だから、問題では?」
不安そうなキールの問いに対し、クランド様は考え込んだ風に見せる。
「……まあ、明日になればわかるよ」
「え?」
明日?
私もキールも、首を傾げてしまう。
「明日、国王陛下に謁見するから、二人とも、そのつもりで」
「え? 国王陛下に?!」
驚く私たちの視線を受けながら、クランド様は私を見下ろした。
「だから、明日は二人で一緒に王宮においで」
「……クランド様は?」
不安に見上げる私に、
「俺は、今日の夜には仕事に復帰するから。明日王宮で合流するよ」
と、クランド様は私の髪に触れる。
「……」
「心配しなくてもいいよ、二人とも」
そう微笑んだクランド様の顔は、とても穏やかだった。




