2.
[テストを開始します]
どこかから、女の人の声が聞こえてくる。
なんだろ、この間お父さんが買ってきたAIスピーカーの声にちょっと似てる。感情が無くて、あまり夜中とかには聞きたくない声だなぁ。
ていうかテストって何のことだろう?数学?国語?中間テストは1週間前に終わったばっかだしなぁ。
それよりも体が痛い。どこかを怪我をしているというよりは、筋肉痛みたいな感じかな。右腕も熱いけど、さっきよりはましな痛みだ。ん、さっきより?
__その時、頭の中に先程の出来事が流れてきた。
「申し訳ないけど、右に寄ってもらえないかな?」
「そういえば、そっちはもう撮り終わったの?」
「あっ、でもこのゲーム面白いから、興味あったら是非!」
「忙しいところ私が声かけちゃって…」
「そう、すすめてよかった。」
「ダウンロードは終わったかな?」
「私は1年1組の鏡ミラと言います。」
「もう説明するより、体験してもらった方が早いかな。」
「だから、今からMIRROR WORLDにいかない?」
そうだ、駅にポスターを見に行ったんだ、それから…。
はっとして目を開ける。そこは駅の構内ではなかった。
「何これ…」
どうやら自分はあお向けに倒れていたみたいだった。黒のブレーザとスカートには少し皺ができている。両肩にかけていた紺のスクールバックと水色の部活用のショルダーバックは、それぞれ身体の左右に転がっていた。左手を伸ばして、スクールバックの取っ手を掴む。引っ張ると重さを感じるので、中身はどこかには飛び出てしまってはないようだった。ほっと息をついて、バックから手を離す。ゴールデンウィーク中はずっと部活で外に出ていたので、手から腕にかけて少し日焼けをして赤みがかっている。
黒、紺、水、そして赤。…ここまでは大丈夫。ドクドクと嫌な音を立てる心臓を押さえながら、目の前を見つめた。
_真っ白だ。白、なにもない。壁が、床が、白いだけじゃなくて、なにもないのだ。
急いで上体を起こして、周囲を見渡す。真っ白な空間がどこまでも、どこまでも広がっていた。
「あはは…」
思わず乾いた笑いが口からこぼれる。ヒトってどうしたらいいのか分からなくなったら、笑っちゃうんだ。笑いと一緒に身体も震えてしまっている。きっと腕は鳥肌もたっているはずだ。
「これって、一体なんなのかな?」
そう答えが出ない疑問をつぶやいて、頭の中に流れたさっきのことを考える。
流れだけ考えると、ここがミラーワールドってことになるのかな?…いや、そんな馬鹿みたいなこと、あるはずないよね。きっと今日の出来事自体が夢なんだ。テスト中は寝不足で疲れてたから、今になってその疲れが変な夢をみせてるのかも。
…もう少ししたら、お母さんの起こしにくる声でも聞こえてくるはず。もう目でもつむって、この夢から醒めるのを待っておこう。
そうして、スクールバッグの横に体育座りをしながら、目を閉じて、何分が経っただろう。
「もしかして夢じゃない、とか?」
何度確認しても相変わらず白一帯のがらんとした空間に、私の声だけが響く。
いやいや、そんなことある訳ないじゃん。でも、そしたらあの女の子が最後に言っていた、あの言葉は?
そんなこれは夢だ、夢じゃないといったことをぐるぐると頭の中で考えながら…。
_もういい。じっとしていてもしょうがないし、とりあえずここから動いてみよう。この白い空間がどこまで続いているのかは分からないけど、夢だったら歩いている内に醒めるかもしれないし、夢じゃないならここはミラーワールドってことだから…。
…きっと、どこかに出口でもあるはずだよね。
とりあえず、絶対こんな白いだけの場所がゲームの舞台とかあるはずないから、ここからどっか別の場所に繋がってるはず。でもそんなこといったら、そもそもこの白い場所は一体何なんだろう?うーん?
いや、そもそもミラーワールドって、どんなゲームなのかもよく分からないしなぁ。あの子、ミラちゃん?にもうちょっと聞けば良かったな…。あの一連の発言の意味も分かんないし。…ちょっと待って、スマホゲームの世界に行くってさ、これってもしかして最近よく漫画で見る異世界転生?いや、転生って生まれ変わるってことのはずだから、どっちかっていうと異世界、何ていうんだっけ。
…そもそも私って、私だよね?異世界物って、異世界にきたら、急に前の自分とは全然別の見た目に変わってたって内容のアニメを、お兄ちゃんもこの前見てたしなぁ。あのライトとかいう主人公も、冴えない感じの眼鏡の男子だったのが、異世界に行ったら、急に青い髪のイケメンになってたし…、とくだらない考えが頭によぎり始める。
もしかして私もモデルのはるぴーみたいになってたりして…。この空間から目を覚ました時にもこの日焼けした腕はみたけどと、自分の腕に目を向ける。そこから、肩にかかった髪を手で引っ張って、目の前に持っていくと、見慣れた少し癖のある黒い髪があった。ぺたぺたと身体を手で触っていっても、違和感もなく…。
まぁ、そんな外見が変わるなんてことはないよね。着ている服も制服のままだし。
最後に顔だけ確認してみるか。横にあるスクールバッグから、内ポケットに入っている手鏡を取ろうとすると…。
「あれ、入ってない。お財布はあるのになぁ。」
カバンの中をごそごそと漁ってみても、お財布の他には教科書、ノート、ペンケース、プリント、それにヘアゴムに飴。中身を全部ひっくり返してみても、鏡は見当たらない。
反対側に置かれたショルダーバックの方も確認してみるが、こちらもジャージ上下にタオルが入っているだけだ。
どこかで落としたとか?まぁ百均のやつだったし、そんな気にするほどでもないか。そんなことを思いながら、そこでふとあることに気づいた。
「___スマホがないっ!!」
ゲームをダウンロードして、あの女の子によく分からない言葉をかけられるまでは手に持っていはずだ。意識を失っている間にどこかへ落とした?
このおかしな空間は寒さも暑さもないけど、スマホをなくしたなんていったらお母さんがどんな顔をするか、悪寒と汗がだらだらと出てくるのであった。




