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___<MIRROR WORLD -1000万ダウンロード突破!>
あっ、変わってる!昨日の夜、お兄ちゃんに「そういえば駅にお前の好きなアイドルの巨大ポスターが貼ってあったよ。」と教えてもらってたので、部活帰りに寄り道したのだけれど、一歩遅かったみたいだ。
ついてないなぁ。今日はあまり自信のない模試の結果が返ってくるから、ポスターの写真でも撮って元気を出そうと思ったのに。
楽しみが消えてしまい、なんだかやる気が出ない。急いで家に帰って塾に行かないと駄目なのに、ぼんやりと広告の前でスマホをいじってしまう。
そもそも中学生になったばかりなのに、もう塾に通わないといけないなんて…。お母さんや塾の先生は、内申点の為にも今から頑張らないとって言うけどさぁ。
そう心の中でぼやいていたら、気づいたらスマホ画面上の時間の表示は16時53分を示していた。もう駅から出ないとまずい時間だ。はあぁーと心の中で大きくため息をついて、スマホをブレザーのポケットの中にしまう。そして駅の構内から出る前に、なんとなく目の前にあるポスターをもう一度見てみた。
MIRROR WORLD_ミラーワールドって読むんだよね、これ。ミラーのつづりって、こう書くんだ。ふーんと思って見ていると、その下には1000万ダウンロードと書いてある。また中央の文字を囲むように、上下左右には4人のカラフルな髪色をした男女も描かれていた。
ゲームの広告かな?こうやって大きく宣伝されてるってことは、そこそこ有名なのかも。って、そんなことはどうでもいいか。早く帰らないと…。
「申し訳ないけど、右に寄ってもらえないかな?」
…あれ?背後から急に声を掛けられて、後ろを振り向くと、制服を着た女の子が立っていた。
右に寄ってて…?と自分の立ち位置をふと確認すると、ちょうどポスターの真ん中を自分がふさいでしまっている。その子の手元を見ると、スマホが握らているので、撮影しようしていたのかもしれない。
_完全に邪魔なやつだ。「ごめんなさいっ!」と謝って、急いで右にずれる。
「いいよいいよ、気にしないで。」とその子は笑いながら、さっき私が立っていた場所まで移動して、スマホを構えて撮影を始めた。
紺のブレザーにスカート。同じ学校の子だ。胸元のリボンは緑色だから、私と同じ中学1年生だよね。ちらっと横顔を見てみると、丸い顔に丸い目に、丸い眼鏡。少しタヌキに似ていて、親しみやすさを感じる。
肩には通学カバンがかけられていて、何のキャラかは分からないけど、いくつもの缶バッジが付けられていた。…先生とかに怒られないのかなぁ。
そんなことを考えていると、隣の撮影は終わったみたいだった。
「そういえば、そっちはもう撮り終わったの?」
えっ、私?そっか。ここにいたら、これに興味がある人みたいに見えるよね。
「いや、ここではぼーとしてただけで…。私はこのミラーワールド?は全然知らないんだ。」
「…そうだったんだ。あっ、でもこのゲーム面白いから、興味あったら是非!」
やっぱり、ゲームの広告で合ってたんだ。でもゲームはあまりやらないからなぁ。たまにお兄ちゃんがやるのを横で見せてもらうぐらいだ。それにスマホゲームだと、課金とかも必要そうだよね。
そんな私の心を読んだのか、「今、無料キャンペーンもやってるから!課金しなくても、十分楽しめるよ。」と続けて言われる。
へぇー。そんなに言うなら、とりあえずインストールだけでもしようかな。ポケットからスマホを取り出して、ロックを解除しようとする。画面には17時4分と表示されていた。…17時4分?
「あぁぁー!」
「どうしたの!?」
塾のこと、忘れてた!
「これから塾なんだけど、家に帰る時間が…」45分から授業だから家に帰ってたら、間に合わないよね…。
「えっ!…ごめん。忙しいところ私が声かけちゃって…」
いやいやいやいや!慌てて、その言葉を遮る。
「そもそも、私がぼーっとしてたから、こうなったんだし!それに、直接行けば間に合うから。」
家に帰らずそのまま行けば、塾はこの駅から1分もかからないので、全然余裕がある。テキストは塾で借りればいいし、宿題は…。明日まで待ってもらおう。
本当に大丈夫?と心配する声に、大丈夫だよ!と返しなら、スマホのゲームストアからミラーワールドと検索する。
そうすると、1番上にMIRROR WORLDと表示がでてきた。これだよね?と画面を横に見せる。
「そうそう。あっ、入れてくれるんだ。」
「うん、1回スマホゲームやってみたくて。せっかくおすすめもしてくれたから。」
「そう、すすめてよかった。……あっ、アプリをインストールしてデータのダウンロードが完了するまで、3分くらいかかるから、その間にコンビニに行ってきてもいいかな?頼まれてるものがあって…」と、隣の女の子は私達の後方にあるコンビニを指差した。
どうぞどうぞと言うと、すぐ戻るから!とその子は走っていった。
そういえばあの子の名前、まだ聞いてないな。このゲームの内容もどんなのなんだろう?帰って来たら、聞いてみないと。
そんなことを考えながら、ポスターを再度見る。
MIRROR WORLD_鏡の世界。うーん、タイトルだけじゃ、よく分かんないな。
「お待たせ!ダウンロードは終わったかな?」
データのダウンロードが終わったタイミングで、むこうもコンビニから帰って来たみたいだった。
「うん、ちょうど終わったよ。」そうだ、とりあえず名前を聞かないと。
「あの…。今更かもしれないけど、名前教えてくれないかな?制服で同じ学校なのは分かるんだけど…。私は1年4組の金森華奈。」
「……あぁ、名前忘れてたね。私は…1年1組の鏡ミラと言います。」
鏡ミラ、珍しい名前だな。
…そうだ、後これも聞かないと!
「よろしくね!後さ、これも今更かもしれないんだけど、このゲームってどんな話なの?」
「うーん。もう説明するより、体験してもらった方が早いかな。」
それもそっか。まぁ、内容を事前に知っていても面白くないかも。ネタバレになっちゃうよね。
「だから、今からMIRROR WORLDにいかない?」
確かに、実際にいってみるのが1番分かりやすそうだと「うん。」とうなずく。
って…ん? 思わずうなずいちゃったけど、どういうことだろう。ミラーワールドに行くって?あれ、ミラーワールドってゲームのことだよね。行くだからゲームの世界に行くってこと?…なんかよく分かんなくなってきた。
うーん、と首をひねっていると、むこうも「まさか、こんな簡単にいくとは…」と同じポーズをしていた。
_しばらく沈黙が流れた
先に口を開いたのは、むこうの方だった。
「…まぁ、同意が得られたのでいいでしょう。」
同意ってなんだろう?もしかしてさっきの?
後、なんでいきなり敬語?
その言葉の意味をたずねようとしたが_もう遅かった。
「いってらっしゃい。」と言われて、視界が真っ白に染まる。
横にあるポスターも、目の前に居たミラも、何もかもが白くなって、見えなくなる。
そうしている内に、どこかからぐにゃりと音が聞こえて___ナニかが反転した。
体が熱い。左腕がじんじんと痛む。それとは反対に、意識の方はどんどん薄くなっていく。
そういえば…。私は、いってらっしゃいと言ったあの子の表情を思い出す。
抜き打ちで単語テストの紙を配る先生みたいな顔をしてたな。少し意地悪で、何かを試すような…。
そうしてとうとう周りは白から黒へと変わり、私は意識を失った。




