第八碌「行ってきます」
次の日、オーギュストは自分の父に旅路の話を持ち掛けた。
彼は静かに聞いた後、しっかりと頷いて見せる。
「分かった、とりあえず今やってる仕事に関しては俺に任せておけ。 んで、お前はお前でしっかり証拠押さえてこい」
「おう、爺や・・・、ギダンスから魔道具の技術を教わるのも後になるな。 おそらくだが、この旅路にあいつも付いて来るだろうし」
ついこの間、ギダンスの事について相談もしていたので、この件は延期になるであろう事も告げた。
すると父は「そうか、まあ仕方ねぇか」と少し残念がったが、納得の表情をする。
そこでふと、オーギュストはある事を思い出した。
「そういや、うちから職人派遣してるのに、あそこと転移魔陣は繋いでなかったんだな」
そう、自国から職人を長期に派遣するほどなのに転移魔陣が繋がっていなかった事だ。
それがあれば、少なからずとも繋がりがあったのかと理解できたはずなので、オーギュストは不思議に思って父に尋ねた。
「まあな。 ・・・噂とかあったしよ、色々と懸念して荷物専用の転移魔陣だけにしたんだ」
転移魔陣には『人用』と『荷物用』の二種に分かれている。
なので、人は馬車移動で、荷物は転移魔陣で運んだようだ。
「けど、ラルムが来た時はあっさりと許したじゃねぇか」
確かに懸念する理由は分かるが、ラルムが転移魔陣を設置した時は何も言わなかった事をオーギュストは続いて突く。
すると、彼は頭を搔いてから苦笑いをして。
「・・・だな、なんだか噂通りのお嬢ちゃんではなさそうだと思ったからだからだな」
「・・・そうだな」
父の答えを聞いて、オーギュストは頷く。
ついでに長期派遣した職人たちは心配ではなかったのかと少し聞くと、父は定期的に手紙での連絡や監査として近くの国に従者を置いて確認していたらしい。
ちなみにこれも向こうとは合意済だとか、オーギュストは話を聞いてそんな状況だったのかと独りでに納得した。
というわけで、上記の話を持ってラルムの城へと訪れる。
彼女とギダンスを交えて、二人から理解と了承の返事を得た。
それから準備等があり、数日後。
ラルムとギダンスが転移魔陣を使ってオーギュストの城へ行き、彼の領土から第一地方都市へと向かう事になった。
彼の城から出て、城下を歩き、門の付近まで訪れる。
するとそこには以前に見た、そして乗った馬車と同じものが待機されていた。
「馬車はこれだ、御者はギダンスがするってことだが大丈夫か?」
「ええ、心得はありますのでご安心を。 それにしてもこちらの馬車を触らせていただける日が来るとは、光栄ですなぁ」
「・・・んな立派なモンでもねぇよ」
ホッホッホ、と聞きなれてきた笑い声を発しながら褒めてくるギダンスにオーギュストは気恥ずかしさを感じる。
技術を褒められるのは嬉しいが、慣れないだけむずがゆい感じがまだ抜けないのだ。
「ほら、ラルム」
「・・・!」
馬車へと彼女をエスコートするために、扉を開けて乗るための補助して手を差し出す。
ラルムは少し戸惑いを見せたあと、おそるおそると手を乗せて、馬車の中へと入っていった。
「じゃあ、運転を頼む」
「お任せを、オーギュスト様はお嬢様をよろしくお願いいたします」
「おう・・・?」
話し相手になってくれ、という事だろうか。
オーギュストはそんな事を思いながら返事をし、自分も中へと乗り込んで扉を閉めた。
乗り込んでから数秒後、馬車はギダンスの手によってゆっくりと動き出す。
そして向かい合って座っている二人の間には、沈黙が流れていた。
(なんか話せって言ったってな・・・)
いや、ギダンスはそんな事は言ってなかったが、頼むと言われたからには何かせねば。
オーギュストはそう考えつつ、話題を探していた。
一方でラルムはラルムで落ち着かない、妙に彼を意識してしまっている。
初めて邂逅した日、彼の城へ挨拶へ行った日、それらはただ彼を助けないとという使命感が強く、あまり意識をしていなかった。
けれど、今はその使命感は薄くなったせいか、視線が気になる。
馬車に乗る時の手も、意識してしまい、少し緊張からか震えてしまったような気もしていた。
「・・・ラルム」
「・・・! な、なんだっ?」
声をかけられ、少し肩が震える
返事をする際は、声が上ずらないように気を付けたが、どうだっただろうか。
「これから行く第一地方都市『プルヴォワール』だが、そこでは"恵雨"の時期が長引いているらしい」
恵雨、とは。
一年間、温暖な気候の中で唯一、一ヵ月から二ヵ月ほど雨が穏やかに降る期間の事だ。
この時期に振る雨のタイミングがまさに良く、この雨のおかげで水に対して、まさに恵まれているのである。
「んで、その長引いてる都市で最もひどいのが・・・」
オーギュストは席を立ち、ラルムの隣に座り直す。
理由はバサッと地図を広げ、彼女に場所を教えるためだ。
「・・・!!」
「・・・?」
(ち、近い、肩が・・・触れ、そう)
意図しない急接近に、ラルムは固まってしまう。
一方で、いつものように無表情に近い顔ではあるものの、どこか固まっている気配だけは感じ取れたオーギュストは疑問符を浮かべる。
「・・・おい」
どうした、と続けようとした。
直後、穏やかに揺れていた馬車が急に止まり、言葉が消える。
「・・・──お嬢様! 魔物です!」
そしてすぐ、御者をしていたギダンスが声を上げて状況を教えてくれた。
その言葉を聞いたラルムは、目の色を変えて馬車から飛び出して行く。
オーギュストも数歩、遅れて馬車から飛び出せば、そこには空中に舞いながら帯刀していたブロードソードを抜いて中型の亀に似た魔物に向かっている彼女がいた。
「あれは風の力を利用して空中を移動する足鎧の魔道具でございます、ちなみにお嬢様がお使いになっているブロードソードも魔道具ですぞ」
「・・・お前は応戦しなくていいのか?」
「私はここにて馬と馬車、オーギュスト様をお守りする責務がございます故。 それに、何から何までお守りするというのも正解ではございませんからなぁ」
のんびりとした口調で話すギダンスだが、視線は魔物とラルムから一切、離さない。
そしていつでも抜けるようにと、自分のエストックに手をかけて、警戒も臨戦態勢も怠っていなかった。
「硬いな・・・!」
ラルムは何度か魔物の頭や手足あたりを突いたが、まるでそこも甲羅であるかのように強固だ。
そして一瞬にして魔物の死角に入り、今度は首を突いた。
「・・・!」
すると、少しだけだが手応えと傷が出来た事を確認する。
どうやら首の一部分は刃が通るようだと、確信を得た。
(なら・・・!)
ラルムはブロードソードに魔力を込める、するとブロードソードの刃が細身のそれから変化する。
その刃はまるで、『断頭台』の刃そのものだ。
「・・・はあっ!」
刃が変化した直後、ラルムは空中を一回転して威力を付け、魔物の首を一刀両断した。
魔物は断末魔をあげる事もできず、絶命し、魔力の屑となって散り去る。
オーギュストは初めて見るラルムの戦闘に、その強さに、驚きを隠せないでいた。
だが同時に、あの家業を背負うだけの力量だとも納得もしている自分がいる。
「・・・なあ、あれだけの魔力を使って、あいつは大丈夫なのか?」
オーギュストはギダンスに、質問を投げた。
魔力とは生命力に直結している、故に使いすぎると生命維持に支障をきたす場合があるのだ。
あの刃の魔力は非戦闘員のオーギュストであっても、かなりの魔力を使っている事が見て取れた。
そのため、彼女を少し心配しての質問だ。
「魔力は筋肉と同様、鍛えれば膨れ上がりますからね。 ホッホッホ、お嬢様の魔力はなかなかにマッスルですぞ?」
「・・・そうかよ」
心配の質問に茶目っ気が混じられた返答が来たため、オーギュストは脱力感を覚えながら素っ気なく返した。
二人が会話していると、辺りを見渡して残党の魔物がいないか確認していたラルムがこちらへと戻ってくるのが見える。
「オーギュスト! 怪我はないか?」
「・・・いや、それは俺の台詞だろ」
「?」
「・・・お前こそ怪我はないか、ってことだよ」
「・・・! 心配してくれるのか、ありがとう。 見ての通りピンピンだ」
何故か力こぶを作るポーズをして、自分の無事をアピールする彼女。
この変な茶目っ気というか、お惚け感というべきか、どこぞの爺やに似ているとオーギュストは既視感を覚えた。
「ふむ、では行きますか。 あと少しでオーギュスト様の領土を出ますぞ」
ギダンスの言葉に二人は頷き、馬車へと乗り込む。
そうしてしばらく少し鬱蒼とした木々の間を抜け、明るい場所へと出た。
「ん、ウチの領土を抜けたな」
オーギュストが静かにそう言うと、ラルムは窓の外を見る。
後ろを見やると小さくなっていく木々たち、おそらくあの木々との境目が領土を分けているのだろう。
「・・・行ってきます」
誰に対してか分からないが、ラルムはそう静かに呟いた。
ここから始まるのだ、それぞれの旅路が。
ラルムは、オーギュストを助けるために。
オーギュストは、ラルムを知るために。
ギダンスは、そんな二人の行く末を見守りに。
もちろん、第五地方都市について調べる事については共通の理由だ。
けれどそれ以外に、三者三様の理由を持って、この旅路を行くのだった。




