【蛇足=カーテンコール】:エピローグ
本編の怪異ファンタジー的な終わり方に不完全燃焼を感ぜられる方に、この蛇足をお送りします。
前話でご満足頂けた方は、読まない方が良いかも知れません。
その組織、それが宇宙人だか、悪の結社だか、マッドサイエンティストと組んだ何処かの国か、あるいはAIの暴走に乗せられた連中かは、ここでは本質ではない。
ともかく、その組織の「我々」が、人類だか日本人だか、はたまた件の地方都市だけかは分からないが、そこを支配=植民地化しようとした。
秘密の組織や宇宙人の、定番のお話である。
侵略にしろ、支配にしろ、力ずく、とりわけ武力を使うのは最善手ではない。恨みと因縁を残すからだ。
特に近年は、大国の経済力や軍事力による「平和」支配にすら、人々は反感を露にするようになっている。
そんな今だからこそチャンスなのだ。潜在思考の誘導による支配が。
目標は、若い世代を順次、時間をかけて、奴隷的思考を持つように洗脳すること。
一般人が、「奴隷役」「囚人役」を演技するだけで、行動が奴隷化、囚人化することは、スタンフォード大学の有名な実験で分かっている。
ならば、実際に身柄を拘束して、同様のストレスを与えたら、社畜を超える奴隷根性の育成も可能だろう。
鍵は、時間をかける為に、拘束を回りに露見させないことだ。
それも、目標となる「35歳以下の人口の3分の1」を達成するまで、秘密を維持する事。
さすれば、残りを多数決で支配するのは簡単だろう。
問題は二つ。
一つは、施設の関係で、同時に拘束・洗脳できるのが、現時点で100人程度ということ。
一人当たりに費やす時間が1週間で済んだとしても、年に5千人が限界だ。
もっとも、これは作戦が進めば増やす事は可能だろう。
もう一つは、誘拐そのものを露見させないこと。
こちらは、誘拐した直後に、リアルに見える立体投影で入れ替えることで対応する予定で、そのための技術も開発した。
しかし、どこまで騙せるかは、ホログラムの実地試験をしないと分からない。
そこで目をつけたのが、この学校だった。地下が新しい堆積地で、掘りやすかったからだ。
侵入先は日常生活。
それに先立つ誘拐は、落とし穴をつかう。
あらかじめ、一階の廊下やトイレ、校庭の死角に落とし穴を掘っておいて、そこに対象の人物を誘導するのだ。
一人目だけは、偶然、誰かが一人でいる時に、落とし穴の上を歩くのを待つことになるが。
落とし穴からは、滑り台にのように地下深くの洗脳室に送り込む。
途中で催眠ガスをかがせながら。
実行は文化祭の翌週。浮かれが残った状態なら、騙しやすいはずだ。
こうして、作戦ベータ版の実地試験が始まった【著者注:第3幕】。
朝、漫画花壇に一人で向かっている女子を入れ替えた。
教室に入っても気付かれなかった。
とはいえ完璧ではなかった。
一つ目の問題(改善点)は、我々の『学校シミュレーター』で使っている「キンコン カンコーン」を鳴らした直後に出た。
『学校シミュレーター』によれば、生徒達が、きちんと前を向く合図だ。
なのに、教室内のほとんどが突然そわそわし始めたのだ。
その結果、回りと同様の行動を起こすべきなのに、シミュレーターに従ったAIホログラムは実行出来なかった。
それでも、ホログラムに気付いたらしい生徒は少数派だった。
教師とかは全然気付いていないみたいなので、試験を続行した。
その際、誘拐のついでに、昼の放送や放課後の部活をホログラムで再現させたりもした。
もっとも、これはアウトだったらしい。
この手の昼の放送は、漫画の世界だけで通じる内容で、現実の学校、特にこの学校では有り得ないということを学んだ。
幸いにして、この時の入れ替えも騒ぎになることはなかった。
だから、条件付きながらも、初日は成功と言えるだろう。
誘拐した連中は、暗示(=普通の一日だったという記憶)をかけて放課後に解放した。家族だと、本人でないことが露見し兼ねないし、何より、拘束は昼だけで十分だからだ。
そのかわり、暗示には、翌朝の登校経路も入れてある。
何だか分からない、覚えていないもの、その確認に、ひとりで落とし穴に向かわせるという暗示だ。
こうして、大半の『被験者』は、翌日もAIホログラムに入れ替わった。洗脳の延長である。
この時点で、AIは、前日よりも、この学校というものを学んでいる筈だ。
だが、2日目の朝に問題が露呈した。それは、クラス内で朝に開かれた「対策会議」に、かなりの数の生徒が集まったということだ。
初日の入れ替えに、少なくともその数の生徒が気付いていたという事実。それが、遅かりしながらも判明した。
そして、対策会議の成果だろうか、その日も行なった新たな誘拐・入れ替えは、対策会議に参加した連中には出来なかった。
連中はAIホログラムによる誘導や暗示に引っかからないのだ。
だから、落とし穴に連れて行く事も出来ない。
逆に、疑惑を強める結果に終わった。
我々は認めなければならない。AIホログラムに、まだまだ改良の余地があるということを。
実験は中断だ。我々の存在は隠し続けなければならない。
中断を決めた最後の決め手は、生徒のひとり(我々は主人公と呼んでいる)が花壇の一部を掘り始めたことだ。
場所は漫画花壇の横。
文化祭の風情のために残していた、秋の枯花を抜いて、すっきりさせるためらしい。
「よし、これで、ここにも漫花壇を作れるぞ」
とか言っている。
その近くには落とし穴と、そこから続く秘密基地があり、今後も作業を続けられると露見の可能性がある。
しかも、こいつを落とし穴に落とそうにも、直前に男女ひとりずつを落とした直後で、その日は許容量オーバーだった。
翌日は、見事に落とし穴を避けて歩いていた。
こいつが掘り続けなかった幸運に感謝するのみ。
逆にいえば、本作戦を実行する前に、この手の対策をも立てなければならないということだ。
ともあれ、今は露見を避けるのが先決だ。
落とし穴と秘密基地は、数日かけて「原状回復」させた。
実験の中断後も、問題が残っていた。
朝の「対策会議」の参加者、すなわち、ホログラムによる入れ替えに気付いた連中の記憶だ。
記憶消去は、散髪やマッサージなどのサービスを彼らが受ける時に、少しづつ進め、最後に残ったのが「主人公」だった。
頭が固いのか、上手くいかないのだ。
そこで、文化祭の翌週ではなく、文化祭直後の打ち上げの記憶を加えることにした。
我々の世界では記憶を消す技術よりも、記憶を加える方の技術のほうが進んでいる。
何かを隠したいなら、その近くにもっと大きな謎を加える。
陰謀の常識だろう。
幸い「主人公」を観測し続けたお陰で、ホログラムに入れ替えられるような体験…虹と夕焼け雲…があるらしいことを我々は知っている。
我々のホログラム技術は、その初期は、虹(屈折)と雲(反射・散乱)で形を作る所から始まり、形の中心にオーロラと同じ原理の発光源を置くことで、外からの可視光なしでも形が維持出来るようにした。
今ではもっと多くの技術を使っているが、虹や夕焼け雲は、主人公でもホログラムを連想できるだろう。
ならば、主人公の体験を元に、ホログラムの記憶を植え付けるのは、難しくない。
そうして、そホログラム満載の多重記憶に陥らせる。
そうなれば、ホログラムの記憶の全てを勘違いだと思うだろう。
記憶追加の隙を作るために、彼の義弟をターゲットに、AI配信も行なった【著者注:終-2場】。
そして、同窓会という絶好の機会を得た我々は、仕上げに「郷土の地理史オタク」を教育した。
理史の知識の多くは我々が与えたものだ。
結果は上々で、20年以上かけて、やっと彼に、ホログラムを「捏造された記憶」だと認識させることに成功したのである。
「主人公」への対策の副産物もある。
人類を支配・傀儡化するなら、誘拐とホログラム入れ替えという面倒くさいことをするよりも、配信で「いいね」「共感」を得る方が早いということだ。
(おわり)
あとがき
O. ヘンリーの短編の中で私の好きな作品に、石鹸王の息子が渋滞に巻き込まれたお陰で幸運を得る話がありまして、気に入った理由は、その結末にあります。そこで、いつか似た結末を書きたいと思った結果、このようなエピローグとなってしまいました。本編の雰囲気を壊し、申し訳ありません。
SFをやめられなかったのです。
この蛇足ですが、第3幕の最後のすぐ後ろに持ってくれば、「夏のホラー」期間内に終わった筈ですが、それでは説明が余りに足りずに、軽い気持ちで謎解きの最終幕を加えた結果、蛇足として弾きだされてしまいました。
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ともあれ、これで本編完結です。
本来なら短編の企画(と信じてます)にも関わらず、4万文字以上(予定の3倍)もご拝読頂き、ありがとうございました。
番外編の予定ですが、とりあえず第2幕の第3-4場で、商店街の設定の伏線をもっと回収したいと思います。(回収する予定で書きはじめたら、別の流れを思いついて、そっちにしてしまった。)
他にエビローグ(表)として、氏子さんの話も加えられたら、とは思います。
あと、うまく纏まりそうな案が固まったら、第4幕を(これまた番外編として)加えるかも知れません。




